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WSBKコンセッション2021-2022・各メーカーはいつ何をアップデートできていたのか?

 前回に引き続き、WSBKにおけるコンセッションルールに基づいて各社がいつどれだけのアップデートが行えたかを考察していきたいと思います。今回は2021年から2022年までです。当初2回に分けるつもりでしたが2022年が予想以上に長くなってしまったので2023年は次回扱います。

2021年

レギュレーション変更

 この年、一部レギュレーションが変更されており、スーパーポールレースがコンセッションポイントの加点対象から除外されました。c)の条文に『スーパーポールレースを除く』と括弧書きで追加されています。

2.4.3 コンセッション
c) スーパーバイク第1レースおよび第2レース(スーパーポールレースを除く)において、以下のようにポイントが与えられる:
 i) 1位 = 3コンセッションポイント
 ii) 2位 = 2コンセッションポイント
 iii) 3位 = 1コンセッションポイント

FIM Superbike, Supersport & Supersport 300
World Championships Regulations 2021

 この年はコンセッション情報が公開されています。以下は最終戦レース2の公式リザルトAll PDFの最終ページです。

Pirelli Indonesian Round, 19-21 November 2021 Results Race 2

 この表は公式リザルトでありながら大きな問題があります。レギュレーション上コンセッションポイントの加点対象はドライレースだけなのですが、下段の集計結果ではウェットレースも対象になってしまっています。2021年はウェット宣言されたレースが少なくありません。開幕戦アラゴンのスーパーポールレースとレース2、第4戦ドニントンのレース1とスーパーポールレース、第9戦カタルーニャのレース1、第11戦ポルティマオのスーパーポールレース、最終戦マンダリカのレース2がウェットコンディションで行われたのですが、公式リザルトの表ではこれらのレース結果が加点・集計されてしまっているのです。また、これは問題ではないのですがレギュレーションではスーパーポールレースがコンセッションポイントの加点対象外となっているにも関わらず、リザルトのコンセッション情報では別枠で集計されています。当時のFIMおよびドルナはSPレースをコンセッションポイントの対象にするかしないかで迷っていたのかもしれません。

シーズン中のアップデート可否

 下表は2019年・2020年同様、3大会毎と年間のコンセッションポイントを集計したものです。レギュレーションに従い、ウェットレースとスーパーポールレースは除外しています。

 この年は上位3社の成績が非常に接近していたこともあって、ヤマハ、ドゥカティ、カワサキの3社は年間通してコンセッションのアップデートが行えなかったことがわかります。そして、御存知の通り、この年はジョナサン・レイとカワサキのタイトル連覇についにストップが掛かった年でもあります。これにはカワサキがこの年から投入した新型ZX-10RRがレブリミットの変更を認められなかったことが少なからず影響していたでしょう。ですが、カワサキはスーパーポールレースの勝利数が全11レース(第10戦ヘレスと最終第13戦マンダリカはSPレースキャンセル)中6勝と群を抜いています。言い換えればその分レース1・レース2(メインレース)の成績が振るわなかったということです。この頃には周回数の多いメインレースにも本来10周のスーパーポールレース用として作られた、コンパウンドの柔らかいSCXリアタイヤが使われることが多くなっていましたが、このSCXタイヤを最後まで保たせる、あるいはレース後半消耗した状態で速く走らせることにおいてカワサキはヤマハとドゥカティに遅れを取っていました。カワサキは周回数が10周と短くタイヤライフの心配の無いスーパーポールレースではまだ強さを発揮できたものの、周回数の多いメインレースでは終盤タイヤが持たずに後退するか、最初からワンランク固いSC0タイヤを使用せざるを得ず、ヤマハやドゥカティのペースに対抗できないレースが少なくなかったのです。この傾向は翌年以降さらに強まっていたので、例えレブリミットが見直されていたとしてもレイとカワサキの連覇は厳しかったでしょう。

 この年は年間通してレブリミットの変更は行われていません。BMWとホンダにはシーズン中のアップデートが認められましたが新しいコンセッションパーツを導入したかどうかは不明です。一点気になるのが開幕直前にレブリミットの変更が認められなかったカワサキに対して、シーズン中のコンセッションパーツのアップデートが認められたかどうかです。前述の通り、カワサキはシーズン中のコンセッションアップデート対象になっていないのですが、レギュレーションの以下の条文からFIMとドルナの裁量によってアップデートが認められていた可能性があります。

