
WSBK 2025年レギュレーション・主な変更点
1月23日にFIMからWSBKの2025年のレギュレーションが公開されました。今回はこのWSBKの新レギュレーションの主な変更点を取り上げたいと思います。今年のレギュレーションでは新たに導入された燃料流量制限に加えコンセッションルールの変更が大規模なので、別記事として燃料流量制限とコンセッションに関する部分を抜粋、和訳しています。詳細な条文については以下を参照願います。
BMWのスーパーコンセッションフレームは正式に使用禁止

順番は前後しますが最初にこの話題に触れておきます。BMWが昨年使用していたスーパーコンセッションパーツであるフレームの使用申請がFIMから却下されていた件は、今回のレギュレーション変更で正式に確定しました。モデルチェンジ後の車両にスーパーコンセッションパーツを継続使用できる条件として、シーズン終了時点でスーパーコンセッションの対象メーカーであることが条文に追加されています。
2.4.3.1 コンセッションとスーパーコンセッション、トークンの 「パフォーマンスカリキュレーター」
e) コンセッションパーツ
v) スーパー・コンセッションが使用可能なマシンが、「新型」とみなされるホモロゲーションに置き換えられた場合、スーパーコンセッションは、以下のすべての条件が満たされた場合に限り、使用可能なままとなる:
- シーズン終了時点で、メーカーのステータスがスーパーコンセッションの対象である場合。
(以下略)
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BMWは昨年第3戦アッセンのレース2で優勝した時点でスーパーコンセッションの対象メーカーではなくなっています。なので今年のレースに昨年使用していたスーパーコンセッションフレームを使うことはできません。BMWにはレギュレーション変更によって継続使用の可能性があると楽観視する向きもあったようですが、結果的にFIMの判断は覆らず、レギュレーション変更によってFIMの決定が裏付けされた格好です。
BMWは2024年当時のレギュレーションに従ってスーパーコンセッションフレームが使えるものだと考えていたようですが、当時のレギュレーションにも「異議がある場合、FIMSBKテクニカルディレクターの決定が最終決定となる。」の一文があります。他社から異議を唱えられれば使えなくなる可能性があったことを留意しておくべきだったでしょう。
テスト日数の明確化
今年からテストに使用できる日数が年間(前シーズン終了後から最終戦まで)を通して10日から12日に増えていますが、昨年までテスト日数に数えられなかったドルナ主催の公式テスト(開幕直前にフィリップアイランドで行われるテスト)もテスト日数として数えられるようになりました。また、これまでもテスト日数の最小単位は「半日」でしたが、これが「1日」は8時間、「半日」は4時間に明確化されています。半日の場合は1時間の昼食休憩を含めた5時間にすることも出来ます。チームはテスト日数の消化状況を明確にするため、ラップタイムのドキュメントをレースディレクションに提出する必要があります。
開幕直前に行われる公式テストは午前と午後2時間ずつの走行なので、2日間の総走行時間は8時間、実質1日分の消化になります。昨年は開幕戦と第2戦の間にもカタルーニャで2日間の公式テストが行われましたが、これもフィリップアイランドと走行時間は同様でした。計4日の公式テストは実質2日分相当なので、テスト可能な日数は実質昨年までと同じです。
スーパーコンセッションパーツとしてのさらなる追加テスト日数
スーパーコンセッションの対象メーカーには6日間のテスト日数が追加で与えられますが、今年からスーパーコンセッションパーツとしてさらに6日間の追加テスト日数を選択できるようになりました。これにより、スーパーコンセッションの対象メーカーは年間最大24日のテストが行えます。ただ、これは「スーパーコンセッションパーツとして選択することができる」なので、他のスーパーコンセッションパーツの導入と同時に選択できるわけではなさそうです。
使用可能なタイヤ本数の削減
一つの大会中に一人のライダーが使用できるタイヤの本数がフロント10本、リア11本までであることは昨年までと同じです。ただ、木曜日に装着できるタイヤは一人につき10本に制限されています。残りのタイヤは金・土・日曜に装着でき、合計25本まで装着可能です。昨年までは、「一人のライダーがいつでも13本まで装着できる」となっていました。これは装着したものの使われずじまいとなるタイヤを減らすための変更のようです。また、昨年までは金曜からレイン(ウェット)タイヤを1セット追加できましたが今年からできなくなりました。ウェットコンディションにならない限り実質これまでと同じと考えてよいでしょう。
