コーチングとは何か?
はじめに
みなさん「コーチング」といった言葉を聞いたことがあるでしょうか?
なんとなくコーチングのことを聞いたことがある人は、カウンセリングに近いイメージを持っていたり、なんだかスピリチュアル的な怪しいもの(?)というイメージをお持ちかもしれません。
私が現在通っているMindset Coaching Schoolのコーチングは、上記とは全く異なり、理論体系に基づくものです。
(4月更新:卒業課題に合格し、Mindset Coaching SchoolのCertificationを授与していただき、プロコーチになりました。これまで関わってくださった皆様、本当にありがとうございました。)
本記事ではコーチングとは何か?、現状の外のゴール設定とは何か?ということを解説していきます。非常に長い記事になりますが、これを読んでいただければ、コーチングや実際にセッションを行う際の全体像について理解していただけます!では、早速はじめていきましょう!
コーチングとは?
コーチングとは、脳と心=マインドのカラクリを使って、クライアントのゴール設定を行い、内部表現の書き換えを行うことにより、クライアントが主体性を発揮した人生を歩むサポートをすることです。
ゴールとは、到達までの道筋が見えない、想像しようとすると怖くなるような現状の外側にあるもの、でも本人からすると本音でやりたくてたまらないようなものです。(ゴールについては後述します)
コーチングセッションは、基本的に1on1で対話を行います。コーチからの質問や投げかけを踏まえ、お互いに対話を行うことで、クライアント自身に気づきを与え、ゴールを設定し、決断を促します。
対話という形式ですが、コーチは言葉のみならず、表情や声のトーン、言葉を発している意図意味を含め、言語・非言語情報すべてを丁寧に観察してセッションを進めます。
コーチは、マインドの使い方のプロとして、クライアントの利益100%(=自分の利益は0%)で、クライアントがゴールを設定することをサポートします。クライアントがゴール達成に向かって行動する際の伴走者です。
誰よりも(家族よりも親よりも!)、クライアントであるあなたのゴールの達成を信じきっている最大の味方です。と同時に現在のあなたにとっては最大の敵となる存在です(こちらも後ほど触れます)。
コーチングの対象となるのは、現状では考えられないような成長を求めている人や、特別な人生を歩もうとしている人です。
現在の自分では考えられないようなゴールを設定し、ゴール達成のためにチャレンジをしていくことになるため、必然的に行動も時間の使い方も変わってきます。そのため、「現在の状態がハッピーで今のままがいい!」、「良いとも言えないけどなんとなく今のままの人生でも悪くないなあ」という人はコーチングの対象にはなりません。
本コーチングは、認知科学による裏付けもなされています。認知科学とは、情報処理の観点から、「心とは何か、心はどのように働くのか」という人間の知覚、記憶、思考などの知的機能のしくみを理解しようとする学問です。心理学、神経科学、言語学、人類学、人工知能、哲学といった様々な視点から「心」を研究する科学の一分野です。
....ここまでで、既にいろいろな言葉が出てきましたが、より詳細にコーチングで使う用語について一つ一つ解説していきます。
ビリーフシステム(内部表現)
ビリーフシステムとは、情報を入力して出力するまでの我々の内部表現のことです。認知には入力と出力があり、情報を(Input)して、情報を処理して、情報の出力(output)を行っています。ビリーフシステムはInputする情報をいかに処理するか、処理するときの基準となります。
例えば腕時計が好きな人(Aさん)にとっては、会議中に他人の腕時計が気になって、どんな腕時計なのかということに注意を払います。もし高級な腕時計をしていたら、会議のアイスブレイクとして触れるかもしれません。一方で、腕時計に興味がない人(Bさん)にとっては腕時計に関する情報はどうでもいいことなので、話している人がどんな腕時計をつけているかについて関心を払いませんし、そもそもどんな腕時計をつけていたかすら覚えていないこともあります。
実際に相手は腕時計をつけています。この情報(入力)に色はなく、誰にとっても等しく存在する事象です。Aさん/Bさんともにその情報を見ているのですが、優先順位や好き嫌いを個々人の情報処理パターンによって処理しているため、知覚や行動に差がでてくるというわけです。
ビリーフシステムは人によって異なります。人によって物の見方や目に付くものが異なるのは、個々人の重要性によって情報を処理しているからです。ビリーフシステムは重要性関数であり、自分の重要性の中でしか物事は見えません。
私たちは生まれてから今に至るまで、教育、親の影響、社会的圧力といった何かしらの外部刺激によって、自分の中で物事の重みづけを行い優先順位を決めているのです。
情報処理のパターンが変化すると出力が変わる、つまり行動が変わっていくということになります。
