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WSBKミサノラウンド

 WSBK2024年の第4戦、ミサノ・サーキット・マルコ・シモンチェリが終了しました。BMWのトプラク・ラズガットリオグルが3つのレース全てを勝利、ハットトリックを決めてランキングトップを奪うどころかライバル勢を更に突き放すというまさかの結末でした。

 5月末に同じミサノで行われた事前テストではラズガットリオグルが一番時計を叩き出していたのでこうなる可能性は十分にあったとも言えるのですが、近年ミサノではドゥカティとアルバロ・バウティスタの強さが際立っており、レースウィーク中はテスト時より暑く、路面温度も上昇するため高温路面に強いドゥカティ勢に有利になると思われました。にも関わらず、ラズガットリオグルがドゥカティワークスの二人を寄せ付けずにトリプルウィンを決めてしまったのはまさに予想外でした。

 第3戦アッセン終了時までは、バウティスタがポイントリーダーながらポイントは僅差でタイトル争いの行方はこの3人にほぼ絞られた感があり、3人の中で誰がタイトルを獲得出来るかは全く予想できない状態でしたが、今大会でラズガトリオグルに大きく傾いた印象があります。まさに流れを引き寄せたといった感じで、もしこのままラズガットリオグルがタイトルを獲得したのなら、その時にはこのミサノが今年のWSBKにおける大きな転換点だったと言われるのではないでしょうか。

ラズガットリオグルがポイントリーダーに

 今大会最大の驚きは、やはりラズガットリオグルが全レースドゥカティの二人を引き離して勝利したことでしょう。昨年はドゥカティのバウティスタが3レース全て勝利しており、スーパーポールレースこそ僅差だったものの、レース1は5秒、レース2は8秒以上の大差を付けています。一方、昨年ヤマハを駆っていたラズガットリオグルはレース1は3位、スーパーポールレースとレース2はそれぞれ2位でした。昨年BMWの最上位はレース1がスコット・レディングで11位、スーパーポールレースとレース2はギャレット・ガーロフで共に9位で表彰台争いはおろかシングルフィニッシュがやっとの状態だったので、BMWにとってはまさに別次元の飛躍です。BMWがポイントリーダーになるのは2012年、モスクワレース2のマルコ・メランドリ以来、トリプルウィンと4連勝はBMWのWSBK参戦史上初のことです。

 ただ、これはBMWの進歩よりも、ラズガットリオグル個人の力に依るところが大きいと言えます。他のBMWライダーの成績と比較すると一目瞭然で、チームメイトのマイケル・ファン・デル・マークは今大会の3レースをレース1が8位、スーパーポールレースは転倒リタイヤ、レース2はトラブルによるリタイヤでした。ファン・デル・マークは昨年欠場していたので今年との比較はできませんが、ボノボアクションの二人は今大会レディングが各レース15位、14位、12位、ガーロフが12位、リタイヤ、リタイヤでしたので、昨年よりも成績が低下しています。これでは車両の進歩がどれだけあったのか疑問に思えてしまいます。
 昨年駆っていたヤマハではドゥカティに対し動力性能の面でどう足掻いても太刀打ちできない差がありましたが、BMWの動力性能は十分に対抗出来るレベルにあり、ヤマハに比べ大きく劣っていたはずの車体についてもラズガットリオグルにとってはどうにかできてしまえる程度には改善しているのでしょう。ですが、ラズガットリオグル以外のライダーにはまだ扱いきれないものなのかもしれません。ラズガットリオグルのスタイルに特化した可能性も否定できませんが、ラズガットリオグル自身のライディングスタイルがBMW移籍後幾分変化しているのでその可能性は低いのではないでしょうか。

