三千世界の烏を殺さず ゴキブリと朝寝をしてみた
詠み人 どり杉晋作
【モテアマスの日々が私をかたち作る】
伝説的シェアハウス・モテアマス三軒茶屋に住んで早3年。まるで不感温浴な寛容と不干渉、そして混沌に満ちた世界にどっぷりと浸かっていたおかげで、今の生活にかなり慣れないと言うかぶっちゃけストレスがある。
訳あって(ない)現在、南半球で冬を過ごしている。
住居はシェアハウスとホームステイの中間のような形態で、大家の敷地にある小屋みたいなところで一度も顔を見たことがない日本人女性と部屋は別々ながらキッチンとバスルームを共にしているのだ。図にするとこんな感じ。
内見に行った時の印象は田舎でボロいけど、母家とは離れているし自由そうだから面倒臭いしもうここでいいやーと思って決めたのだが、これが誤りだった。めちゃくちゃ顔の知らない同居人も大家も干渉してくる。うー。あー。
モテアマス学園の自主性を重んじる校風から一変、規律バキバキの空間で窒息しそうな生活を送っています。あゝ、モテアマス学園恋しや。
そんな日々の中、ハプニングが。
すでにご存知の通り(?)、筆者はトラブル体質である。飛行機は欠航し、少し優しくした陰キャにストーキングされ、通り魔には殴られ、不審者によく絡まれる。偶然目撃した盗撮犯を警察に突き出したことも。そんな様々な困難を経験しすっかりスレた人格に仕上がってしまいました。悲しいね。
強風吹き荒ぶクソ寒い夜、家に帰ると鍵の調子が悪い。業者が来ていたのでそのせいかなと思いつつ、部屋から出て戻ろうとすると、
扉が、開かない。
なんと身一つで放り出されてしまったのである。
まさかまさか〜と笑いながらノブに手を掛けるも回らない。完全に鍵が閉まっている。そんな、どうして。
意外と冷静に絶望している。針金を見付け出してピッキング始めるも全く歯が立たず。しかもよりによって、そんな日に限って大家は外泊で不在。気付けば5時間ほど虚無とダンスしていたのだった…
ちなみにモテアマスでの生活では部屋の扉が引き戸なことにより、かなりの確率で締め出されていたのですが、引き戸なので下から下敷きをスッと通すと開きます。一見、セキュリティなんてあったもんじゃないですが、信頼というなの防犯設備常設のため盗難などはありませんでした。すごい。
パーカー一枚では凌げない寒さに指先は凍りつき、凍えながら夜明けを待ち候…と覚悟を決めていたところ、偶然来ていた母家のゲストとコンタクトが取れ、物置になっている空き部屋で寝られることに。
遠い土地の八百万の神に感謝し、ベッドを発掘するとすでに先客が。
シルエットを見た瞬間に時間が止まり、ザ・ワールドと邂逅したのかとの錯覚に陥りました。
透き通るような茶色のボディにバッタのような強靭な後ろ足、そしてメスのクワガタよりもデカいその姿に、カマドウマだと信じたい… いやなんなら動かないし死んでるのでは? ハッ もしかしたらこれはオモチャなのでは!??? そうだ! オモチャだ! だってモテアマスにはオモチャのソレがたくさんいたもの!!!!
モテアマスはいつだって私に勇気をくれます。
ソレのオモチャにその辺にあったビニール袋をそっと被せました。すると独特な動きで暴れ逃げ出すオモチャのソレに鳥肌が止まりません。人間とはなんて無力なんでしょう。
機械仕掛けなのでしょうか。とてつもないハイテクさはさながらホンモノです。
ふと意識を取り戻すとオモチャのソレはベッドの下に潜り込んでいました。私は全てを悟り、貴様はベッドの下で、私は上でともに寝よう。会うのはよそう。と不可侵条約を結び、クッションで真ん中にバリケードを貼り、ソレの対角に位置する隅っこでひっそり丸くなり意識を手放しました。
モテアマス以前では考えられない”諦め”の対処法。自分でコントロールできないことは諦めて受け入れるしかない。(主に虫とか)(絶対にいるので)
モテアマスでの日々はまた一日と長く、私を生かしてくれているのでした。