WSBKモスト・2024前半戦
WSBKモスト大会が終了し、これで2024年のWSBK全12戦のうち丁度半分が経過したことになります。今回はモスト大会と前半戦のまとめを行いたいと思います。
WSBKモスト
モストではまたしてもトプラク・ラズガットリオグルがPP獲得から全てのレースを勝利しました。ラズガットリオグルはこれで3大会連続のハットトリックで、アッセンレース2の勝利から数えて10連勝、WSBKの連勝記録11まであと一つと迫り、次戦ポルティマオのレース1とSPレースまで勝利すれば新記録です。チャンピオンシップポイントも303ptに伸ばし、2位のニッコロ・ブレガに64ptの大差を築いています。WSBKのポイントシステムでは1大会につき最大62pt獲得可能なので、丸々1大会欠場しても逆転されることはありません。BMWはSPレース終了時にマニュファクチャラーズランキングでもドゥカティを抜いて首位に立っています。ただ、ラズガットリオグル以外のBMW勢は今ひとつで、レース2におけるマイケル・V.D.マークの5位が最高成績でした。
完璧なレースウィークだったラズガットリオグルに対し、追う立場であるドゥカティ勢は今ひとつ噛み合いませんでした。レース1ではサテライトのペトルッチが2位、イアンノーネが3位、ワークスのバウティスタが4位でブレガが6位とワークスの二人がサテライトの後塵を拝しています。ブレガはSPレースとレース2は2位になったものの、レース1で表彰台を逃したのは痛かったでしょう。バウティスタの日曜は最悪で、SPレースとレース2では転倒を喫し共にノーポイントに終わりました。バウティスタは金曜のフリー走行を終えた時点では2023年のフィーリングが戻ってきたと非常にポジティブなコメントを残していましたが、土曜日の予選以降はうまくいかなかったようです。
ヤマハはレース2でアンドレア・ロカテッリが3位表彰台を獲得、レミー・ガードナーも全てのレースで5位以内に入るなど今季のヤマハにしては決して悪くない結果だと言えますが、昨年はラズガットリオグルが優勝争いしていたことを考えると物足りなさは否めません。ジョナサン・レイはドニントンに続き3レース全てでポイントを獲得しましたが、完全復活には程遠い状態です。次戦ポルティマオはレイの得意サーキットなのでさらなる前進を期待したいところです。
カワサキはドゥカティ以上に噛み合わないレースウィークでした。ロウズはレース1は5位争いの中転倒リタイヤ、SPレースは3位表彰台を獲得するもレース2は痛恨のジャンプスタート、表彰台も狙えるペースがありながらダブルロングラップペナルティにより大きく後退、追い上げるも9位に終わりました。とはいえ、ランキング3位のバウティスタが日曜の2レースをノーポイントで終えたこともあってポイント差は1pt詰まって20ptになっています。バッサーニは全レースノーポイントに終わっており、これでマニュファクチャラーランキングはヤマハと入れ替わって1pt差で4位に後退しています。
ホンダ勢は相変わらず低迷しています。レース2ではイケル・レクオナが一時7位を走行、やや浮上の兆しがあるようにも見え、8位でチェッカーを受けましたが、トラックリミットオーバーのペナルティにより3秒加算され、10位に終わっています。
コンセッションの状況
モスト終了時点のコンセッション情報は以下のとおりです。コンセッションは2大会毎のチェックポイント毎に集計され、第6戦終了時点では第3チェックポイントです。
まず、今季スーパーポールレースを除くドライコンディションのレースで2勝以上しているドゥカティとBMWはすでにコンセッションの資格を喪失しており、今季中はコンセッションの対象となることはありません。残る3社はコンセッションの対象となりうる状態です。カワサキはすでに1勝しているので資格喪失にリーチが掛かっていますが、あと1勝ができずにいます。
一つ特筆すべき点として、コンセッション第3チェックポイントでは初めてBMWがコンセッションのポイントリーダーになっています。BMWはコンセッションポイントを獲得できる5位以内の支配率が低いにも関わらず、ドゥカティを上回ったのはひとえにラズガットリオグルが2大会連続で全勝したことが大きいでしょう。第3チェックポイントではコンセッションポイントがBMWとドゥカティに割れているので下位のメーカーがコンセッションの対象になりにくい状態だったとも言えますが、最終的にはヤマハ、カワサキ、ホンダの3社はBMWに対しコンセッションの対象となる33pt以上の差が付いているので所有するトークンに応じたアップデートが可能です。このコンセッション対象3社の状況を表にまとめると以下の様になります。