燃料流量制限の導入
既報の通り、今年からBoP(Balance of Performance)の手段として従来のレブリミットを廃止、新たに燃料流量制限が導入されました。今回のレギュレーション変更における最大の変革がこの燃料流量制限の導入です。
今年は開幕時点では全メーカーに一律47kg/hの流量上限が設定されており、1周につき2gまでの超過が許容され、これをさらに超えた場合ペナルティの対象になります。この制限値はスーパーポール(予選)と3つの決勝レースが対象で、フリー走行やウォームアップは対象外です。
2026年の流量は今年の7月末までにそれまでのレース結果によって決定される予定です。なお、この燃料流量制限の導入に伴い、燃料タンクの容量制限は無くなっています。
過去のレブリミットによるBoPは250rpm単位で、戦力が突出したメーカーには削減を、逆に成績の振るわないメーカーには追加を行っていましたが、燃料流量制限によるBoPは戦力が突出したメーカーに対し初期値である47kg/hの流量から1ステップにつき0.5kg/hずつ、最大計2kg/hまでを成績に応じて削減することで行われます。

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レブリミットの増減によるBoPはそれだけでは効果が限定的で、特に増加されてもエンジンがそのままではあまり恩恵が無く、カムシャフトをアップデートできなければ意味を成さないものでしたが、燃料流量の増減はそのまま出力の増減に直結するのでBoPの手段としてはより合理的だと言えます。
燃料流量の増減による最高出力の変動は想像の域を出ませんが、参考までに燃料流量とエンジン効率に応じた出力を表にしました。横軸が燃料流量(0.5kg/h間隔)、縦軸がエンジンのエネルギー変換効率です。WSBKの使用燃料を密度775kg/㎥、エネルギー量9.6kwh/Lと仮定しています。この場合0.5kg/hは約2psに相当すると考えられ、仮に47kg/hで255psを発生しているとすると、45kg/hまで流量を削減されると約8psを失うと考えられます。これはあくまでも最高出力発生時に限った話なので、実際にはここまで単純な話ではないでしょう。希薄燃焼による燃焼温度の上昇やエンジン出力特性の悪化に対応するためにさらに多くのパワーダウンを強いられるかもしれません。

レブリミットによるBoPでは、チェックポイント毎に各メーカーの車両をレースの成績、ラップタイム、最高速などを非公開のMSMAアルゴリズムで評価して適用していましたが、燃料流量によるBoPではこれに加えてコンセッションポイント差によっても適用され、さらにコンセッションのパフォーマンス評価の結果によっても適用されます。どうやらFIMとドルナはこの燃料流量制限によるBoPをかなり能動的に適用することで接戦を演出するつもりのようです。コンセッションルールは燃料流量制限と組み合わせての運用となることもあり、今回大規模に改定されています。
コンセッションルールの改定
コンセッションポイント加点対象の変更
コンセッションポイントの順位に対する配点は変更されていませんが、加点対象となるライダーが変更されています。昨年までは5位以内に入賞した全てのライダーに加点されていましたが、これが各メーカーの最上位で5位以内入賞のライダーに変更されました。つまりマニュファクチャラーズポイント同様、各メーカーにつきコンセッションポイントの対象になるライダーは一人だけです。
これを実際のレースの着順に当てはめてみます。2024年のカタルーニャレース1の場合、優勝はBMWのラズガットリオグル、2位はドゥカティのブレガ、3位は同じくバウティスタ、4位は同じくイアンノーネ、5位はヤマハのロカテッリでした。これに対し実際に配点されたのはBMWが10pt、ドゥカティが8+6+4=20pt、ヤマハが2ptです。これが今年のレギュレーションではBMW10pt、ドゥカティ8pt、ヤマハ2ptになります。
この変更には優勝メーカーよりも2位以下のメーカーの獲得ポイントが多くなってしまわないようにする意図がありそうです。また、参戦台数の多いメーカーとそうでないメーカーとでコンセッションポイントの獲得数に差が付き過ぎるのを防ぐ目的もあるでしょう。今年8台に膨れ上がったドゥカティがコンセッションにおいて他社に過剰にアップデートの機会を与えてしまうことがないようにということでしょうか。昨年、年間のコンセッションポイント差によるオフシーズンのコンセッションアップデートがライダーズタイトルを獲得したBMWに認められていたことに対する是正の目的もありそうです。