 前年の覇者、ドゥカティの二人はラズガットリオグルに敗れたのみならず、スーパーポールレースではバウティスタが転倒、復帰するもノーポイントに終わっています。それも、転倒時は4位を走行しており、カワサキのアレックス・ロウズに先行されていました。
 今回バウティスタは全てのレースでチームメイトのニッコロ・ブレガの後塵を拝する格好になりました。ランキングでも僅差ながらブレガに先行され、3位に後退しています。バウティスタはフロントタイヤのフィーリングに問題を抱えており、レース後には改善が必要であることをアピールしています。来年バイクが新しくなるがそれでは遅い、今どうにかして欲しい、といったことも言っており、これは昨年までのバウティスタには見られなかった弱気とも取られかねない言動です。もっとも、昨年は負け知らずの状態だったので改善を求めるまでもなかったのですが。
 バウティスタはバイクが新しくなるのが来年と言っていたようですが、来年モデルチェンジされるのは1100ccのV4Sで、V4Rのモデルチェンジが行われるのはその翌年2026年のようです。どちらも現在片持のスイングアームが両持ちに変わると言われています。

コンセッションの状況について

 アッセンラウンドからリザルトのAll PDF最終ページにコンセッション情報が記載されるようになりました。ミサノラウンド終了時点では以下の様になっています。

Pirelli Emilia-Romagna Round, 14-16 June 2024 Results Race 2

 今季のコンセッション・スーパーコンセッションパーツの使用状況ですが、BMWとホンダは開幕戦から、カワサキは第2戦から使用しているようです。これらは昨シーズン終了時に獲得したコンセッションパーツをこのタイミングで使用したということでしょう。そうでなければ、このタイミングでスーパーコンセッションパーツを導入することはできません。
 以前の記事で、カワサキのスーパーコンセッションパーツがエンジン関係の部品ではないかと書きましたが、導入が第2戦からだったということは、エンジンではなく車体関係の部品かもしれません。エンジンは年間開催数の1/2、今年は6基しか使えないので、エンジン関係のパーツであれば第2戦のタイミングで導入されるとは考えにくいのです。

BMWはコンセッションを「卒業」

 特筆すべきはBMWがすでにコンセッションを卒業していることでしょう。ラズガットリオグルがアッセンのレース2で勝利したのは、BMWにとって今季ドライコンディションのフルディスタンスレース2勝目なので、以後今季中はコンセッションの対象になることは無く、大規模なアップデートはできません。また、6日間の年間テスト日数追加の優遇措置もこの時点で失われ、残り6日(ライダー毎)に縮小されています。この残り6日から5月末のミサノテストで既に2日消費しているので残り4日、さらに6月19日・20日のクレモナサーキットで行われたテストにも参加しているのですが、ラズガットリオグルはテスト残日数を節約するため1日目のみの走行でした。これでラズガットリオグルの年内の残りテスト日数は3日間です。年内予定されているテストは9月11日からのアラゴン、10月1日からのヘレスがそれぞれ2日間ずつ計4日ありますが、ラズガットリオグルが2日間走れるのは片方だけで、残る片方を1日だけに短縮しなければなりません。
 以前の記事でも取り上げましたが、スーパーコンセッションパーツを導入しているメーカーがあまりにも速くなり過ぎた(オーバーシュート)と判定されると、レブリッミットが500rpm減じられる事になります。今回、ミサノの3レースでのラズガットリオグルの速さは圧倒的だったので、その可能性も否定できなくなってきました。ただ、スーパーコンセッションのオーバーシュート判定はメーカーの最速ライダー2名の結果を分析して行われるので、ラズガットリオグル以外のライダーがそれほど際立った成績を残せていない今の状況ではまだ可能性は低いでしょう。

ホンダ

 ドゥカティとBMW以外、つまり国産3社は皆コンセッションの対象です。特にホンダは直近のチェックポイント単独でもトークンが10を超えており、問答無用でスーパーコンセッションパーツの導入が可能な状態です。ミサノでは事前テストで評価していたBSB仕様のスイングアームとおぼしき新しいスイングアームをレクオナが装着、レース1は10位、SPレースは7位、レース2は9位と今季のホンダのベストリザルトを残していますが、他メーカーと比べるとまだまだ課題は多いのでアップデートは必須でしょう。エンジンパワーはドゥカティやBMWに優るとも劣らないので、やはり車体の改善が急務でしょう。