ただ、レギュレーションには以下の一文があります。
ホンダとカワサキは、前回のコンセッションチェックポイントである第4戦ミサノの終了時点でスーパーコンセッションパーツを獲得するのに十分なトークンの累積がありましたが、スーパーコンセッションパーツを新たに導入していません。コンセッションパーツもアップデートしていないので、今回のチェックポイントで獲得したトークンは無視されることになります。
この条文で一つ疑問が残るのが、トークンがスーパーコンセッションパーツの獲得に必要な10以上貯まった状態で通常のコンセッションパーツを選択できるのかどうかという点です。条文はトークンが10以上貯まるとスーパーコンセッションパーツ以外は選択できなくなるかのようにも読み取れます。ただ、今年からスーパーコンセッションパーツはFIMが承認さえすれば何でもありなので、実際に問題になることは無いのかもしれません。
前回、ヤマハとカワサキがモストに合わせてエンジンのアップデートを行うのではないかと予想しましたが、両社ともエンジンのアップデートを行ったという話は無く、コンセッションパーツの使用状況も更新されていないのでアップデートはされていないことになります。とはいえ、後半戦にはポルティマオ、アラゴン、エストリルとストレートの長いサーキットが控えています。次戦ポルティマオで何らかのアップデートが投入されるかどうか引き続き注視したいと思います。
2024年シーズン前半戦終了
予想外に始まり予想外が続く
WSBKは2024年のカレンダー全12大会のうち半分の6大会が終了しました。今シーズンは開幕戦から予想外・想定外の連続だと言えるのではないでしょうか。まずは昨年と今年、シーズン折り返しとなる第6戦終了時の上位ライダーのポイント獲得状況を昨年の同時期と比較して見てみましょう。
昨年に比べランキングを伸ばしているのは言うまでもなくミサノレース1の勝利でランキング首位に立って以来独走しているラズガットリオグルとアレックス・ロウズの二人です。特に開幕戦で2勝を挙げ一時とはいえランキング首位に立つなど、ロウズがここまで善戦することを予想できた人は少ないのではないでしょうか。昨年のロウズは第6戦終了時点でランキング7位でした。獲得ポイントも大きく伸ばしており、昨年同時期のジョナサン・レイよりポイントを多く稼いでいます。
今年から施行されているレギュレーションとコンセッションによって昨年苦戦を強いられていたカワサキでも幾分戦えるようになることは予想されましたが、絶対的なエースライダーだったジョナサン・レイを失ったカワサキは今季未勝利に終わると予想する向きも多かったので、これはまさに予想外でしょう。
また、9年間在籍したカワサキからヤマハへ移籍したジョナサン・レイの低迷も予想外でした。レイはホンダからカワサキへ移籍した時は移籍後初レースを勝利していたのでヤマハへの乗り換えも難なくこなすだろうと思われましたが、蓋を開けてみるとヤマハでの初レースは転倒ノーポイント、のみならず開幕戦3レース通してもノーポイントというあまりにもレイらしからぬものでした。
今季のチャンピオンシップは前年王者のバウティスタとレイがタイトル争いに絡む事を予想した人も多かったのではないかと思いますが、バウティスタはともかくレイはこれまでタイトル争いに絡むどころか掠ることすらできておらず、第6戦終了時点でランキング10位、わずか55ptしか獲得できていません。活躍と言えるのはウェットコンディションで行われたアッセンのスーパーポールでポールポジションを獲得したのと地元ドニントンのSPレースで3位表彰台を獲得したぐらいでしょうか。レイがここまで低迷するのはホンダ時代に遡ってもちょっと記憶にありません。レイは2009年のフル参戦開始以来昨年まで連続して毎年1勝以上を挙げていますが、16年目にしてこの記録が途絶えてしまうかもしれません。
最大の予想外はBMWに移籍したトプラク・ラズガットリオグルがミサノ、ドニントン、モストの3大会を全て勝利、目下10連勝中でランキング首位を独走していることでしょう。昨年、ラズガットリオグルがBMWに移籍する事を発表した当時、ネットの反応は総じて否定的で、あまりにも無謀だ、キャリアを捨てる気かといった論調ばかりでした。これも無理のない話で、BMWは近年ホンダとマニュファクチャラーズランキングの最下位を争っており、昨年は参戦5社中唯一の表彰台未登壇でした。BMWはテストチームを立ち上げるなど体制を強化する事も公表していましたが、それでも1年目は勝てても数戦程度、タイトル争いができるようになるのは良くても2年目からになるのではないかと思われていたので、1年目にタイトル争いをするのみならず、チャンピオンシップを独走する事などまさに予想外の事です。ただ、再三述べている通り、昨年から継続してBMWに乗っている他のライダーの成績はそこまで伸びているわけではなく、表彰台にすら届いていません。それを考えるとこのBMWの躍進は間違いなくラズガットリオグル個人の能力に大きく頼ったもので、ライダーの違いが成績の違いを生み出していると言えるでしょう。