この変更に合わせてチェックポイント毎のコンセッションの対象となりうるためのコンセッションポイント差が33ptから30ptに減っています。なお、オフシーズンのアップデートに必要な年間のコンセッションポイント差は165ptのままです。
シーズン中のコンセッション離脱条件の変更
シーズン中のコンセッションの対象外となる条件も変更されました。昨年まではドライコンディションのスーパーポールを除くレース(いわゆるメインレース)で2勝すると以後シーズン中のコンセッションから除外されましたが、これが「異なる2つのサーキットで行われるスーパーポールレースを含む2つのドライコンディションのレースで優勝」に変更されています。つまり1つの大会でトリプルウィンを決めても他のサーキットで優勝しなければコンセッションの対象のままですが、2つの大会のスーパーポールレースで優勝するとコンセッションの対象外になるということです。
正直言ってこの変更はちょっとバランスを欠いているように思えます。高度にタイヤを管理しなければならないメインレースの勝利と周回数が10周と短くチャンピオンシップポイントの配点も少ないスーパーポールレースの勝利には同じ価値があるとは思えません。
コンセッションポイント差による燃料流量削減
2大会毎のチェックポイントにおけるコンセッションポイントの最多獲得メーカーが2位のメーカーに対し、12pt以上多い場合に燃料流量が0.5kg/h削減されます(後述のオーバーパフォーマンスペナルティがすでに適用されている場合を除く)。前述の通り、同一メーカー内でコンセッションポイントを獲得するのが最先着のライダー一人になったとはいえ、1位と2位のメーカーに12ptの差が付く可能性は少なくありません。仮にA社が表彰台を独占すると、4位フィニッシュのB社に対してメインレース一つだけで6ptの差が生じます。A社が優勝と2位、B社が3位の場合でも4pt差です。2大会6レースを全てA社が1位とB社が2位に分け合った場合2✕4+1✕2=10pt差になるので、メインレースでB社が1回3位になっただけでも12pt差になってしまいます。昨年第5戦ドニントンから第6戦モストがこれと同じで、BMWのラズガットリオグルが6レース全て優勝、ドゥカティがメインレースで2位3回、3位1回、SPレースで2位2回でした。今年のレギュレーションに当てはめると第7戦よりBMWの燃料流量は削減されることになります。今後、昨年ラズガットリオグルが樹立した連勝記録である13連勝を破るのはかつて無い難易度になるのではないでしょうか。
詳細は後述しますが、このコンセッションポイント差によるBoPには制度上大きな問題があるので個人的には導入するべきではなかったと思います。
パフォーマンスカリキュレーターの刷新
コンセッションポイントが首位メーカーから30pt以上差があるメーカーは、コンセッショントークンの「パフォーマンスカリキュレーター」によって分析され、行えるアップデートの範囲が決まるのはこれまで通りですが、この「パフォーマンスカリキュレーター」がほぼ全面的に改定されました。これまではレースのラップタイムからトークンを算出、その数量に応じてコンセッションパーツのアップデートまたはスーパーコンセッションパーツを獲得できましたが、今年から内容が大きく変わっています。
ラップタイムからメーカー間のパフォーマンス差を求め、それに応じたアップデートを認めるという基本的な考え方は同じですが、ラップタイムの集計対象にスーパーポール(予選)も加わっています。さらにリファレンスパフォーマンスの算出元となるラップタイムはこれまで表彰台登壇の3名を対象としていましたが、今年から全ライダーのラップタイムが対象になりました。これらのラップタイムの中からパフォーマンスの評価に適さない周回(ウェット、インラップ、アウトラップ、赤旗掲示など)を除外、さらに遅い方から25%の周回を除外、残った75%の周回からさらに週末の最速ラップよりも5%以上遅い周回を取り除き、残りの周回の平均ラップタイムをリファレンスパフォーマンスとし、同様に算出したメーカー毎の平均ラップタイム(メーカーパフォーマンス)とを比較、この差異(相対的レースパフォーマンス)をチェックポイント毎に合計した「性能閾値」が昨年までのトークンに相当します。性能閾値が+0.250以上のメーカーはコンセッションパーツを、+0.500以上の場合はスーパーコンセッションパーツを導入することができます。昨年までのトークンと異なり、性能閾値はチェックポイント毎にリセットされるので累積できません。以前のレギュレーションに比べると具体的になっていますが、分析対象が増えているので煩雑さも増しています。
