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WSBK 2024ポストシーズンテスト
今回は10月22日と23日、2024年シーズン終幕直後にヘレス・サーキット、29日と30日にアラゴンサーキットでで行われたテストと先日発表されたBMWの2025年型M1000RRを取り上げたいと思います。
オフシーズンテストのカレンダー
WSBKはオフシーズンに行うテストのスケジュールが決められています。2024年終幕後〜2025年開幕前のテストスケジュールは以下のとおりです。
2024年
10月22日〜23日 ヘレス(済)
10月29日〜30日 アラゴン(済)
11月26日〜27日 ヘレス
2025年
1月22日〜23日 ヘレス
1月28日〜29日 ポルティマオ
2月17日〜18日 フィリップアイランド(公式テスト)
各ライダーが走行可能なテスト日数は年間10日間、スーパーコンセッションの対象メーカーのライダーは16日間です。2月の公式テストはテスト日数制限の対象外です。このオフシーズンのテストに全て参加すると、スーパーコンセッションの対象メーカーでなければテスト日数を開幕までにすべて使い切ってしまうことになります。これではシーズン中のテストができないので、全てのライダーが全てのテストに参加する事はまずありません。ヘレスのテストでビモータbyカワサキ(BbK)が初日にテストライダーのフローリアン・マリノだけが走行し、レギュラーライダーの二人が2日目だけを走行したのはそのためです。BMWもヘレスではレギュラーライダーは走行せず、テストライダーだけが走行しました。テストライダーはこのテスト日数の制限を受けないので、近年のWSBKではテストライダーの重要性が増しています。BMWがシルヴァン・ギュントーリとマーカス・ライターバーガー、二人のテストライダーを擁しているのはそのためでしょう。
ヘレステスト
参加したのはアルバ.itドゥカティ、KRT改めBbKRT、プセッティ改めカワサキワールドスーパーバイクチーム、HRC、MIEペトロナスホンダ、モトコルサドゥカティ、BMWテストチームでした。今回ヤマハは参加しておらず、11月末に同じヘレスで行われるテストに参加するようです。
レディングはドゥカティ復帰初ライドできず
BMWからドゥカティへ乗り換えるレディングもこのテストに参加を予定していました。レディングはBMWと4年契約でしたが、所属チーム(ボノボアクション)が撤退を選択、2025年のBMWはワークス2台だけとなったためシート喪失、後1年を残して契約を解除しました。その後ボノボアクションはMGMボノボとして1台体制に縮小するもののドゥカティで参戦を継続することになり、レディングはこのシートを得ていましたが、チームはまだ車両を用意できておらず、このテストへの参加を見送ったイアンノーネのV4Rを借りて走行することになっていました。ところが、当日になってBMWが走行を認めなかったため結局レディングは走行できずじまいでした。これは、BMWとレディングの間で契約の早期解除は合意に至っているものの、それに対する金銭補償がまだ合意には至っていないためではないかと見られています。
ドゥカティ
テスト初日、一番時計を記録したのは最終戦レース1とSPレースを制したブレガでした。ブレガはSCQタイヤを使用して1分38秒142を記録、これが2日間通しての一番時計でした。ブレガはすでにバイクから良い感触が得られているとして初日で作業を終了、2日目は走行していません。
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バウティスタは初日1分39秒567で2位、2日目1分39秒749で5位、総合6位でした。バウティスタは1日半(テスト日数は最小半日単位)走行、3台のパニガーレV4Rを乗り比べていましたが、これら3台はバラストの搭載位置が異なると考えられるので、恐らくバラストの搭載位置を見直していたのでしょう。バウティスタはシーズン途中からブレガが使っていた、サイレンサーがアンダーカウル後端から僅かに突き出るタイプのマフラーを使用していました。このマフラーは従来型より軽量ながら性能差は無いため、バラストを積まなければならないバウティスタにとっては軽量化は無意味としてシーズン中は使っていなかったのですが、これを使用しているということは、マフラーが軽量化された分のバラストを他に振り分けて新たな重量バランスを模索していたのかもしれません。
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アルバ.itドゥカティはこれで年内のテストは全て終了、来年までテストの予定はありません。
ドゥカティはサテライトのモトコルサもテストに参加、ライアン・ヴィッカースが初日1分40秒922で5位、2日目1分40秒027で7位、総合7位でした。
ビモータbyカワサキ
ヘレステスト初日最大の話題はやはり何と言ってもビモータbyカワサキ・KB998だったでしょう。初日走行したのは前述の通り、テストライダーのマリノだけだったのですが、車両のステップのヒールガードには相当の距離を走行していたであろう擦り傷があったそうで、この事から極秘裏にテストを繰り返していたことが伺えます。マリノは車両が正常に動作することの確認走行にとどめていたようで、初日1分41秒360を記録して9位、総合12位のタイムでした。
