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WSBKマニクール

 WSBKマニクールが終了しました。何かと波乱に富んだこのレースウイークを振り返ってみたいと思います。


本命不在

 今回のレースでも本命視されていたのはBMWのトプラク・ラズガットリオグルだったのですが、そのラズガットリオグルは金曜午後のフリー走行で計時1周目の14コーナーで転倒、コースサイドの芝生を滑って行ってフェンスの端に脇を痛打、骨折は無かったものの気胸と診断され、レースは欠場となってしまいました。チャンピオンシップは2位のニッコロ・ブレガまですでに92ptの大差が開いており、趨勢は決していた感はありましたが、欠場が決まったラズガットリオグルがポイントを伸ばすことはないので、ブレガは全レース勝てばポイント差を一気に62pt詰めるチャンスでもありました。

 サーキットのレイアウトを見ると、ラズガットリオグルが転倒した14コーナーから15コーナーに掛けては改修前のレッドブルリンクの2コーナーから3コーナーに似ています。2020年のオーストリアGPであわや大惨事のクラッシュのあった場所といえばおわかりいただけるでしょう。ラズガットリオグルが接触したのは14コーナーで転倒した車両やライダーが15コーナーをショートカットするようにコースを横切りかねないのでそれを予防するためのフェンスなのですが、今回ラズガットリオグルはこのフェンスの端に接触、さらに回転しながらコースを横切っています。ライダーからは安全対策のためこのフェンスにエアフェンスの追加の要請が出ているようですが、根本的な解決を図るのであれば、レッドブルリンク同様にコースレイアウトの変更が必要でしょう。

雨に翻弄されたレース1

 途中から雨が降り、フラッグtoフラッグで行われたレース1でブレガは転倒ノーポイントでした。これにはヤマハのジョナサン・レイも目の前で転倒したブレガを回避しようとして自らも転倒し負傷、以後のレースを欠場するという余計なおまけ付きでした。レイは右手の親指に深い傷を負っており、2週間後のクレモナの出場は不透明です。レースは転倒者が続出し10名がリタイヤするサバイバルレースとなりましたが、BMWのマイケル・V.D.マークが実に1070日振りに表彰台の中央に立ちました。

 このレースでは22名中10名がリタイヤしましたが、転倒後復帰して完走したライダーも何名かいます。リザルトを見ると、グリッドの半数を超える14名が転倒していたようです。

タイトル争いはやや不透明に

 開けて日曜は天候が回復、スーパーポールレースはブレガとアレックス・ロウズの一騎打ちとなりましたが、ブレガが僅差で逃げ切って勝利、レース2も制してダブルウィン、ラズガットリオグルとのポイント差を37pt詰めて55pt差になりました。もしラズガットリオグルが次戦も欠場すると、ランキングが逆転する可能性は十分にあります。出場できても回復次第ではパフォーマンスに影響する可能性もあるので、タイトル争いはちょっと不透明になってきたかもしれません。

 このレースウィークでは土曜日に雨が降ったこともあり、成績が乱高下したライダーが多発したのも特徴的でした。前述のブレガはレース1はノーポイントでSPレースとレース2はダブルウィン、レース1で2位に入ったアルバロ・バウティスタはSPレースで転倒リタイヤ、肋骨を骨折してしまいレース2は欠場したので日曜はノーポイントでした。このランキング3位のバウティスタを10pt差で追うA.ロウズは雨のスーパーポール(予選)で実に6年振りにPPを獲得、レース1はV.D.マークと優勝争いを繰り広げましたが転倒、復帰するも転倒時に破損していたカウリングが捲れ上がりオレンジボール旗を提示されリタイヤ。これでポイント差は30ptに開きましたが、前述の通りバウティスタは日曜はノーポイントです。A.ロウズはSPレースで2位、レース2ではまたしてもスタートからブレガとトップ争いを繰り広げますが1周目の8コーナーでエンジンに異状を感じコースアウト、幸い問題は無く復帰し猛追するも表彰台には届かず4位に終わりましたが、バウティスタとのポイント差は2pt減って8ptになりました。バウティスタは次戦クレモナへの出場も危ぶまれているのでランキング3位の入れ替わりは時間の問題かもしれません。

ホンダ復活?

 今回のレースで印象的だったメーカーはホンダではないでしょうか。特にチャビ・ビエルゲはレース1とレース2は7位、スーパーポールレースでは5位と今季最高のリザルトを残しています。イケル・レクオナは予選でタイムを出せず19番グリッドからのスタートながらレース1は6位、SPレースは7位、レース2は10位とこちらも今季の自己最高リザルトで、二人共に3レース全てのレースでポイントを獲得したのも今季初のことでした。さらに、このマニクールにおけるマニュファクチャラーズポイントの獲得数はヤマハを抜いています。単独の大会の獲得ポイントがホンダが最下位ではなかったのも今季初です。

 ただ、これには予選とレース1がウエットコンディションだった事も少なからず影響しているでしょう。今季のホンダは大会毎の成績の浮き沈みも激しいのでホンダが真に復活傾向にあるのかどうかの判断は次戦以降に保留したいと思います。

