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WSBK2024最終戦

  2024年のWSBKが終了しました。今回はWSBK最終戦ヘレスについて扱いたいと思います。

ラズガットリオグル自身2度目・BMW初の戴冠

 最終戦ヘレスを残して前戦エストリルでポイントリーダーのラズガットリオグルはSPレースこそタイトル争いの直接の対象であるニッコロ・ブレガに僅差で敗れたものの、レース1・レース2を勝利、ポイント差を46に伸ばしており、レース1でブレガとのポイント差を37以上に保てばタイトルが確定する状態でした。

 ここへレスではプレシーズンテストの時からブレガの速さは際立っており、土曜日のスーパーポールではラズガットリオグルに0.6秒の大差を付けてポールポジションを獲得します。そしてレース1はラズガットリオグルに迫られていたものの終始トップを走行、中盤以降はこれを突き放し、最終的に6秒もの大差をつけてブレガが勝利しました。ラズガットリオグルは敗れたもののポイント差は5しか縮まらず41、残る2レースの獲得ポイントは最大37なのでこの時点でラズガットリオグルのタイトルが確定しました。自身ヤマハ在籍時の2021年に続く3年振り2度目のタイトル、BMWにとっては初のタイトル獲得です。

過去最高のシーズンを過去最高の形で終えたBMW

 レース1に続き、翌日のスーパーポールレースもブレガが制しますが、今年最後のレースであるレース2は序盤こそブレガが先行したものの、3周目にラズガットリオグルがパスしてレースをリードし続けます。17周目にフィリップ・エッテルのエンジンがブローしたことで赤旗が掲示され、2/3以上の周回数成立によりその時点で終了、短縮されたレースとなりましたが、ラズガットリオグルがブレガを抑えきって勝利、マイケル・ファン・デル・マークも3位表彰台に登壇しました。

 ラズガットリオグルはレース1にSCX-Aリアタイヤを使用、SCXを使用したブレガに完敗しましたが、レース2ではリアタイヤをブレガと同じSCXに変更していました。SCX-AはSCXと同じスーパーソフトに分類されるタイヤですが、標準のSCXよりも耐久性重視とされるデベロップメントタイヤなので、絶対的なグリップはSCXに分があり、それがレース1の勝敗を分けたと考えられます。レース2のタイヤ変更はそれを受けてのものだったと思われますが、タイヤライフは厳しくなるはずなので赤旗が出なければどうなっていたかはわかりません。とはいえこの使用タイヤの変更に適応しブレガを下したラズガットリオグル、そしてタイヤの変更にセッティングを見事合わせてのけた彼のクルーも称賛されるべきでしょう。

 これまで、ラズガットリオグルとギャレット・ガーロフ、同じBMWでもROKiT BMWとボノボアクション、異なるチームでの表彰台への2名登壇はありましたが、ROKiT BMWの二人が同時に表彰台に登壇したのはこれが初めてです。来年、BMWはワークスのROKiT、1チームのみに縮小されますが、念願の初戴冠となった2024年シーズン最後のレースをチームとしても過去最高の成績で締めくくることが出来たのではないでしょうか。

ハットトリックを逃したブレガ

 前述の通り、ブレガはここヘレスを得意としているようで、予選からスーパーポールレースまでは圧倒的で、ラズガットリオグルを完封して初のハットトリックもあるのではないかと思われましたが、レース2はラズガットリオグルに敗れ、ハットトリックを果たすことはできませんでした。とはいえ、シーズンを通して最も安定した成績を残していたのはブレガであり、来年も打倒ラズガットリオグルの一番手に最も近いライダーになるのではないでしょうか。

 一方、バウティスタはレース1とレース2、2つのメインレースで共に転倒ノーポイント、スーパーポールレースも9位で獲得ポイントはわずか1ptに終わりました。昨年ここヘレスではトリプルウィンを決めていたことを思えば非常に残念な結果です。バウティスタは前戦エストリルのレース1で転倒、ノーポイントに終わった時点でタイトルの可能性は消滅していたのでモチベーションも今ひとつだったのかもしれません。アラゴンでは完全復活したかに見えましたが、結局昨年のように走れたのは一部のサーキットだけだったようです。バウティスタは昨年空前絶後とも言える圧倒的なシーズンを送りましたが一転、今年は新たに導入された総重量制に最後まで悩まされたシーズンでした。そういう意味では、総重量制導入の効果は絶大だったと言えるでしょう。

KRTラストレース

 カワサキで走る最後のレースとなったカワサキレーシングチーム(KRT)にとっては有終の美を飾る、とまではいかなかったようです。レース1はロウズが4位、SPレースこそ3位でロウズにとってはクレモナのSPレース以来、3大会ぶりの表彰台でしたが、KRTにとってこれが最後の表彰台で、レース2では5位でした。ロウズはペトルッチとランキング4位を争っていましたが、ペトルッチがレース1で転倒リタイヤに終わり、残り2レースでもロウズが先着したためロウズのランキング4位が確定しました。バッサーニはレース1では8位とシングルフィニッシュできたものの、SPレースは14位、レース2では10位とシングルフィニッシュを逃しました。開幕当時に比べれば前進したとも言えますが、シーズン全体を見れば期待外れだったのではないでしょうか。

ヤマハ復調?