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レギュラーライダーのロウズとバッサーニは2日目のみ走行しましたが、SCQタイヤを使用してバッサーニが1分38秒478で2日目1位、総合2位、同じくロウズは1分38秒679を記録して2日目2位、総合3位でした。
驚くべきはこれがまだシェイクダウンしたばかりの車両だということです。バッサーニの最終戦の予選タイムは1分38秒917でしたが、乗り換えたばかりのKB998でそれより0.4秒以上も更新しているのです。ロウズの予選タイムは1分38秒302だったのでテストのタイムの方が約0.3秒遅いのですが、ブレガもテストでは予選よりも0.5秒以上遅かったことを考えるとこれも十分速いタイムです。ロウズもバッサーニもあくまでもテストであり速く走ることをそれほど意識していなかったようですが、それでも現時点でこれだけのタイムで走れるということは、セッティングが進みライダーの理解も進めば更にラップタイムは短縮されるでしょう。
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興味深いのはZX-10RRへの乗り換えに苦労していたバッサーニがロウズを上回るタイムを記録したことです。ロウズによると、KB998はZX-10RRに比べ旋回性が高くコーナリングがより自然で、より少ない力で操作できるが、もっとスムーズに乗る必要があるのでライディングスタイルを変えなければいけないだろうと述べており、ZX-10RRでの乗車歴が短いバッサーニの方が早く適応できているのかもしれません。バッサーニによると、ウイングレットのお陰でウイリーが抑制されて加速がしやすくなっているそうです。ZX-10RRのカウルもウイングレット内蔵型でダウンフォースを生み出すとされていますが、ドゥカティやBMW、ホンダと比べるとウイリーは抑制できていなかったようなので、やはり外付けの方が効果があるのでしょう。
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BbKRTのチームマネージャー、ギム・ロダはテスト後のインタビューで次のように述べています。
「プロトタイプを公道用バイクに改造すれば−量産には一定の制約を考慮しなければならないが−良い結果を得ることができる。スタート位置がこれほど良いことにかなり驚いているし、うれしいと言わざるを得ない」
カワサキ
初日3位、2日目も3位で総合4位だったのはプセッティレーシング改めカワサキワールドスーパーバイクチームのギャレット・ガーロフでした。ガーロフは初日1分39秒650、2日目1分39秒229を記録していますが、ガーロフのタイムはSPレースの自己ベストラップよりは遅かったものの、決勝レース1・レース2の自己ベストラップよりも速いタイムです。ガーロフはSCQタイヤを使わなかったらしく、レースタイヤ(SCXまたはSCX-A)でこのタイムを出したのであれば、レース2のラズガットリオグルのファステストラップ(1分39秒246)よりも速いタイムなのでこれは驚きです。BMWからの乗り換えは順調で、来年は1台体制という不安はあるものの意外な活躍を見せるかもしれません。
ガーロフは初日は2024年仕様の車両で走行しましたが、2日目には新しいエンジンで走行しています。これはKB998に搭載されているエンジンと同じ物です。ガーロフは年内はボノボアクションBMWとの契約が残っているのでまだコメントできないのですが、プセッティ監督によると新しいエンジンは明らかにパワーアップしており、スロットル操作のフィーリングも良いと述べています。
プセッティレーシングはこれまでカワサキヨーロッパと契約していましたが、カワサキワールドスーパーバイクチームは日本のカワサキ本社との契約のようです。チーム名の変更と共にカワサキのワークスチームに昇格したということでしょう。
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ホンダ
ホンダはSPレースで負傷したレクオナがテストも不参加、ヴィエルゲとテストライダーの長島哲太、MIEペトロナスのタラン・マッケンジー、スポット参戦していたBSBライダーのトミー・ブライドウェルが参加しました。
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ヴィエルゲは初日1分39秒971で4位、2日目は1分39秒438で4位、全体では5位でした。ヴィエルゲはSCQタイヤは使用していません。ホンダのテストは電子制御やサスペンションのセットアップに焦点を当てたものだったそうで、新しいパーツをテストしていたという話は出ていないようです。ただ、長島は開幕当時と似た形状、上側に膨らみを持つスイングアームを装着した車両も走らせていました。長島は週末の全日本に参戦しなければならないので初日のみの走行、1分41秒183を記録して初日8位、全体11位でした。
