中央銀行の存在意義と機能限界 後編
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中央銀行の役割・役割範囲については、いくつかのnoteで間接的に触れてきました。
例えば、なぜ異次元緩和が失敗に終わったのか(及びアベノミクス(ないしリフレ派)の理論、及びその欠陥(マニアック))では、中央銀行がマネーサプライおよび総需要に影響を持たなくなる経済状況(信用創造の罠)について論じました。「お金」「通貨」はどこからやってくるのか?では、マネーサプライの"直接の"発行体は中央銀行ではなく市中銀行であり、中央銀行と市中銀行の実務上の関係を論じることで、中央銀行とマネーサプライの間の断絶の可能性を論じました。
直近では、財金協調型の名目GDP水準目標政策のすすめにおいて、中央銀行にNGDPへのアクセサビリティがあるとするマーケット・マネタリズムを批判する形で、改めて中央銀行の"不能性"を強調しました。
今回は、あくまで中央銀行を議論の主軸に据え、その実態を詳らかにすることで、マクロ経済における中央銀行の存在意義と機能限界を明確にしていきます。
以下の章立てで論じていきます。
前編(リンク)
①中央銀行と財政(国債)の関係とそれを通じた金融調節
②金利調節メカニズムの概略
後編(当記事)
③信用緩和(質的緩和)の効果経路と問題
④中央銀行と財政の望ましい分業
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③信用緩和(質的緩和)の効果経路と問題
前編においては、いわゆる"伝統的金融政策"、国債の売買による金融調節・金利調節について解説しました。
この節では、非伝統的金融政策の一つである信用緩和(質的緩和)について論じていきます。
信用緩和(質的緩和)は、ざっくり言えば、金融政策手段である国債や、安全資産に類する金融機関CPや金などではなく、リスク資産を中央銀行が買い入れる政策のことです。
代表的なものとしては、バーナンキFRBの不動産証券(MBS)購入と、黒田日銀のETF購入がありますが、この両者は少し性質が違います。
バーナンキFRBのMBS購入は、当時の米住宅バブル崩壊において、その混乱を抑えるために行われた買い支えであり、金融・資産市場の安定化が主目的でした。(また、購入する資産についても、将来的に償還が可能かどうかきっちりとアセスメントされたものに限られていました)
黒田日銀のETF購入は、前編で解説した金利調節メカニズムが限界に達する中で、リスク資産(ここでは株式)に資金を供給し、リスクプレミアムを引き下げる利子率効果が主目的となっています。(また、リスク資産を安全資産(ここではMB)に入れ替えることで、リスクテイク……リスク資産への投資を促すポートフォリオ・リバランス効果も目的となっているでしょう)
金融・資産市場の安定化は、それなくして現代資本主義経済の安定的成長はあり得ないため、重要な政策とはいえると思います。
しかしながら、中央銀行単体で行うのには限界があります。中央銀行の"本来の業務"に支障をきたしかねないからです。
中央銀行の"本来の業務"は、前編で解説したように、市中・政府のMB需要の増減、及び短期金利目標に応じたMBの調節です。そのためには、中央銀行は、十分な量の見合い資産(金融調節手段となる資産。基本的には国債)を保有しておく必要があります。
ところが、リスク資産はそうした円滑な売買が困難、ないし不可能です。(値崩れ・高騰を起こしやすい) 中央銀行の保有資産のうち、リスク資産のウェイトが大きくなりすぎると、本来業務である金融調節に大きな支障を来してしまいます。
実際、バーナンキの回顧録「危機と決断」では、買入量が増えてきた段階で、財務省との協力が必要になった旨が報告されています。中央銀行の金融調節機能を棄損しないための措置です。
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