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ウリセン編67 あたいと、ゲイ風俗で働きながら大学に進学した時の話



18歳の時、あたいはもう寸前まで迫っていた高校の卒業式を待たずに家を飛び出して、都市部のゲイ風俗に入店していた。

はじめは自分の住みかも無かったので、ゲイ風俗の寮に寝泊まりしていた。

寮と言っても、営業中(13時から深夜まで)はプレイルームとして使用している部屋だったので、ベッドは男くさいし、窓もなく換気の悪い室内は鬱屈としているもので。

「こんなとこにおったら気持ちが参るし、はやく寮を出て一人暮らししなきゃな〜〜」と思っていると、右も左も分からない世間知らずな新人のあたいを、すでに何度も指名してくれていたお客様が、

「もちぎとは腹を割って話もできるし、ちゃんと信頼できるから、俺の名義で部屋借りちゃっていいよ」と言ってくれた。あたいはラッキーと思ってすぐに一緒に部屋を探しに行った。いや今思うとあたいも彼もすごいな。

というわけで、あたいは晴れて東京で一人暮らしを始めた。安いワンルームアパートがあたいの城になったのは、高校を卒業して二ヶ月も経たない頃だった。



あたいには、一人暮らしを始めたらやりたかったことがあった。

大音量でゲイビデオを観ることでも、全裸でクッキングすることでも、突然まんぐり返しで「あたいに元気を分けてくれーーーッッッッッ!!」って叫ぶことでも無い。それらは1日目に済まして飽きた。


勉強だった。

あたいは大学受験のための、勉強がしたかった。


当時、世情はあまりよくなかった。

てかあたいは生まれた時からずっと不景気を目の当たりにしてきた気がする。デフレと派遣切りとフリーターの流行に、年金問題、地球温暖化。マクナルのハンバーガー59円。あたいの笑顔は100億円。

あたいの顔面は煌びやかで前だけを向いているけれど、その先は真っ暗な世の中だった。

あたいは母ちゃんに「高校卒業してすぐに働け、男なら稼いで家族支えろ」と言われていたので、なんとなく家族を楽にさせるくらい稼げなきゃ、男の自分は半人前だと思っていた。

18歳そこらで、手に職もないから稼げるわけがないのに、正社員の仕事もバイトの地続きで、働けば働くほどその時間に比例してお金が貰えると思っていた。ハローワークで週7で働ける仕事を探してたのも、そういう理由だ。アホやなあたい。

けど、そこそこ偏差値のある高校に通っていたので(一番家から近い高校がそこだった)、周りは結構な割合で進学すると言っていた。

「高卒で稼ぐより、大卒で働いた方がお金もらえるもん」

そう友達が言っていた。

動機や目的が、生涯賃金のための進学とは虚しく聞こえるかもしれないけれど、進学校でもない公立の高校の生徒はわりとリアリスティック(現実主義)だったので、よく耳にした言葉だった。


あたいは思った。

母ちゃんはたくさん稼げというけれど、高卒じゃそこまで稼げない。
なのになんで大学に行ってはならないと言うのだろう、と。


というのも母ちゃんは、「大学なんてボンボン(お金持ち)が遊びに行くところ。お金さえ払えば誰でも入れる。そんな無駄なとこ行く意味が分からん。金が勿体無いからお前ははよ仕事せえ」

と口酸っぱくあたいに話していた。
たぶん小学生の頃からあたいはそれを聞かされていたのだ。



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