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MIEペトロナスはまだ来季のライダーを公表していませんが、マッケンジーがテストに参加しているのでマッケンジーは継続のようです。このマッケンジーがこのテストでは一つのサプライズだったかもしれません。初日は1分41秒063で6位、2日目は1分39秒841で6位、全体では7位のタイムでした。これはマッケンジーが最終戦、全てのレースの自己ベストどころか予選のラップタイムと比べても0.6秒も速いタイムです。どうやらホンダはMIEにもこれまでよりも多くのサポートをすることを決めたようで、HRCと同等の部品も供給されているようです。
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一つ気になるのがHRCがこれで年内のテストを終了していることです。ホンダはスーパーコンセッションの対象なので年間16日のテストが行えるので、これを使い切る勢いでテストをしても良さそうなものなのですが。
BMW
BMWはテストライダーのみが参加、レギュラーライダーの二人はこのテストを見送っています。テストライダーのギュントーリとライターバーガーは新しいエンジンの動作確認や慣らしをしていたようです。この新しいエンジンを搭載した2025年型M1000RRは10月29日・30日のアラゴンテストでレギュラーライダーに託されるはずだったのですが・・・
アラゴンテストは事実上の中止に
10月末のスペインではバレンシアが記録的な豪雨による大規模な水害に見舞われており、MotoGPの最終戦もバレンシアサーキットでの開催は中止になりました(最終戦は改めて代替地で開催予定)。その豪雨の影響か、約180km北にあるアラゴンサーキットも雨に見舞われました。テストにはBbKRTとROKiT BMWが参加する予定でしたが、BbKRTは早々に撤収、BMWはテストライダーのギュントーリが数周走ったようですが、レギュラーライダーの二人は走行を見送っています。
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2025年型 BMW M1000RR
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BMWが新型M1000RRを発表しました。2025年はこの車両でラズガットリオグルとV.D.マークはタイトルを目指すことになります。見た目にはウイングレットの形状が変わった程度に思えますが、エンジン、車体共にかなり手を入れてきたようです。
主な変更点
・圧縮比向上 13.5:1→14.5:1
・バルブシート角度変更 45°→40°
・燃焼室形状変更
・吸排気ポート形状変更(楕円)
・スロットルボディ大径化 48mm→52mm
・ピストン形状変更
これらの変更により、エンジン出力増加 212ps(156kw)/14500rpm→218ps(160kw)/14,500rpm。
・フレームのステアリングヘッド周りの剛性最適化
・フレームの左側エンジンハンガー位置をシリンダーヘッドからエンジンハウジングへ変更
・ウイングレットの形状変更
これに伴いダウンフォースは300km/h時22.5kg→30kgに増加。ただし、最高速度は314km/hを維持
こうして列記してみると、シリンダーヘッドはほぼ新設計と言えるかもしれません。14.5:1という圧縮比はパニガーレV4R(14:1)を抜いてWSBK参戦車両中最も高い圧縮比です。ピストンの形状変更は圧縮比が高められたことによってシビアになったバルブとのクリアランスを確保するためでしょう。なお、最高出力は6ps(4kw)向上していますが、トルクは11.5kgf・m(113N・m)で据え置かれています。
フレームの左側エンジンハンガー位置の変更、というのを見て気づいたのですが、今年型までのM1000RRはエンジンハンガーの位置が左右非対称でした。比較してみると、2023年型は左側のエンジンハンガーが短く、排気管とエンジンの接合部分が見えていますが、2025年型では延長されたエンジンハンガーによって隠れています。カウルが左右非対称なのではっきりとはわかりませんが、右側は変更されていないように見えるので、これまで短かった左のエンジンハンガーを伸ばして右と長さを揃えたのでしょう。
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エンジンの形状が左右非対称なのでフレームの形状も厳密には左右対称にはならないのですが、エンジンハンガーの位置が左右非対称では左右で微妙にハンドリングが異なっていたのかもしれません。あるいは、ヘッド付近でフレームと接合されていたことでエンジンに良くないストレスを与えてしまっていたのでしょうか。
ステアリングヘッド周りの剛性最適化がWSBK参戦の知見に基づくものであれば、BMWが今年使用していたスーパーコンセッションパーツはフレームだったのかもしれません。
前述の通り、この新型の初走行となる予定だったアラゴンテストは悪天候のためレギュラーライダーの走行は見送られています。レギュラーライダーによる初走行は11月末、年内最後のヘレステストになる見込みです。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご指摘、ご感想等ございましたらコメントをいただけると幸いです。