スコトーマとRAS
このビリーフシステムに基づいて、すべての情報から重要性の高いものを脳に入れる機能のことを、RAS(Reticular Activating System 網様体賦活系)といいます。RASが作用することをRASが発火する、と言ったりします。
現代は特に情報量が凄まじく、人間はスマホからPCから、街中での広告から、ありとあらゆるところで毎秒おびただしい情報を受け取っています。これらの情報をすべて脳で処理していたら脳がパンクしてしまうため、RASを発火させ、自分にとって重要性の高い情報だけ取捨選択しているのです。RASは情報をソートする機能を果たしています。
さきほどの例だと、腕時計が好きなAさんにとっては、RASが発火し腕時計に関する情報が目に飛び込んできている状態です。
RASは、特に自分の身銭を切ったときや責任性が生まれたときに発火します。例えば、サッカーワールドカップにおいて、スペインvs日本戦のサッカーくじを購入した人は、試合の結果や、スペインの選手に関連する情報が気になってきます。子供が生まれた人にとっては、自分の中で子供に関する情報の重要性が上がったことになるので、自然と街中で子供が目に付いたり、子供服などに目が向くようになります。騒がしい状況においても自分の名前が呼ばれたときに反応できるカクテルパーティー効果などもRASの影響です。
お分かりの通り、見えていないものを見ようと意気込んだり努力したりすることは必要なく、自然と目についてくるようになります。現在の事象が変わったのではなく、自分の中の認知が変わったということです。
一方で、RASによって、自分にとって重要ではない、「見えていないもの」が生まれることになります。これをスコトーマ(心理的盲点。目が見えないことを意味するギリシャ語)といいます。脳の情報爆発を防ぐためにRASが発火しているので、いいことではないかと思われるかもしれませんが、スコトーマがあるがゆえに、自分にとっての可能性を自分で見えなくしているという見方もできます。
上記の例では、コスメ広告がスコトーマです。この男性にとって、コスメ情報を知ってコスメに関するトレンドを把握する、という可能性が失われていると捉えることもできます。
また例えば、会社にとっての新規事業を創出するプロジェクトにおいて、既存事業で成果を出してきた人たちがプロジェクトにアサインされたとしましょう。彼らは過去の成功体験や、その会社における暗黙の前提に縛られ、既存事業の延長しか思いつかない、なんてこともあります。
今までの重要性に基づく考えでは、新規事業は創出できないのです。
彼らにとってのスコトーマが、飛躍的な成果を挙げるの可能性を秘めたものであるのに、そこに気づくことができません。
では、このスコトーマを外すためにはどうすればよいのでしょうか。どうすればビリーフシステムの重要性を変えることができるのでしょうか。結論から申し上げると、「ゴール設定をすること」になります。
ゴール設定
ゴールとは冒頭、「到達までの道筋が見えない、想像しようとすると怖くなるような現状の外側にあるもの、でも本人からすると本音でやりたくてたまらないようなもの」とお伝えしました。
ゴール設定できたとき、ビリーフシステムがゴールを重要度の高いものとして認識し、RASが発火することによって、いままでスコトーマだった情報が見えるようになります。
ゴール設定を行い、例えば、ゴール達成に向かって、責任感を伴った行動をとる(Have toまみれで働いていた会社を辞める決断をする、周囲の人に「xx日までに○○をします!」と宣言する)ことで、RASが発火し、ゴールに関連する情報が目に飛び込んでくるようになるでしょう。
ゴール設定においては以下の3つの事項が重要になります。
①本音のWant toであること
②複数設定すること
③現状の外であること
①本音のWant toであること
Want toとは、心の底からやりたいと思っていて、これまでの人生を通底して繰り返してやってしまっていることです。やりたいなあという妄想ではなく、やってしまっていることなので、行動として表出しています。周囲の期待や、あれをせい/これをせいといった外的な圧力がなくてもやってしまっていることです。
プロセスや行動そのものが報酬になっている、やっていること自体が楽しいものがWant toです。
Want toを抽出する際には、よくないことが起きるリスクやデメリットが大きいとわかっているのに、権威(家族、先生、友達、彼氏彼女、集団的圧力)に反発し、彼らの言うことを聞かずにやってしまったことに着目するとよいです。リスク感度がバグってしまっていること、それでもやりたかったことがWant toです。
SNSをさかのぼるなどして、過去の権威と逆らったことを抽出し、一つひとつの出来事について過去の記憶にアクセスして、何をやっていたのか、そしてその行動の意図は何だったのかを出していったりもします。
