WSBKドニントンラウンド
WSBKドニントン大会が終了しました。またしてもトプラク・ラズガットリオグルが3レース全てを制し、アッセンレース2以来これで7連勝です。特にレース1ではラズガットリオグルが2位のアレックス・ロウズに11秒もの大差を付ける独走劇でした。これに危機感を覚えたのか、ドゥカティはレース1の後FIMに対しBMWが使用している座面を低くしたシートがレギュレーションに抵触しないのか説明を求めたそうです。これはレギュレーション上のいわばグレーゾーンで違反とは言えないものなのですが、これを受けてBMWは念の為座面を若干高くし、違反となる可能性を排除して日曜のレースに臨むとまたしてもラズガットリオグルがスーパーポールレースとレース2を圧倒的な独走劇で制覇します。さらにラズガットリオグルはレース2のクールダウンラップ中に彼の友人達とコースサイドで車検の寸劇を行いました。内容は検査官に扮した人物がシートの高さを計測し、最後にテールカウルに「合格」のシールを貼るというものでした。これはシート高に異を唱えたドゥカティをおちょくったものであることは明白です。これを見て思わず笑ってしまいましたが、ドゥカティのスタッフには全く笑えないものだったでしょう。
今回、ランキング2位のニッコロ・ブレガはレース1が4位、SPレースとレース2がそれぞれ2位だったので、ハットトリックを決めたラズガットリオグルとのポイント差は41ptに広がりました。また、ランキング3位のアルバロ・バウティスタはレース1が3位、SPレースが6位、レース2は5位と振るわなかったのでラズガットリオグルとのポイント差は55ptと更に開いており、タイトル争いからは一歩後退している感があります。ミサノからのラズガットリオグルはもはや手が付けられない状態です。ドゥカティはBMWに対抗すべく、新しいスイングアームやブレガにはより軽量なエキゾーストを投入しましたが、焼け石に水でした。ドゥカティがBMWのシートに物言いを付けたのも現状に対する焦りの現れなのかもしれません。
BMWは弱体化されるのか?
昨年はシーズンを通してバウティスタが圧倒的でしたが、現在のラズガットリオグルの速さは昨年のバウティスタに匹敵すると言っても良いものです。昨年はバウティスタが開幕からマンダリカSPレースの転倒リタイヤを挟んで9レース中8勝したことを受けてFIMは性能調整を適用、第4戦以降ドゥカティのレブリミットを250rpm減じました。それでもバウティスタの勢いは衰えず、第7戦以降さらに250rpm減の性能調整が行われました。ドルナとFIMが昨年のドゥカティのように、何らかの方法でBMWを弱体化させるのではないかという観測も出始めています。ドルナとFIMはBMWを弱体化させることができるのでしょうか。
今年はレブリミットによる性能調整は無い
近年のWSBKにおいて、性能調整はレブリミットを調整する事で行われてきました。2018年のレブリミット規制導入以来、成績の突出したメーカーに対してはレブリミットを削減し、成績の振るわないメーカーに対しては増加を認めて来ました。ですが、今年はレギュレーションの改定によりレブリミットによる性能調整が無くなっているので、昨年までのようにレブリミットの増減を行うことができません。今季シーズン中にレブリミットが変更されるのは、コンセッションの対象メーカーが獲得したトークンを消費して250rpm増加させるか、スーパーコンセッションパーツを使用しているメーカーがスーパーコンセッションパーツの使用により速くなり過ぎた(オーバーシュート)と判定されて500rpm減じられるか、この二つの場合に限られます。
スーパーコンセッションオーバーシュートは適用されるのか?