ヤマハ

 ヤマハはチェックポイント1と2のトークンを合わせても10には満たないのでスーパーコンセッションパーツの導入はできませんが、8は超えているためコンセッションパーツを2項目導入可能な状態です。以前の記事で書きましたが、ヤマハはオフシーズン中のアップデート権が無かったので、昨年と同じカムシャフトを使用しています。そのため昨年より増加しているレブリミットを活かしきれておらず、今季動力性能では最も劣っている印象があるので、これを改善すべく次戦ドニントン以降、カムシャフトを変更した新スペックのエンジンになるかもしれません。ヤマハの今季の15,200rpmというレブリミットは、YZF-R1のエンジンにとって機械的な限界にかなり近いようですが、エンジンの耐久性が許すのであれば、レブリミットの250rpm追加も合わせて選択するかもしれません。

カワサキ

 カワサキはチェックポイント1と2の合計が10を超えているのでスーパーコンセッションパーツを獲得するか、コンセッションパーツを2項目同時に選択することが可能です。カワサキはフィリップアイランドのレース2を勝利しているのでコンセッションの卒業にリーチが掛かっています。次戦ドニントンはかつてカワサキが非常に強かったサーキットでロウズにとっても地元なので今季のカワサキなら勝てる可能性は決して少なくありません。コンセッションによるアップデートもこれが最後になるかもしれないので、次戦までに何らかのコンセッションまたはスーパーコンセッションパーツの導入をするのではないでしょうか。
 カワサキは今季もグリッド上最も低いレブリミットが適用されており、ドゥカティやBMW相手にはあともう一押し足りない印象が否めません。さらなるパワーアップのために+250rpmとカムシャフトの変更を選択するかもしれません。カワサキはレブリミット規制が導入される以前、2018年は15,200まで回していましたが、当時のZX-10RRにはチタンコンロッドも軽量ピストンも組み込まれていませんでした。これらが組み込まれている現行ZX-10RRのエンジンなら15,350rpmでも対応できるのではないでしょうか。

来季の動向

ミサノ大会に前後して来季に向けた動きがありました。

ボノボアクション撤退。来年のBMWサテライトは?

 レースウィークが明けた17日、ボノボアクションが今季限りでWSBKからの撤退することを発表しました。ボノボアクションのオーナーであるユルゲン・レーダーは撤退を「個人的な理由」としていますが、これは建前でしょう。今季、BMWはROKiTに加えてボノボアクションもワークスチームに位置づけていますが、レーダーはワークスとは名ばかりでBMW本社から十分な財政支援が行われていない事に不満を述べていたので、実際の撤退理由は財政問題が解決できなかったからではないでしょうか。財政面に不安を抱えた状態が続いていたのであれば、レディングとガーロフの成績が振るわないのもそのせいだったのかもしれません。
 ガーロフは今年で契約が切れますが、レディングはBMWとの4年契約の今年が3年目なので、BMWはレディングのためにシートを用意しなければなりませんが、ワークスのROKiT BMWはすでに空席は無く、ボノボアクションに代わる新たなサテライトチームが必要です。

 ニュースサイトの観測記事では、来年使用する車両が不透明なプセッティになるのではないかという話があります。オーナーのマヌエル・プセッティはインタビューに対して、来季の事はドニントンまでに決定するだろうと述べており、他メーカーへの変更も視野に入れているようです。昨年、戦闘力不足を理由に他社への切り替えを検討していた時、BMWは供給能力の問題で選択肢から外れていましたが、ボノボアクションの撤退でその問題はなくなります。