各ライダーのエンジン使用状況

 マニクールのレースウイークに先立ち、公式HPでポルティマオ終了時点における各ライダーのエンジンの使用状況が公開されています。

https://www.worldsbk.com/en/news/2024/ENGINE ALLOCATION the latest information ahead of the French Round

 以下はこれを表にまとめたものです。縦軸はエンジン、横軸はライダー毎の状況で"✕"は使用済(廃棄)、"◯"は使用中、"◎"は未使用を表しています。今季は全12大会なので使用可能なエンジンはその半分の6基です。

 #54ラズガットリオグルを例に取ると、全6基の内3基がすでに廃棄済み、2基が使用中で未使用が1基です。4基目5基目の走行距離は不明ですが、ポルティマオの記事に書いた未確認情報を裏付ける内容です。ラズガットリオグル以外のBMW勢は特に問題はなさそうです。

 意外にもエンジンの残数が厳しいのがカワサキで、#22ロウズはそれほどでもないのですが#47アクセル・バッサーニと#53ティト・ラバトはすでに3基を廃棄しています。特にバッサーニは残る3基も全使用を開始しており、未使用の新品が無いのでラズガットリオグル以上に危機的な状況と言えます。ただ、使用中のエンジンがどれだけ走っているかまでは公表されていないので一概には判断できないのですが。

 ヤマハは頻繁に壊れている印象はありますが意外にも廃棄済みのエンジンはそれほど多く無く、2基ブローしている#77ドミニク・エガーターですら廃棄されているのはその2基だけです。

 エンジン残数に全く不安が無いのがホンダで、まだ1基も廃棄していません。この辺りはさすがホンダと言ったところでしょうか。さらに驚くべきはMIEの二人が2基しか使っておらず、まだ4基も未使用の新品を残していることです。MIEは規定の15,600rpmよりも低いレブリミットで運用しているのかもしれません。ドゥカティも廃棄しているエンジンは少ないと言えるでしょう。

コンセッションの状況

 マニクール・レース2終了時のコンセッション情報は以下のとおりです。

Motul French Round, 6-8 September 2024

 今回特筆すべきなのはついにヤマハがスーパーコンセッションパーツを獲得可能な状態になったことでしょう。第3と第4チェックポイントのトークンの累積が10を超えています。今季のヤマハはBMWに移籍したラズガットリオグルに代わって加入したジョナサン・レイが絶不調、オフシーズン中のコンセッションパーツのアップデート権が無く車両のアップデートが制限されたことによる車両の戦闘力不足などにより、近年に無く低迷しています。スーパーコンセッションパーツの獲得はヤマハ復活の起爆剤になるかもしれません。

 ただ、ヤマハがスーパーコンセッションパーツを獲得してもそれを今季中に導入するか(できるか)どうかは不透明です。今のヤマハ最大の弱点はストレートスピード、つまりエンジンパワーです。今年からスーパーコンセッションパーツはエンジン部品にまで拡大されていますが、これを適用できるのはまだ使用を開始していない、未使用のエンジンに限られます。前述のエンジンの使用状況を見ると、ポルティマオ終了時点でエガーター以外のライダーはまだ2基の未使用エンジンを残していましたが、スーパーコンセッションパーツは導入する1ヶ月前までにFIMに申請しなければなりません。なので使用できるのは最短でも第11戦エストリルからでしょう。エンジン部品の場合、その時点で未使用のエンジンが残っていなければアップデートはできないので、今季中のアップデートは難しいのではないでしょうか。

 もう一つ特筆すべきなのは、ビエルゲがスーパーポールレースで5位に入賞、ホンダが今季初めてコンセッションポイントを獲得したことでしょう。言い換えれば、ホンダは今季これまでドライコンディションのレースで5位以内に入賞できていなかったということなのですが。

 カワサキは今回もコンセッションの対象ですが、エンジンの使用状況と照らし合わせると今季中にエンジンのアップデートが行えるかどうかは疑問です。特にバッサーニは未使用のエンジンが無いのでアップデートしたくてもできません。どうしてもやるのなら新しいエンジンの追加なのでペナルティの対象になってしまいます。なので今季中にアップデートされる可能性は低いでしょう。ロウズによると、今季追加された500rpmのレブリミットはあまりパワーアップにつながっておらず、さらなるパワーアップは信頼性が低下するため難しいようです。

オフシーズンにアップデートができるメーカーは?

