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スラ手:沖縄古来の気合い?

前回の「型の中の気合い」の記事は、型の中の見せ場で発する気合いについての記事であった。この気合いはおそらく型の競技化がはじまった戦後の伝統であろうと思う。

ところで、上原清吉によると、素手による立ち合い(実戦)で、音を発する「スラ手」という技法が昔の沖縄にはあったのだという。著書『武の舞』(1992)に以下の記述がある。

<スラ手>
素手による立ち合いの場合、攻撃する瞬間に自分の身体の一部を叩いて音を発生させたり奇声を発して相手を惑わせ、相手の意表をついて攻撃するための技法。相手の出方や構えに応じて変化させたり、相手のスラ手に惑わされないように稽古をつんだ。

上原清吉『武の舞』66頁。

上記によると、スラ手とは型の中で発するものではなく、実戦で発するものである。また、発声だけでなく、自身の体の一部を叩いて音を出すのもスラ手だという。

奇声というと、琉球でも稽古されていた示現流の「猿叫」が思い浮かぶが、薩摩武術の影響がスラ手にもあったのであろうか。

猿叫はまさに字のごとく甲高い猿のなき声のような叫びであり、通常の気合いとは由来や性格を異にしているように思う。

上原先生によると、本部朝基もスラ手を得意としていたという。おそらく若い頃、掛け試しでスラ手を使うことがあったのであろう。上原先生がスラ手を習ったのは大正時代であるが、筆者はこれまでほかの空手の文献でスラ手に関する記述を見たことがないので、その頃には既に廃れていたのかもしれない。

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