 プセッティの来季についてはビモータ・バイ・カワサキ(BbK)に移行するプロヴェックに代わってカワサキのワークスチームになる可能性を指摘する記事もありますが、これはありえないと考えます。以前の記事でも書きましたが、カワサキの来季のWSBK活動はそっくりBbKに移行するとみて間違い無いからです。仮にプセッティがカワサキのワークスチームになるのなら、カワサキは2つのワークスチームをサポートすることになりますが、そこまでの余裕はカワサキには無いでしょう。なのでプセッティの選択肢は、BbKのサテライトになるか、あるいはBMWを含め他社に乗り換えるかのいずれかでしょう。

 BMWのサテライト候補に話を戻すと、今季の参戦を断念し、来季からの復帰を目指しているチームペデルチーニレーシングにも可能性があるかもしれません。オーナーのルシオ・ペデルチーニは来年復帰するに際してはメーカーを変更することになると述べています。ただ、ペデルチーニは資金面ではかなり厳しいチームで、これまでもライダー側の資金負担が必至のチームです。レディングは「ペイライダー」として走るつもりはないと公言しているので、ペデルチーニがレディングの受け皿になるのなら、BMW本社からかなりの資金援助が必要でしょう。

 もし、BMWがサテライトチームを確保できない場合はレディングに違約金を支払って契約を解除することになります。ただ、ここに来てラズガットリオグルが今年限りでWSBKを離れ、MotoGPへの転向することを希望しており、ホンダがオファーを出しているという話が急浮上してきました。ラズガットリオグルの師匠でありマネージャーでもあるケナン・ソフォーグルがすでにBMWにその意向を伝えている事を明かしています。これに加え、ホンダがオファーしているという話まで出てきました。実現には多くのハードルがありますが、これが実現するのであれば、ラズガットリオグルのシートが空くのでレディングはROKiT BMWに戻る事になります。

ビモータ・バイ・カワサキのライダーが確定

 ミサノのレースウィーク中に、ビモータ・バイ・カワサキレーシングチーム(BbKRT)のライダーがアレックス・ロウズとアクセル・バッサーニになることが発表されました。バッサーニは元々カワサキレーシングチーム(KRT)との2年契約でしたが、この契約がBbKRTに引き継がれることの確認、ロウズは今年末で切れる契約の更新です。
 KRTのチーム自体がそのままBbKRTに移行するのですから、ライダーもそのまま移行するのは自然な流れだと言えるでしょう。リークされている情報によると、BbKの参戦車両は現行のZX-10RRとは全く異なる車両だそうです。なので、以前の記事で予想したうち、現行のZX-10RRをビモータがモディファイした車両、という線は消えたと言えるでしょう。ビモータとカワサキ、どちらが設計するにせよ新設計の車体になるのはほぼ間違いないので、開発ができるベテランライダーが必要です。現状バッサーニはまだ乗り換えに苦労している感じが拭えないのでロウズとの再契約は現状選択できる最良のものだと言えるでしょう。
 なお、カワサキは先日、カラーリング変更のみの2025年型ZX-10RRを発表しているのでBbKの参戦車両のエンジンは現行ベースになることが確定しています。

 今季のKRTライダーが来季のBbKRTのライダーになることは、レースウィークの金曜にロウズ、土曜にバッサーニがそれぞれ発表されたのですが、そのリリース内容を見るとBbKRTの実態がおぼろげながら見えてきます。契約を取り交わす場に出席しているのが、ライダーであるロウズあるいはバッサーニ、KRTチームマネージャーのギム・ロダ、カワサキ本社からは田中繁美営業本部長、カワサキヨーロッパからはレースプランニングマネージャーのスティーブ・ガトリッジのそれぞれ4名です。ライダーとチームの代表、欧州カワサキとカワサキ本社の代表が名を連ねていますがここにビモータの代表者の名前がありません。このことからも、BbKRTのプロジェクトはカワサキがビモータというブランドを使ってレース活動をしようというもので、カワサキがレース活動をビモータ側に丸投げするような性質の物ではないと言えるでしょう。そもそも、名称自体がBimota by Kawasakiです。直訳すれば、カワサキによるビモータ。主体となるのがカワサキであることは明白です。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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