昨年まではコンセッションパーツとしてレブリミットの250rpm追加がありましたが、今年から燃料流量の0.5kg/h追加に変更されています。
オーバーパフォーマンスペナルティ
性能閾値が一定以上プラスの場合はコンセッションの対象になりますが、逆に一定以上マイナスの場合はオーバーパフォーマンスとみなされて次戦から燃料流量削減のペナルティが課せられます。性能閾値が−0.250以下から−0.499までのメーカーは1ステップ(0.5kg/h)、−0.500以下から−0.749までのメーカーは2ステップ(1.0kg/h)、−0.750以下のメーカーは3ステップ(1.5kg/h)、それぞれ標準の燃料流量から削減されることになります。さらに、3つの連続したコンセッションチェックポイント、すなわち奇数ラウンドから数えて6大会連続で性能閾値が−0.500〜−0.479のメーカーは次のイベントから3ステップ(1.5kg/h)の燃料流量が削減されます。
このオーバーパフォーマンスペナルティはコンセッションポイント差による流量削減と重複せずに適用されます。オーバーパフォーマンスペナルティには回復の条件も定められています。
2.4.3.2 オーバーパフォーマンスに対するペナルティ
f) 次のコンセッションチェックポイントにおける性能閾値が連続する性能閾値の最高値と最低値の中間(0.125)以下であるメーカーは燃料流量を1段階回復する。例えば、性能閾値が-0.350の場合、前のコンセッションチェックポイントで少なくとも2ステップの燃料流量減少があった場合、燃料流量は1ステップ回復する。
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この回復する条件については正直な所理解できていないので言及は控えさせていただきます。
このオーバーパフォーマンスペナルティの新設に伴い、スーパーコンセッションオーバーシュートの条項は無くなっています。スーパーコンセッションパーツによって過剰な性能を得てもオーバーパフォーマンスペナルティの対象になるのでわざわざ個別の条項を設ける必要は無いということでしょう。
適用機会の増えたBoPに対する拭えぬ不安
以下は今回のレギュレーション変更に対する個人的な感想です。開幕を目前にしてあまりネガティブなことは書きたくないのですが、今回のレギュレーション改定ではBoPの適用機会がこれまでになく増えていることに不安を感じずにはおれません。BoPは言わば優れている者を罰するためのものであり、優劣を争うはずのものであるモータースポーツの本質に反していると言わざるを得ないのですが、興行として成り立たなければ選手権そのものが存続し得ないのである程度のBoPはやむを得ないのかもしれません。
ただ、今回新たに導入されたコンセッションポイント差による燃料流量上限値削減は競技であることの根幹を揺るがしかねない危険性を孕んでいます。これは単純に着順の組み合わせによって発動するため、回避するために敢えて負けるという選択肢があり得るのです。さらに厄介なことにコンセッションポイント2位のメーカーが故意に順位を下げることで1位のメーカーに燃料流量削減を強いることも不可能ではありません。状況次第とは言え、故意に負けることでライバルメーカーの力を削ぐことが出来てしまうのです。もちろん、最初から負けるつもりでレースをするライダーもチームもメーカーも無いでしょう。それでも、着順を一つ下げれば先行するライバルメーカーに燃料流量削減を強いることができる状況であれば、その後のシーズンを有利に運ぶために敢えて着順を下げるという選択をしてしまうかもしれません。
もしこれが実際に行われ、タイトルの行方を左右しようものなら興醒めも良いところです。そして故意ではなくても、接戦の末の結果であっても故意ではないかと疑いの目を向けられるかもしれません。もしこれが現実になったとしたらドルナとFIMはどうするつもりなのでしょうか?見た限りレギュレーションにはこれを防ぐための条文はありません。
個人的には単純に着順だけを条件に発動するBoPは導入すべきではなかったと思います。ファンとしては、BoPが発動すること無く接戦のレースが繰り広げられてくれるのならばそれに越したことはないのですが。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご指摘、ご感想等ございましたらコメントをいただけると幸いです。
加筆・修正履歴
2025年2月11日:テスト日数とタイヤ本数制限の変更点を追加
2025年2月15日:オーバーパフォーマンスペナルティについて一部加筆