【本庄照擬態杯】09窓際の番犬【制作裏話】
こちらは南雲皋さん主催の『匿名短文おバカ上司企画』またの名を『本庄照擬態杯』参加作品に関する制作裏話です。
匿名短文おバカ上司企画(+本庄照擬態杯) - カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/16818093085544010627
擬態ポイントについては以下のツリーで詳しく語っていたので
ツイートに書いてないことを、つらつら思いつくまま書いてみようと思います。
「窓際の番犬」の初稿は、擬態杯の手引きと元神童企画だけ読んだ状態で一度書き上げてました。
過去作の短編も一通り読み、大きくずれてはなさそうだったので、本庄さんのヘキを打ち抜くために調整を加えたのが提出稿です。
調整内容は主に「莉子のキャラ立て」です。有賀をボンボンにしてもよかったんですが、私の心の中の本庄照センサーが莉子でもいけると囁いたので。
あまりにも文字数制限が辛く、莉子の感情面は擬態レベルを下げ、得意な作風に引き寄せて文字数を削減することにしました。
秘儀・匂わせ。
みなまで言わずともわかんだろ?
……ミステリにはあるまじき邪道。
それでも文字数を割く以上、本筋の明瞭さには皺寄せがいきますが、背に腹はかえられません。
仮に本庄さんらしくなさが滲み出たとしても。
ミステリとしての完成度が落ちたとしても。
本庄さんに捧げるために参加しているのだから、
本庄さんのヘキを打ち抜かずしてどうする――
『どちらが面白いかではない、どちらが本庄さんかだ。』?
甘いな。
『どちらが本庄さんのヘキかだ。』!!!
ヘキ早見表になくとも、一芸持ちの愛されおじさんと訳ありシゴデキ女子の男女バディはヘキだと踏みました。私のヘキがそう言っていたので。
すみません真面目な制作裏話に戻ります。ハイ。
視点に「三人称一元」を採用した理由は、代名詞を減らした方が本庄さんっぽくみえるのと、キャラを立てる小道具として「莉子」という女性名を使いたかったからです。
下の名前やちゃん付けで呼ばせるといやらしさや幼さが出てストイックなキャラに合わないので、主観の地の文だけ。
上司からは「葛原くん」呼び。いまどきは「葛原さん」の方が一般的ですが、上下関係がハッキリするし、庶務的なOLではなく男性部下に混じってエース争いをするバリキャリ女子の副官っぽさが出る気がするので「葛原くん」にしました。
逆に有賀の方は親しみやすさと莉子の抑えた反発心を表すために「有賀さん」です。男性として意識されているわけではないので地の文でも「帯人」とは呼ばないし、役職名も使いません。彼が課長でも部長でも本部長でも話の筋に関係ないのでいいかなと。
部長とか同僚とかモブは個人名を出さずに記号化。これは本庄さんもよく使われてる手法ですね。
書き出す前に考えてた初期設定だと、莉子のポジションは男でした。男性名が浮かばず女性で書き出してみたらしっくりきたので、そこから男女バディに方針転換。
男ver.のイメージは『十六夜荘ノート』の雅哉です。
無自覚に不遜で視野が狭い、仕事はできるけど尖りまくり、対人関係のリスクは歯牙にもかけず、実力でねじ伏せてきたタイプ。
莉子にも傾向は受け継がれてますが、こういうキャラは男女で描き方も印象も変わりますね。
同じ「一千万プレイヤー」にしても、男の場合はそれほど特別感がない通過点であり実績や自尊心の象徴ですが、女の場合は到達点として掲げる自立心や反骨精神の象徴になります。そこまで野心バリバリの女性は珍しいので、特殊なバックボーンも想像されてくる。逆に男性であれば既定路線から外れた転落やコンプレックスが引き立つ。みたいな。
従業員が一千万プレイヤー目指すような企業なら(機会平等の観点は別として)表立って性別で評価に差がつくことは少ないとは思いますが、絶対数として希少なのでイメージの差は大きい。
男ver.でも上司は男です。ただし二人の年齢差は少なめ(その方がしんどいからね!)でおバカ上司に「子供時代のヒーロー」という設定がつきます。かつては勉強ができなくてもバカなことを思いついて実行すればヒエラルキー最上位にいられた。だんだんと大人になり、いつまでバカやってんだとシラけた目で見られ、道化に徹して笑われながら生きている。そこに過去を知る主人公が部下として左遷されてくるというシチュエーション。
雛形は同じでも、有賀と莉子とはまったくちがう関係性になります。
こちらのパターンの場合、光の本庄さんではなく闇の本庄さんのヘキを打ち抜きにいきます。
男同士の拗れた感情おいしいですよね!
誰か書いてくれてもいいんですよ( '༥' )ŧ‹”ŧ‹”
現実のバカっぽい上司はガワだけで本性は有能すぎて怖いことも多いんですが、有賀は裏表のない人畜無害なバカです。
他の誰かが人身御供にされればメンタルを病む場面でもニコニコと「世の中いい人しかいないなあ」と本気で思っていられるのが彼の真価であり、いそうでいない現実離れした特徴。
話は通じないわ絆されるわ、有賀に対して怒りのポーズを保ちつづければならない相手が気の毒になるほどの、神がかった防波堤。ゆえに番犬。
外からくる脅威を止める他に、窓際に送られた退職手前の社員を引き止めるという意味もかかってます。
世渡りにおける「無敵」とは、傷つかない鋼のメンタルと敵も味方にする愛され力なんじゃないかと思うんですよ。
社内政治でも向かうところ敵なし。
上や横には恩をばら撒き、下には愛される。
言われたことは素直に聞く性格で、日々のやらかしは有能な部下さえつけとけば解決可能。
しかも偉くなればなるほど謝り役としての効果が上がる。
そんな人材、出世するに決まってる。
ということは、莉子が一千万プレイヤーになる日も近い、かもしれない。
ちなみに有賀の「仲良し」に対する「お願い」には「窮地を救ってやったの覚えてるよな」という圧が自動的にくっついてきます。本人は無自覚なので「みんな優しいなあ」としか思っていません。さらっと人事権を握っている強さも理解してません。
「失敗したって私が頭を下げればいいだけだから」は歴代上司に言われて痺れた台詞No.1です。
書いといてあれですが、有賀の「ありがたさ」がすんなりと理解されてしまうあたり、みなさん苦労されているのだなと……。
働いていれば誰しもやらかしたり理不尽な怒りに晒されたりする日が来る。そんなときに盾になって場を収めてくれる人は控えめに言って神です。こんなありがたい人はいません。ありがたいひと。有賀帯人。ええ私はこういうことするから本庄本家になれません。