2.4.3 コンセッション
h) FIM/DORNAは、シリーズに新規参入するマニュファクチャラー、または新しい設計のエンジンを搭載したバイクの新規ホモロゲーションに対して、その裁量により、シーズン中にさらに1回のコンセッションパーツのアップデートを認める権利を有する。

FIM Superbike, Supersport & Supersport 300
World Championships Regulations 2021

 御存知の通り、この年のカワサキは新たに投入した新型ZX-10RRがエンジンの変更点が少ないことを理由にレブリミットの変更が認められず、前年と同じ14,600rpmが適用されています。ですが、カワサキは15,100rpmが適用されることを前提に新型用のカムシャフトを開発しています。当時のジョナサン・レイはインタビューに対し最高出力は14,600rpmよりも低い回転数で発生しているから影響は少ないと答えていましたが、最高出力の発生回転数からレブリミットまで回せる範囲が狭くなれば発生できる出力を使い切るのが難しくなります。仮に14,400rpmで最高出力が発生していたのであれば、そこからさらに回せるのはわずか200rpm、これではシフトダウンの時など少なくない影響があったはずです。カワサキはこの年オフシーズンのコンセッションアップデートの権利も得られていないので、もしこれが認められなかったのであれば翌年もかなりの苦戦を強いられていたことになります。

オフシーズンのアップデート可否

 オフシーズンのコンセッションパーツアップデートはBMWとホンダに認められていました。ホンダは翌年CBR1000RR-Rをマイナーチェンジします。エンジンの変更内容は吸気ポートの内径を若干縮小するという小規模なものだったので、これをFIMが新型と認定したかどうかは不明ですが、前述の通り、オフシーズンのアップデート権は得ていたのでいずれにせよアップデートは行えました。ホンダのモデルチェンジはピーキーだったエンジンの特性を改善すべく中低速域を強化する方向で行われたので、WSBK参戦車両も扱いやすさを改善する方向の開発がされていたと考えられます。

 ドゥカティ、ヤマハ、カワサキの3社はシーズン中同様、オフシーズンのコンセッションパーツのアップデートは認められなかったので、2022年は2021年と同じカムシャフトを使用していたことになります。

2022年

6月のレギュレーション変更

 この年はシーズン中に2度、レギュレーションが改定されています。6月15日の改定でコンセッションルールが一部変更され、さらに10月22日の改定で大規模な変更が行われました。まずは6月の改定内容から見ていきましょう。6月15日の時点では以下の条文が変更されています。

2.4.3 コンセッション
e) 第1~3戦終了時:
 i) コンセッションポイントが最も多いメーカーより9ポイント以上少ないメーカーは、シーズン中にコンセッションパーツのアップデートを1回行うことを任意に選択できる。このパーツは同時に導入されなければならない。
f) シーズン終了時に、最もコンセッションポイントの多いメーカーより36ポイント以上少ないメーカーは、翌シーズンのコンセッションパーツを更新することができる。これをアップデートトークンという。
g) アップデートトークンは、シーズン中に累積される。未使用のシーズン中のアップデートは、e.のトークンに追加することができる。ラウンド4以降に獲得したコンセッションポイントは、シーズン中のアップデートに使用することができる。シーズン中に使用できるトークンは1つだけである(つまり、トークンは1つしか持ち越せない)。

2022 FIM Superbike, Supersport & Supersport 300
World Championships Regulations
update 15 June 2022

 この6月の改定で初めてトークンという単語が登場しています。この時点では単純にアップデートの権利の有無を示しているようです。g)の条文が大きく変わっていますが、またしても解釈に悩んでしまう内容です。『シーズン中に使用できるトークンは1つだけである』のに『アップデートトークンはシーズン中に累積される』というのはどういう意味でしょうか。また、『未使用のシーズン中のアップデートは、e.のトークンに追加することができる。』については『e.』が条文のe)を指しているように読めますが、e)の条文は第3戦終了時なので意味が通じません。これはおそらく誤記で、正しくはf)の条文を指しているのではないでしょうか。シーズン中のアップデート権を得ていながら未使用だった場合にそれをオフシーズンのアップデートトークンとして使用できる、という意味なら辻褄が合います。また、トークンが累積できるのにシーズン中に1つしか使用できない件についてはトークンの累積が2つ以上になってもシーズン中のアップデートには1つしか使用できず、残りはオフシーズンのアップデート用として利用できる、と言う意味だと解釈できます。ひとまず今回は以後この解釈に基づいて話を進めます。

