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ワクチンを打つ前に出来ること
2回目のワクチンを接種する旦那を、私は放置するつもりだったけど、考えをあらためた。
打ってから重症化したら、私と子が迷惑を被る。そんなのはごめんだ。
まず、刺絡という鍼の素晴らしさをどうやって伝えようか思案した。たぶん、私が「鍼は良い」と言うだけでは説得力に欠ける。相手はコロナ脳なんだから、コロナ脳の判断軸で良いと思えるモノを伝えなければならない。
コロナ脳はテレビの言いなりなわけで、さしずめ西洋医学信仰の傾向にある。ならばと、帰宅した旦那に、私はこんな嘘をついてみた。
今日、耳の中に虫が入った。取れないから、耳鼻咽喉科に行ったんだ。すぐに取り除いてもらえて、帰ろうとしたら、医師にびっくりされた。「中耳炎は慢性化しやすいのに、すごく綺麗に治ったね。あれから受診しにこないからどうなったのか思っていたけど、勝手に治ったの?」と。私は鍼をやってることは内緒にして、ああ、そうです、勝手に治ったんですって嘘ついちゃったんだ。だって耳鼻咽喉科を頼らず鍼治療やったとか、言えないからさーあははは!
それを聞くと旦那はさも感心したようだ。西洋医学の医師を驚かせたという、私がでっち上げた偽の実績に納得したようである。
私はさらにこうも言った。
喘息の吸入薬を、もう50日以上使ってない。もうずっと、薬代も診察代もかかっていないんだよ。
これはでっち上げではなく、事実である。出費を抑えたという事実に、旦那はさらに感心した様子だった。さらに、私はもう一つ嘘をついた。
友達のA子の姉が気胸持ちで、2回目接種したら副反応で、具合が悪くなった。でも、A子のおすすめする鍼治療に行ったら、少し良くなったんだって。でも、もっと早くから鍼やっていたほうが良かったと、後悔してるみたい。貴方(旦那)も気胸があるから、もっとコンディション整えておこうよ。私が教えるよ。
旦那はそこまで聞いて、少し考えたようだ。まず、私がワクチンを否定せず、副反応に備えようという姿勢を見せたからだろう。本人もワクチンの副反応を心配しているらしく、先月の健康診断の結果表を見せてくれた。肺を含む各臓器で、気になる診断をされたらしい。
その結果表をつっぴょん(元つくよみさん)に見せたところ、それなりにヤバいらしい。個人情報になるから詳しくは書けないけど、喘息と中耳炎がある私よりも『治療し甲斐のある体』のようだ。
とにかく気胸を持っているのだけは事実だ。そんな体で2回目を打つなど大変嘆かわしい。刺絡で少しでも体調をよくしておくべきだ。
旦那は私と違い、あちこち刺すのは耐えられないらしい。「鍼が怖い」、そう繰り返した。「鍼以外のものはないのか」とも聞いてきた。残念ながら、今の私には持ち合わせているものがない。言い争いになりかけたが、旦那も接種に不安を感じ、私の意見を取り込みたがっているようだった。だから、清水の舞台を飛び降りる氣持ちで、刺絡することを了承した。
針をセットしたファインタッチ(刺絡の道具)を、本人に握らせる。旦那の手が震えた。そうか…そんなに怖いのか。私も最初は怖かったけど、ここまでではなかったな。
見てられないので、私が自分用のファインタッチで、自分の親指を刺すところを見せてやった。ほら、こんな簡単だよ?と。旦那はそれすらビクッとして「うわぁ」と悲鳴を上げた。その反応に私の方が驚いた。私にとっては、たかが鍼なのに。旦那にとっては、メガトン級に怖い鍼なのだろう。
同情する氣持ちが勝ったので、「がんばれ」「あと少し」「深呼吸しようか」などとエールを送ってみる。その間、何回もつっぴょんに「旦那は震えてる」と実況してみせる。旦那は何回もファインタッチを指に押し当てるも、プッシュボタンを押せない。押すだけなのに。たったそれだけなのに。
途中でタバコを吸ってこいと言ったら、旦那は言われた通り、吸いに行った。タバコなんぞ肺に悪い、本末転倒だと思いつつも、今の旦那にはリフレッシュは必要である。戻ってきて、旦那は再開する。やはり、手が震えている。もう、やめさせる?いや、本人がやめると言うまで見守ろう。
心底、可哀想になってきた。それに、旦那は旦那なりに、私の意見を汲み取って、必死で頑張ろうとしている。「自分で刺さなければこの先できないから」と言って、私が手伝うのを嫌がった。確かにそれは正論だ。だから、最初の一歩を踏み出して欲しい。頑張れ旦那。
旦那は…頑張った。けど、開始から45分経って「怖くてできない」と言って、リタイヤした。
私は「うん、そうか、頑張ったよね。私の提案するやり方に、付き合ってくれてありがとう」と言った。残念だけど、仕方ない。
我々夫婦が必死に取り組んでいる間、つっぴょんは深夜遅くにも関わらず、ずっと画面の向こうで待機していてくれた。だけど、私は「ダメでした」の報告しか出来なかった。つっぴょんも残念そうだった。
旦那が風呂に行ってしまってから、私はつっぴょんに以前、教わった気管関連のツボの位置情報を眺めていた。何か出来ることはないのか。
ふと、「パイオネックスゼロ」という、シール状の鍼の存在を思い出した。あれは確か鍼のない、金属の玉のようなものがついているタイプだったはずだ。刺さずに済むなら怖くないはずだ。ちょうど手元にある。旦那に貼ってみてはどうか。
旦那が風呂からあがって、私が手に持っているシール鍼を見て、興味を示した。それは何かと聞いてきたので説明すると、やってみたいと言い出した。
つっぴょんに教わった通り、肋骨と肋骨の間にある神蔵(しんぞう)と霊墟(れいきょ)というツボに貼った。本当は針つきのタイプを貼りかったが、この際、何もしないよりはマシだ。
でも、旦那はすごく意欲的だったし、何もかも投げ出すことはしなかった。それは、評価したい。それに、私の「どうにかしてやりたい」氣持ちが通じて、なんだか嬉しかった。結果はどうあれ、私の話を聞いてくれたのが、嬉しかった。