カキエの漢字
ちょうど1週間前(2019年2月)、日本武道館で開催された日本古武道演武大会に出場して、そのとき控え室で様々な流派の演武をモニターで拝見していた。その中に剛柔流の演武もあって、東恩納盛男先生がカキエを演武されていた。
パンフレットを見ると、「カキエ(靠基)」と書かれていた。しかし、筆者は「靠」という漢字は初めて見たので、そのときこの言葉が読めなかった。あとでネットで調べてみると、音読みで「コウ」と発音するらしい。すると、靠基はコウキと読むのであろうか。中国ではカキエのような稽古法は推手と呼ぶが、中国は広いので地域や門派によって、推手のことを靠基と呼ぶところもあるのだろうかと思った。
ところで、カキエの元々の漢字は何であろうか。筆者は剛柔流の歴史は門外漢だが少し調べてみた。宮里栄一先生の著書には以下の文章がある。
この箇所はドイツのアンドレアス・クヴァスト先生から教えてもらって提供していただいた。おそらくカキエについて述べた最も古い文章の一つだと思われる。
宮里先生は、ここでは掛手の漢字を使われている。しかし、掛手は日本語ならカケデかカケテ、沖縄方言ならカキディかカキティと発音し、カキエとは発音できない。
地域による方言の差異もあるが、宮里先生はカキエと掛け手の稽古が似ているので、掛手と漢字を当てたのではないだろうか。ただ先日述べたように、中国ではカキエは推手、掛け手は散手に相当し、両者は別の稽古法である。掛け手は互いの腕を押したり引いたりする「鍛錬法」ではない。純粋な「自由組手」である。
では、カキエの元の漢字は何であろうか。筆者は、「掛け合い」のことではないかと思う。「首里・那覇方言音声データーベース」(現在は閉鎖)に以下の項目がある。
「掛け合い」のことを、沖縄では「カキエー」と発音する。上記データーベースでは、掛け合いを「談判」の意味で解説しているが、日本語の掛け合いには、「互いにかけあうこと」という意味もある。
それゆえ、カキエは、「互いに腕を掛け合う稽古法」という意味で、「掛け合い」を方言で呼んでいたのではないだろうか。これだと意味も発音も合致するのである。
出典:
「カキエの漢字」(アメブロ、2019年2月10日)。