親に対して「勝手に産んだくせに」と子どもが安心して言える家。
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みんなは親に向かって「勝手に産んだくせに」「そんなに文句言うなら産まなきゃよかったじゃん」って言ったことある〜?
あたいはある。何度もある。
初めてそれを言った時に、母ちゃんから反論として伝えられた話の内容も鮮明に覚えている。
うちの母ちゃんはこう言いましたわ。
「アタシだって産むつもりなかった、金なかったし」
「そんなこと言うな」とか「その言葉は傷ついた」とかじゃなく、あくまであたいの言葉に沿うように「たしかにお前は産むべきじゃなかった」という論旨で話を進める母ちゃん。びっくりするやろ? 一切否定しないの。
あたいを妊娠した当時の望月家の経済事情や、金銭援助を受けている親戚からの意向(死産経験のある叔母が中絶に反対した)といった内々の話も聞かされ、最後に母ちゃんは「お前を産んだせいで一番苦しんだのはアタシ」という結論を下した。
それを聞かされた時、あたいは小学生ながらに「お金のことで思い詰めて自殺すべきだったのは、父ちゃんじゃなくて、僕だったんだな」と思った記憶がある。小学生にして人生初の希死念慮を抱いたかもしれない。いや“死にたい“というよりは、“生まれるべきでなかった“という自責の念だったのだろうか。今となってはどっちでもいいけど、とにかくショックだった。
中学生に上がってから盛大に親子喧嘩した時も、母ちゃんは変わらず決まり文句のように「お前は堕す予定やったんやで」と罵ってきたりした。笑いながら言うこともあった。それは「産んでやったのだから感謝しろ」という意味じゃなく、おそらく「お前なんて尊重するに値しない」という嘲弄的な意図だったんだと思う。
あたいはそれを言われるたびに毎度新鮮に傷ついた。母ちゃんから口汚く罵られても、ブスだと言われても、お前みたいなキモ男じゃなくてジャニーズのタッキーみたいな息子が良かったと言われても、血の繋がった息子なので心の奥底では生を望まれているような気もしてたけど、実のところ「できたから産んで」「産まれたから育ててる」だけで、さほど生誕を望まれてなかった。
せいぜい望まれていたのは「お前は男なんだから、中学さえ出たらしっかり働いて家を支えろ」という経済的な価値。
あたいは母ちゃんに対して“普通の母親“であることを求めるのは薄々諦めていたけど、親であることすら求めてはならないのかもしれないと思い至った。この人はまだ感覚的に少女で、あたいと同じ立ち位置に立っている、とすら感じることもあった。
そしてそう考えるたびに、同時に自分がゲイであり、この国ではずっと家庭を持つこともできないのだから、生涯ずっと母ちゃんと同じ苗字で生き続けるだけの下男なんだなと痛感して、やっぱり自分は生まれるべきではなかったと思いながら幼少期から青年期まで過ごした。
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そんなあたいももう、ただの若者から段々と良いオッサンになってきちゃった。
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天然温泉旅館「もちぎの湯」
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