#9 三分割の法則 - 天下三分の計は再現可能か?
最近、息子が三国志を貪るように読んでいます。積極的に勧めた記憶はないのですが、私自身も授業中に横山光輝の三国志を読破した思い出があるので気持ちはとてもよくわかります。
マーケティングの世界では、#6 挑戦者の法則でご紹介したように、リーダーとチャレンジャーの構図がとかく取り上げられがちですが、「第三極」という考え方も忘れてはならない視点だと思います。三国志を三国志たらしめているのは、まさにこの「天下三分の計」にあります。大国に挟まれ決して強国とは言えなかった「蜀」という国がいかにして生き抜いたか?三国志には、そんな弱者が強者を打ち負かすロマンがあり、それゆえに後世に語り継がれてきているのだと思います。
ブランディングの世界における「第三極」としては、サントリーのプレミアムモルツが想起されます。ビール市場はそれまで「喉ごしのスーパードライか?味わいの一番搾りか?」という「味覚をもとにしたマーケティング」が行われてきました。口にするものですし、当然と言えば当然です。その過程で、そもそも口にするものを「喉ごし」に変換したスーパードライも革命的な商品だったと言えるかと思いますが、いずれにしても人々は自らの味覚をもとに、ビールを選んできたわけです。そりゃそうよね。
しかし、プレミアムモルツの戦略は大きく異なりました。そもそもその前身となるモルツは「うまいんだな、これがっ。」と、先頭を切って味覚訴求をしていました。戦う前から蜀が魏の軍門に下っているようなものです。
しかし、プレミアムモルツの発売を機に、彼らは訴求軸を90°変更しました。(180°ではなく、90°であることがポイント!) ビールの選び方自体を問い直すことができれば、右が左か?という世界から抜け出すことができる。「第三極」とは、そうやって土俵を変えることで生まれる市場です。プレモルはそれを見事にやってのけました。金色に輝くパッケージ、「特別な日に飲むビール」というシチュエーション提案、そんな新たな生活スタイルを持ち込んで「ビール市場の第三極」を築き上げたのです。今までの常識を疑い、ひっくり返すことができれば、「第三極」は再現可能なのです。
少し古い事例になりますが、ポカリスエットとアクエリアスがスポドリ戦争をしていた時に殴り込みをかけたサントリーのダカラと言う飲料も根底をひっくり返した商品でした。当時の水分補給飲料の常識は「スポーツ」にありましたが、後発のダカラは真正面から戦おうとはしませんでした。タグラインは「カラダ・バランス飲料」。静的で白くかわいささえ感じさせるパッケージとネーミング、そして個性的なCMで、ポカリスエットvsアクエリアス戦争と恐ろしく遠い距離を置いたのです。これぞ第三極の王道!サントリーのいう企業は、第三極のスペシャリストとさえ呼べるかもしれませんね。
「水分の補給」から「余分なものの排出」に発想転換すること。いつの時代も勝者は、裏をかくことで、天下に一歩近づくことができるのかもしれません。