制度としてのスーパーコンセッションが導入されたのは2022年の終盤でしたが、この時からすでに、スーパーコンセッションパーツを使用する事で速くなり過ぎた(オーバーシュート)場合にレブリミットを削減することがレギュレーションに定められています。BMWは昨年の低迷により、通常の改造範囲を超えたスーパーコンセッションパーツを獲得しており、今季の開幕戦より使用しています。そのため、BMWがスーパーコンセッションパーツによって速くなりすぎていると認定されればレブリミットを500rpm減じられることになるのですが、今のBMWはスーパーコンセッションのオーバーシュートと言えるのでしょうか?レギュレーションの該当部分は以下のとおりです。
今のBMWがオーバーシュートと判定される可能性はかなり低いと考えられます。その理由はこの判定が「各メーカーの最速ライダー2名の結果を分析」して行われるためです。現状、BMWで圧倒的な成績を上げているのはラズガットリオグルだけで、チームメイトのマイケル・V.D.マークもボノボアクションの二人も、今季の最高成績は4位で表彰台にすら届いていません。ラズガットリオグルがいくら圧倒的に速くてもBMWの次点のライダーの成績が振るわなければオーバーシュートにはなりにくいのです。
「(MSMA)パフォーマンスカリキュレーター」が具体的にどのようなものであるかはレギュレーションには記載されておらず、詳細は不明ですが、恐らく、コンセッショントークンの算出に用いられるパフォーマンスカリキュレーターと同じか、これに近いものであると考えられます。コンセッショントークンの算出に使用されるパフォーマンスカリキュレーターについてはレギュレーションに以下のように記述されています。
以下はドニントンレース2終了時のコンセッション情報です。右列の上から4番目の表がメーカー毎のコンセッショントークンです。
ここからは、オーバーシュートの判定に用いられるパフォーマンスカリキュレーターがコンセッショントークンの算出に使用されるものと同じだと仮定して話を進めます。この仮定のとおりであれば、オーバーシュートの判別はトークンの値と同じで、これが−0.5を下回ればオーバーシュートと判定されることになります。第3チェックポイントのトークンは現時点ではドニントンの結果を元に2大会分相当に正規化された数値ですが、0.199235です。この数値はレースの表彰台登壇3名のラップタイムの平均と各メーカー上位2名のラップタイムの平均との相対値ですが、これが正(プラス)の値であるということは、BMWの上位2人の平均ラップタイムは表彰台3人の平均ラップタイムより遅いということになります。数値をマイナスにするには表彰台3名の平均よりも、BMW上位2名のラップタイムの平均の方が速くなければなりません。なのでこれが−0.5になるには今のところラズガットリオグル以外のBMWライダーの速さが足りていないのです。昨年の第2チェックポイントでドゥカティのトークンは−0.4に達していましたが、言い換えれば昨年のドゥカティでも−0.5には届いていません。今年からスーパーポールレースもトークンの計算対象になっているので厳密には同条件とは言えないのですが。
いずれにせよ、ラズガットリオグルが大差で勝利し、もう一人のBMWライダーも2位になるか、2位に僅差の3位に入るのを繰り返す程でなければオーバーシュートと判定されることはなさそうです。もっとも、これは前述の通りスーパーコンセッションオーバーシュートのパフォーマンスカリキュレーターがコンセッショントークンのパフォーマンスカリキュレーターと同じものだという仮定に基づいた話です。もし両者が全く異なるものであるならば、現状でもオーバーシュートだと判定されてしまう可能性が無いとは言えません。
スーパーコンセッションパーツは使用禁止にならない
スーパーコンセッションパーツを導入したメーカーが速すぎるのであればスーパーコンセッションパーツを使えなくすればよいのではないかと思われるかもしれませんが、レギュレーションに定められたスーパーコンセッションパーツによって速くなり過ぎた場合の対応策は前述のオーバーシュートに対するレブリミット削減だけです。すでに獲得しているスーパーコンセッションパーツが使えなくなる事はありません。参戦車両をモデルチェンジしない限り翌年以降も引き続き使用可能です。
スーパーコンセッションパーツがラズガットリオグルの速さに一役買っているのは間違いありませんが、ラズガットリオグル以外のライダーの成績は昨年と比べそこまで向上しているわけではありません。今のBMWの速さはラズガットリオグル自身のライディングスキルに依る割合の方がずっと大きいと考えられます。ラズガットリオグルが速いからと言って一律に他のBMWライダーにもペナルティを与えるべきではないでしょう。
他メーカーのコンセッションの状況
今季はBMW以外にもカワサキ、ホンダがスーパーコンセッションパーツを使用していますが、この中でドライコンディションのレース1・レース2で2勝以上しているメーカーはBMWだけです。ミサノの記事でも触れた通り、カワサキはすでに1勝しているのであと1勝すればコンセッションの資格を失うことになりますが、今回、ドニントンでは3レース全てをBMWが勝利したのでこの状況に変化はありません。
ミサノの記事でヤマハとカワサキがドニントンからコンセッションによるエンジンのアップデートをするのではないかと予想しましたが、今回両社共コンセッションパーツのアップデートは行われていません。アップデートが行われなかった理由として、年間のエンジン使用数制限の影響が考えられます。エンジンは年間の使用可能数が決まっており(年間開催数の1/2なので今年は6基)、一度使用登録したエンジンは封印され途中で仕様変更することはできません。なのでアップデートもエンジンの使用スケジュールに合わせて行わねばならず、それとの兼ね合いもあったのかもしれません。カワサキのロウズはインタビューに対し、ドニントンで使用したエンジンはマイレージ末期のためレブリミット(15,100rpm)を全て使い切っておらず、幾分抑えていたと述べています。恐らくカワサキは次戦モストから新品のエンジンを使用する予定だと考えられます。エンジンをアップデートするのであれば、このタイミングで行う事になるでしょう。ヤマハもエンジンのアップデートを行うのであれば、同様にエンジンの入れ替えのタイミングに合わせて行われると考えられますが、今季はアンドレア・ロカテッリのエンジンがアッセンで1基ブローしています。ドミニク・エガーターもこれまでにエンジンが2基壊れているので、開幕時に立てていたスケジュール通りには進んでおらず、更に先に延びるかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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