昨年の覇者バウティスタから昨年まで見られた理不尽とも言えた速さが失われているのはある程度予想の範囲内と言えるのではないでしょうか。今年から導入されたライダーの体重込みの重量制は、グリッド上で最も軽量と言われるバウティスタをまさに狙い撃ちにしたものです。ヘルメット、ツナギ等の装備込みで80kgの標準体重より軽いライダーは標準体重との差の半分をバラストとして車両に載せなければなりません。バウティスタは装備込みで68kg〜70kgと言われているので、バラストは5kg〜6kg積んでいる事になります。とはいえ、ライダーと車両の合計重量では相変わらずバウティスタが最も軽いことに変わりは無く、バウティスタは今年も全ライダー中最も速い最高速を毎回のように記録しているので軽量の恩恵が全て失われているわけではありません。コーナリングやブレーキングが昨年までのようにできなくなったことがバウティスタから速さを奪っているようです。
ドゥカティではバウティスタよりもルーキーのニッコロ・ブレガが先行しており、安定した成績を残せています。WSBKでルーキーライダーがここまで活躍するのは近年珍しく、前年のSSP王者がレースに勝利するというのも久しく無かった様に思えます。ただ、ラズガットリオグルに比べるとどうしても一歩劣る感が否めません。
メーカー毎の状況
続いてメーカー毎の状況を見ていこうと思います。第6戦終了時点でのマニュファクチャラーズランキングは下表の通りです。こちらも比較のため前年の成績を併記しました。
昨年と比較すると、BMWの躍進が目を引きます。獲得ポイントは3倍近く、ランキングも首位に立っています。一方、昨年の覇者ドゥカティはBMWに抜かれたとはいえポイントではそこまで大きな差があるわけではなく、BMWとは僅差で共に300ptを上回っています。これはラズガットリオグルが一人でポイントを稼いでいる格好のBMWに対し、ドゥカティは表彰台に登壇したライダーの数が圧倒的に多く、勝てないまでも2位の獲得率が高いのと、シーズン序盤のラズガットリオグルの成績が今ひとつ安定しなかったためでしょう。
昨年2位だったヤマハは100pt近くも減っており、4位のカワサキとわずか1pt差の3位に後退しています。これはラズガットリオグルという稼ぎ頭のライダーを失い、その抜けた穴を埋めるはずだったジョナサン・レイが低迷しているためでしょう。それに加え、ロカテッリの成績が昨年よりも後退しています。これは、昨年マニュファクチャラーズランキング2位だったこともあり、オフシーズンのコンセッションパーツのアップデート権が得られなかった事も少なからず影響していると考えられます。
カワサキは昨年より4pt減っていますが、ヤマハとは対照的にジョナサン・レイが抜けた穴をアレックス・ロウズが埋めることができていると言えるでしょう。昨年までのロウズの成績を思えば大きな前進です。昨年の低迷でカワサキはスーパーコンセッションの対象となり、オフシーズンに車両をアップデートできたこともロウズの好調に一役買っているのは間違いありません。問題はチームメイトのアクセル・バッサーニが乗り換えに苦労している事です。モストではロウズが転倒ノーポイントだったレース1でバッサーニが1ptでも獲得していればランキングでヤマハに逆転されることもなかったでしょう。後半戦でのバッサーニの奮起に期待したいところです。
ホンダはまさに「こんなはずでは」といったところでしょう。今年モデルチェンジされた新型CBR1000RR-Rは見た目こそウイングレットが変わった他に大きな変化はなさそうに見えますが、中身はエンジン、車体、電子制御とほぼ別物だと言われています。旧型で問題とされていたピレリタイヤとのマッチングを改善すべく、ピレリタイヤを装着して開発が進められていたという話もありますが、結果的にはそれが全く功を成しているとは言えない状態で、昨年の同時期の半分程度しかポイントが獲得できておらず、新型の投入が不発に終わった感は否めません。
各社の車両は昨年とどう変わっていたか?