シーズン中のアップデート可否

 2022年は最終戦のリザルトにはコンセッション情報が無いのですが、その一つ前、第11戦インドネシアまでは記載されていました。以下はインドネシアレース2のリザルト最終ページのコンセッション情報です。

Pirelli Indonesian Round, 11-13 November 2022 Results Race 2

 この年、ウェットコンディションで行われたメインレースは最終戦フィリップアイランドのレース1のみです。ただ、SPレースは第3戦エストリルとフィリプアイランドがウェットコンディションで行われており、加点対象外とはいえエストリルSPレースの結果が集計対象になってしまっています。なぜレギュレーションに沿っていない集計結果を残しているのか疑問に思えます。また、10月のレギュレーション改定でコンセッションポイントの配点が大きく変わっているにも関わらずそれが反映されていません。

 以下の表は2022年のコンセッションポイントを集計したものですが、前述の通り、この年10月22日にレギュレーションが改定されています。2022年10月22日はこの年の第10戦アルゼンチン、レース1が行われた日で、これが公開されたのは10月19日です。なので第10戦以降はこの新レギュレーションを適用すべきでしょう。レギュレーションの改定によりコンセッションルールは大きく変わっているので、第9戦までを改定前のレギュレーションに基づいて集計しています。

 2022年は前半戦はドゥカティのバウティスタ、ヤマハのラズガットリオグル、カワサキのレイの三つ巴だったこともあり、第3戦、第6戦各終了時はドゥカティ、ヤマハ、カワサキの3社がアップデート不可、BMWとホンダがアップデート可能でしたが、シーズン半ば以降はドゥカティのバウティスタが抜け出たこともあって第9戦終了時にはヤマハとカワサキもアップデートの権利を得ていたことになります。ただ、時期的には残り3大会を残すのみでエンジンの残数を考えると年内にアップデートが行えたかどうかは疑問です。なのでこのアップデート権はオフシーズンに使用していたのではないでしょうか。

10月のレギュレーション変更

 前述の通り、この年の10月22日付けでレギュレーションが変更され、コンセッションルールは全面改訂と言っても良い程に大幅改定されています。この改定でコンセッションルールは大幅に複雑化、文字数も何倍にも増えており、引用では読みづらくなってしまうので条文は別記事にしています。

 変更内容は多岐に渡るのですが、コンセッションの適用判定がコンセッションポイントだけではなく、ラップタイムからメーカー間パフォーマンスを比較、算出したトークン(6月改定時の「トークン」とは全く異なるものです)との組み合わせで行われるようになったことと、スーパーコンセッションパーツが導入されたことが最大の違いと言えるでしょう。コンセッションポイントもこれまでは上位3位までを加点対象としていたのを上位5位までに拡大、コンセッションポイントも1位5pt〜5位1ptへと配点が変更されました。また、チェックポイントの概念が導入され、3大会毎にコンセッションポイントとトークンを集計してアップデートの可否を判定するようになっています。

 コンセッションポイントだけではなく、トークンとの組み合わせでコンセッションの対象を判定するようになったのは、単に着順だけでは評価できないメーカー間の差があるためでしょう。これまでは接戦のレースと独走のレースの違いが考慮されておらず、メーカー間のパフォーマンス差が正確に反映されていませんでした。

 一定以上の成績を上げたメーカーがコンセッションの対象から除外されるようになったのはこの時の改定からです。この改定以降ドライコンディションのメインレースで2勝以上するとシーズン中はコンセッションの対象から除外されるようになりました。ただ、オフシーズンのアップデートはこの限りではありません。

 これまではウェットレースは集計の対象外とするだけでしたが、この改定からチェックポイント内にウェットレースやキャンセルされたレースがあった場合、4レース以上がドライコンディションで行われていれば6レース相当に換算する様になりました。

 コンセッションで得られるアップデートの範囲も拡大されました。これまではカムシャフトとその関連部品、カムチェーンとACジェネレーターが対象でしたが、これに加えてレブリミット250rpm追加、2回目以降のスイングアームのアップデート(スイングアームのアップデートは通常シーズン中1回までで、2回以上は行えない)が選択できるようになっています。