 やや気の早い感もありますが、オフシーズンのコンセッションパーツアップデート権が得られるかどうかの予想をしてみたいと思います。下表は第8戦終了時点のコンセッションポイントを合計したものです。今季は全12大会でチェックポイントは2大会毎なので第6チェックポイントまであります。現在第4チェックポイントまでを終えており、あと2つのチェックポイントを残しています。

 オフシーズンのコンセッションパーツのアップデート権は、シーズン中のコンセッションポイントの総合計が最上位メーカーから165pt以上の差があるメーカーに与えられます。現時点のポイントリーダーであるドゥカティがシーズン終了までに逆転される可能性は低いでしょう。同様にBMWもこのまま行けばコンセッションポイント最上位をドゥカティと争うことになるので現在97のポイント差が165以上に開くとは思えません。ラズガットリオグルの怪我の影響も考慮しなければなりませんが、同様にバウティスタも怪我をしています。ドゥカティ、BMWは共にオフシーズンのコンセッションパーツのアップデート権は得られない見込みです。

 ホンダ、カワサキ、ヤマハの国産3社はコンセッションポイントリーダーであるドゥカティから現時点ですでに200pt以上の差を付けられています。このポイント差が大きく縮まるとは考えにくいので、3社共オフシーズンのコンセッションパーツのアップデートが行えることになると考えられます。

モデルチェンジの噂

 参戦車両がモデルチェンジした場合、FIMが新型と認定すればコンセッションパーツのアップデート権の有無にかかわらず、新型用としてコンセッションパーツの開発が行えます。

 来年新型にモデルチェンジする可能性が無いのが明らかなのは、モデルチェンジが2026年であることが判明しているドゥカティ、今年モデルチェンジしたばかりのホンダ、そして色変更のみの2025年型を発表済みのカワサキです。モデルチェンジが行われない事が確実で、オフシーズンのコンセッションアップデート権も得られそうもないドゥカティは来年も今年と同じカムシャフトを組み込んだエンジンで戦うのがほぼ確実です。

 BMWとヤマハには新型の噂があります。BMWは現行型と異なるエアロパーツを装着した車両がテストで走ったという話があるので外装に変化があるかもしれません。ただ、エンジンに手が入るかどうかは不明です。現在のM1000RRは2023年にモデルチェンジされていますが、エンジンは2021年型と同じ物です。前回のモデルチェンジではエンジンは手付かずだったので、ひょっとするとエンジンにも何らかの変更が加えられるかもしれません。

 ヤマハはYZF-R1のファイナルエディションを発売すると言われており、エアロパーツが追加され、エンジンもアップデートされるようです。ただ、御存知の通りヤマハはYZF-R1は現行型が最後でモデルチェンジを行わない事を公表しています。なのでエンジンが改良されるとしても現在の設計はそのままに、パワーアップを期してより軽量なピストンやコンロッドを組み込む等、一部の部品をより高性能な物に変更する程度でしょう。

 エンジンの変更が少なくFIMが新型と認めない場合はコンセッションパーツのアップデートはできません。ヤマハが来年投入すると噂されるファイナルエディションがどのような仕様であっても、今季の成績ではオフシーズンのコンセッションパーツのアップデートが可能なので問題にはなりませんが、BMWは変更内容次第ではオフシーズンのアップデートができない可能性があります。

2.4.3 コンセッションおよびスーパーコンセッション
b) 新たに認証されたマシンが前シーズンと同じエンジン設計を維持し、メーカーがシーズン間のアップデートトークンを獲得していない場合、新マシンは前シーズンと同じエンジン仕様で、適格なコンセッションパーツを装着してスタートしなければならない。FIM SBKテクニカルディレクターの決定が最終決定となる。

2024 FIM Superbike, Supersport, Supersport 300 & Women’s Circuit Racing World Championships Regulations

 カワサキについては現在のワークスチームのプロヴェックに代わってワークスチームになるプセッティが使用するZX-10RRは来年は前述の通り、オフシーズンのアップデートが行える見込みです。プロヴェックはビモータbyカワサキに移行しますが、このビモータ製車体にZX-10RRのエンジンを搭載した車両は新規ホモロゲーションを取得する、全くの新型車両として扱われます。

KB5(?) のティーザー画像

 ビモータが開発中の来年のWSBK参戦車両の画像を部分的にフェイスブックで公開しています。

What a dreamy adventure... We are getting ready for some incredible and exclusive moments of returning to the world...

Posted by Bimota on Thursday, July 11, 2024

Imagine the thrill of riding a bike powered by a winning engine. 🏍️💨 BbKRT & Bimota worked tirelessly to fulfil riders...

Posted by Bimota on Thursday, August 29, 2024

 まだ全体像は明らかにされていませんが、1枚目の画像からはフレームはZX-10RRとは異なるもので、スイングアームピボットが可変であることがわかります。まだプロトタイプでしょうから実車がどうなるかはわかりませんが、現在のZX-10RR用のエンジンカバーが装着されているのでクラッチは湿式のままのようです。2枚目の画像からは、フロントフォークがカワサキ同様、ショーワ製であることがわかります。また、テージのようなハブステアではない、オーソドックスな車体構成であることも確実です。

 KB5(仮称)は7月上旬にはすでにヘレス・サーキットでシェイクダウンテストを行っているそうです。今シーズンもあと1ヶ月少々なのでそう遠くないうちに全貌が明らかになるでしょう。

 最後までお読みいただきありがとうございました。ご指摘、ご感想等ございましたらコメントをいただけると幸いです。


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