 レース1ではロカテッリが3位に入賞、久々に表彰台に立ちました。ただ、SPレースは5位、レース2は8位と成績が右肩下がりだったのが気になります。昨年はレース1とレース2はラズガットリオグルが、SPレースではエガーターがそれぞれ2位表彰台、特にレース2はトラックリミットオーバーで降格されたものの、トップチェッカーを受けていたのがラズガットリオグルだったことを考えると、これはシーズン全体を通しても言えるのですがあまりにも残念な成績だと言えるでしょう。このラズガットリオグルの抜けた穴を埋めるはずだったジョナサン・レイも最終戦3レースの成績は11位、11位、10位で終わっています。レイは2009年からのWSBKフル参戦において、昨年までは毎年1勝以上していましたが、今年はついにその記録が途絶えてしまいました。来年、ヤマハが真に復調できるか否かはレイの復活に掛かっているのではないでしょうか。

ホンダの上り調子に冷水

 シーズン終盤にかけて上り調子だったホンダですが、最終戦はこれに冷水を浴びせかけられた格好となってしまいました。レース1はレクオナが5位、ヴィエルゲも7位と悪くなかったのですが、SPレースでヴイエルゲがレクオナと接触、両者とも転倒し、更に悪いことにレクオナはこれで左足を骨折、レース2どころか年内のテストも全て参加できなくなってしまいました。せっかく成績が上向いてきて、これまでの苦労が報われたかに見えた矢先だったのに残念です。

 最終戦には長島哲太がスポット参戦、レース1では15位完走しポイントを獲得しています。

最終戦ヘレス終了後のコンセッション情報

最終戦終了時のコンセッション情報は以下の通りです。

Prometeon Spanish Round, 18-20 October 2024

 最終戦ということもあってか、今回は新たにコンセッションまたはスーパーコンセッションパーツの使用を開始したメーカーはありません。ただ、今回一つ目を引く点があります。右列の上から4つ目、コンセッショントークンの獲得数の表において、第9戦〜最終戦に該当する第5・第6チェックポイントにおけるカワサキの獲得トークンが0になっています。第9戦以降のカワサキは成績が今ひとつだったのでもっと多くのトークンを獲得しているはずで、そもそもトークンの計算結果が端数も無い0になるというのは考えられません。これは一体どういうことでしょうか?

カワサキ獲得トークン0の理由

 これについて考えられるのは、レギュレーションの以下の条文の影響です。

2.4.3.1 コンセッションとスーパーコンセッション、トークンの "パフォーマンスカリキュレーター"
f) スーパーコンセッションパーツ
ii) スーパーコンセッションに十分なトークンが貯まったら、そのスーパーコンセッションを登録しなければならず、スーパーコンセッションパーツが完全に導入されるまで、それ以上トークンを獲得することはできない。

2024 FIM Superbike, Supersport, Supersport 300 & Women’s Circuit Racing World Championships Regulations

 右列の一番下の表はコンセッション・スーパーコンセッションパーツの使用状況の表ですが、これによるとカワサキは昨シーズン終了時に獲得したスーパーコンセッションパーツを第2戦から、今シーズン中に獲得した2つのスーパーコンセッションパーツを第7戦ポルティマオと第9戦クレモナからそれぞれ使用していることになっていますが、このうち第9戦から使用中とされているスーパーコンセッションパーツは実際には使用されていなかったと考えられます。つまり、新しいスーパーコンセッションパーツを獲得したものの実戦には使用していない(導入が不完全)ため、上記レギュレーションの条文によってトークンが獲得できず、結果獲得トークンが0となったのではないかということです。

 スーパーコンセッションパーツを獲得していながら使用しないということはあるのでしょうか?考えられるのはこのスーパーコンセッションパーツがエンジンの部品ではないかということです。WSBKのエンジン年間使用数は開催数の半分、今年は全12戦のため6基でした。第7戦ポルティマオ大会終了後に各ライダーのエンジン使用数が公開されていましたが、カワサキではアクセル・バッサーニが全6基のうち3基が廃棄済みで残る3基もすべて使用を開始しており、すでに新品のエンジンが残っていない状態でした。なので第9戦クレモナの時点で少なくともバッサーニは未使用のエンジンが残っておらず、エンジンの仕様は変更出来ません。条文にある「完全に導入」が同メーカーのライダー全員が使用することを指しているのであれば、一人でも欠ければこれを満たすことは出来ないので、使いたくても使えない状態だったと考えられます。

 では、なぜ使えもしないパーツを獲得したのかという話になるのですが、これは来年の参戦車両に使用するためでしょう。来年のカワサキはビモータbyカワサキレーシングチームがKB998を、プセッティレーシング改めカワサキワールドスーパーバイクチーム(以下KWST)がZX-10RRを使用しますが、両者のエンジンは基本的に同じ物であると考えられます。これに使用する新たな部品をスーパーコンセッションパーツとして登録したのではないでしょうか。今季のレースを見ても昨年よりは大分マシになったものの相変わらずストレート勝負ではヤマハ以外の各メーカーに遅れを取っていたのでさすがに今季のままの状態では戦力的に不安が残ります。来年ZX-10RRを使用するのはKWSTのギャレット・ガーロフ一人だけですが、KB998とZX-10RR、両方のエンジンの仕様が近い方がカワサキとしてもサポートしやすいのではないでしょうか。

 シーズン終了後1日空けて火曜と水曜に早くも2025年に向けたテストが行われましたが、このテストではKB998とZX-10RR、共に同じ新しい2025年仕様のエンジンを使用していたようです。

 各メーカーのオフシーズンのコンセッションパーツアップデート可否については追ってシーズン総括の記事で扱う予定です。

 最後までお読みいただきありがとうございました。
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