 スーパーコンセッションパーツは当時、成績の低迷から脱することができずにいたBMWとホンダを救済する目的で設けられたものと言われています。この2社の成績が低迷していた原因はエンジンよりも剛性が高すぎてピレリタイヤに合わない車体にあると考えられており、この時点ではスーパーコンセッションパーツは車体に限定されていました。スーパーコンセッションパーツのフレームでは通常のレギュレーションでは認められていないフレームへの穴開けや切削など剛性を下げるための加工、ステアリングヘッドやスイングアームピボットの調整範囲を拡大をすることが可能になりました。また、通常スイングアームの片持ち・両持ちを市販車と異なる形態に変更することはできませんが、スーパーコンセッションパーツとしてであればこれが認められるようになりました。ただ、当時から今に至るまで片持スイングアームを採用していたのはドゥカティだけで、パニガーレV4Rはデビュー以来好成績を維持しておりコンセッションの対象にすらなり得ない状態だったので、スーパーコンセッションを利用して片持ちから両持ちへ変更したメーカーはありません。

オフシーズンのアップデート可否

 2022年は10月改定後のレギュレーションに基づいて集計された最終戦のコンセッション情報が公開されていません。コンセッションポイントだけなら簡単に集計できるのですが、残念ながらコンセッショントークンについては正確な値がわかりません。以前、コンセッション情報が公開されている2023年のリザルトを元にレギュレーションに従って計算してみたのですが、計算方法の解釈が正しくないのか、あるいはレギュレーションに記載されていない別の要素があるのかわかりませんが、公開されているものと同じ値にはなりませんでした。これでは正確性が確保できないので残念ですが2022年第10戦〜最終戦までの結果によるアップデート可否については検証していません。

 オフシーズンのアップデート可否についてはシーズン全体のコンセッションポイント差のみで判定されるので、全大会のメインレースの結果に基づき、チェックポイント毎に集計すれば判断できます。以下の表は10月改定後のレギュレーションに従ったコンセッションポイントの集計結果です。第9戦までを改定前の配点、10戦〜12戦を改定後の配点で集計すべきかとも考えましたが、アップデートに要する年間の総コンセッションポイント差が改定前の36ptから80ptに増えており、これは翌年も変更されていません。なので年間通して新しい配点で集計するのが妥当と判断しています。

 10月改定後のレギュレーションでは、オフシーズンのアップデートに要する年間の総コンセッションポイント差は80ptなので、対象となっていたのはBMWとホンダの2社だったことになります。また、ヤマハとカワサキは第9戦終了時にシーズン中のコンセッションパーツアップデート権を得ています。シーズン中に使っていなければ、オフシーズンのアップデートに使用していたでしょう。

 2022年終幕後、12月中旬に行われたテストにホンダはスイングアームピボット周辺に溶接痕のあるフレームを持ち込んでいました。

 この溶接痕からはスイングアームピボット位置が変更されていると見て間違いなく、このような改造は通常の改造範囲では行えません。スーパーコンセッションパーツとして改造されたフレームであることは確実なので、ホンダがスーパーコンセッションの対象メーカーになっていたことを表しています。

 2023年に向けてBMW、ドゥカティ、カワサキの3社が参戦車両をモデルチェンジしています。BMWは外装を一新、空力を大幅に改善しましたが、変更されたのは外装だけと言ってよく、フレームとエンジンは特に変更されていません。なので新型としてコンセッションパーツのアップデートが行えたとは考えにくいのですが、オフシーズンのコンセッションパーツアップデート権を得ていたので何らかのアップデートをすることができたでしょう。ドゥカティはパニガーレV4Rをモデルチェンジ、更に軽量化されたピストン、ガンドリル加工によって大端部から小端部にオイルラインを貫通させたチタンコンロッドを採用するなどエンジンを改良しています。おそらく新型として新しいカムシャフトを開発することが認められていたでしょう。カワサキは可変エアインテークの導入とエンジンのバランサーをキャンセルする小規模なモデルチェンジを行っています。これをFIMが新型と認めていたかどうかは不明ですが、シーズン中に得ていたアップデート権を持ち越していたのであればこれを利用することができたので、何らかのアップデートを行っていたと考えられます。

 今回はここまでです。次回は2023年の詳細と2018年から2023年までのまとめをやる予定です。


 最後までお読みいただきありがとうございました。ご指摘、ご感想等ございましたらコメントをいただけると幸いです。

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