今年の開幕までに行えたアップデート等の状況は下表のとおりです。
昨年のマニュファクチャラーズランキング首位のドゥカティと2位のヤマハはオフシーズン中のアップデートが大きく制限されていました。昨年の最強マシンであるドゥカティのアップデートが制限されているのは現在のコンセッションルールでは当然の事なのですが、ヤマハもそこそこ善戦していたのでアップデート権は得られていません。
ヤマハはレブリミットが増えており、これを活かしエンジンをパワーアップするためにはカムシャフトのアップデートが必要ですが、カムシャフトはコンセッションパーツに分類されており、ヤマハにはそのアップデート権が無いのでアップデートを行えていません。今年からクランクシャフトを大幅に軽量化できるようになった事である程度は改善されているものの、それでピークパワーが上がるわけではなく、昨年も動力性能において不利だったヤマハにとっては厳しい状態だったと言えるでしょう。
一方、3位以降の3社はコンセッションパーツのアップデートのみならず、スーパーコンセッションパーツの導入も可能な状態でした。BMWとホンダは開幕戦から、カワサキは第2戦からスーパーコンセッションパーツを導入しています。この恩恵を大きく受けているのがラズガットリオグルがランキングを独走し、先日ついにマニュファクチャラーズランキングでも首位に立ったBMW、そしてカワサキでしょう。特にカワサキは増加したレブリミットを活かすためのエンジンのアップデートができているのでクランクシャフトの軽量化と相まって動力性能の面では昨年よりも大きく前進しているように思えます。
ホンダについてはここ数年続いている低迷が更に深まったと言わざるを得ません。今年のホンダは参戦車両をモデルチェンジしており、順当に行けば戦闘力が底上げされるはずなのですが、逆に状況は悪化しています。新車の投入で成績が大きく後退した例としては、2013年のドゥカティがあります。この年新たに投入された1199パニガーレは従来の鋼管トレリスフレームからアルミモノコックフレームへの大きな変更がされており、初勝利まで2年以上要しましたが、今年のホンダは基本設計は引き継いでおり、当時のドゥカティのような、悪く言えば奇をてらった完全新設計の車両ではありません。ホンダはMotoGPでもなかなか改善が進まない状態が続いていますが、MotoGPのみならず、市販車開発でも何か大きな問題を抱えているように思えてなりません。
ホンダはモデルチェンジをしたにも関わらず、旧型から基本設計を引き継いでいるためかスーパーコンセッションが適用されており、開幕戦から導入されていますが、今の成績ではこれが効果をもたらしているかどうかすら評価のしようがありません。
ホンダはシーズン半分を経過しても大きな改善が見られておらず、今年未勝利に終わると丸9年未勝利で、WSBKのワースト記録を更新してしまうことになりますが、残念ながらこの可能性は更に高まったと言わざるを得ません。
2025年のプセッティレーシングはどうなる?
以前、来年のプセッティレーシングはビモータbyカワサキのサテライトになるか、あるいは他メーカーに変更するかのいずれかで、カワサキを継続する可能性は無いだろうと予想しましたが、どうやら事態はこの予想とは逆の方向へ向かっているようで、プセッティレーシングは来年も引き続きZX-10RRを使うという観測記事が急増しています。
https://www.corsedimoto.com/mondiale-sbk/superbike-kawasaki-resta-ufficiale-puccetti-tre-opzioni/
候補に上がっているライダーはボノボアクションが今季限りで撤退することでシートを失うギャレット・ガーロフ、モトコルセからの放出が確実視されているマイケル・ルーベン・リナルディ、BSBのライアン・ビッカースなどの名前が上がっています。
また、プセッティはビモータbyカワサキへ移行するプロヴェックに代わってカワサキのワークスチームになるようです。ただ、今年と同じく1台体制のようで、グリッド上で1台だけというのは極めて不利な状態だと言えます。ポルティマオまでに何らかの発表があると言われているので、続報を待ちたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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