行動をした背景にある意図が、繰り返し出てくるものであればそれがWant toとなります。
Want toと対になる概念がHave toです。
周囲の期待に応えようと思ったり、結果を求めて行動すること、結果を想定しないと続かないものはすべてHave toです。自分以外の欲求に応えようとしてやっている行動です。「~せねばならない」というものです。
例えば、サラリーマンが、「死んでも仕事をやりとげます!」と言っているのは責任からくるものなのでHave toです。また、「今日も会社に行かなければいけないなあ、あの仕事やりたくないなあ」と思っているということは、おそらくHave toまみれの仕事を行っているのだとみなすことができます。
Want toはHave toと違い、結果が出たらいいなとも思っているけど、結果が出ても出なくてもやる、なぜならやっていること自体楽しいから、というのがWant toの心象風景です。
また、Want toと才能は違います。筋トレをちょっとやっただけで筋肉がつく人は筋肉がつく才能があるといえますが、筋トレが好きじゃない場合もあります。Want to=好き、才能=得意、ということもできます。
②複数設定すること
さて、ゴール設定で重要な2つ目、複数設定することにまいりましょう。コーチングでは、8つの領域からなるバランスホイールを用いて、すべての領域にオールライフでゴールを設定します。
複数設定する理由は、ゴールに対する臨場感を高めるためです。複数の領域のゴールが相互に作用しあい、「仕事のゴール世界に生きている自分だったら趣味はこうなっているだろうな、そのときの人間関係はこうだな、これを全部やるにはこのくらいのお金が必要だな、、」というように、それぞれの領域のゴールが重なり合い作用しあい、臨場感が高まることでゴール達成に向かっていきます。
また、仕事だけゴールを設定して邁進していっても、結果的に睡眠不足になり体を壊してしまったら元も子もありません。そのため、オールライフでのゴール設定が必要になります。
バランスホイールのそれぞれの領域の簡単な定義は以下の通りです。
仕事:
自分の機能を継続的に提供して、社会の役に立つこと。お金を払ってでもやりたいこと(職業機能の定義を行い設定する)
趣味:
自分が好きでやっていることで、社会の役に立たないこと。お金を払ってでもやりたいこと
人間関係:
ゴール世界にいる自分がもっている、仕事や趣味の人間関係
社会貢献:
自分と全く関係のない領域での貢献(地域コミュニティへの貢献は自分が得をするので×。SDGsに関する活動などが該当)
健康・美容:
ほかの領域のゴールを達成するために必要な栄養、休養、運動、美容。ファイナンスと同じくバランスが重要(身長に合った体重を目指すなど)
家族:
子供や親、家族にとってどんな自分でありたいか
知性:
アカデミックなどの体系的な学び、生涯学習/リベラルアーツ(自分の仕事とは関係ないもの)
ファイナンス:
7つの領域のゴールを達成するために必要な、収入と支出からなるお金のバランス。領域のなかで最後に設定する
定義を見ていただくとわかるように、例えば趣味についてはゴール設定しやすいです。誰の役にも立たないが誰の迷惑にもならないものであるため、始めやすいことと、Want toが出やすいためです。
③現状の外であること
最後に「現状の外」について解説していきます。
このままいけば想定される未来、については未来とは言わず、Status quo=現状を指します。
例えば、サラリーマンがその会社の社長になる、というのは、なり得る可能性がある未来であることから現状であるとみなします。
日本においては義務教育があるので、小学生からみたときに中学生になることも現状ですね。
ビリーフシステムに劇的な変更がかかってしか達成できないことが現状の外のゴールです。
現状の外のゴールは、今の自分では到底できるはずもないように思えるもの、ゴール達成方法もプロセスもわからないものです。
今の自分はゴール達成のために絶対的にリソースが足りていない状態です。現状の外のゴール設定はとても怖いものです。まさに私もコーチとともにゴール設定したときには、体が熱くなり、できるか全くわからない、ものすごく怖い、でもなんだかやってみたい、けど今の生活もあるし。。。というような「底が抜ける」状態を体験することになります。
もしゴールを設定していなかった場合に人はどうなると思いますか?
答えは、「ゴールを達成しないというゴールが達成される」です。つまり、ゴールを設定していなければ、それだけでゴール設定できている人に比べるとセルフハンディキャップがある状態です。行先もなくふらふら生きているだけだからです。
これは例えば、何も予定がない1日の過ごし方と似ています。昼まで寝て、適当にお昼ごはんを食べ、だらだらスマホやテレビを見たりしてベッドで過ごしていたら、気づいたときにはもう夜になってて何もしていない自分に絶望。。。ということと似ています。仮にゴール設定できていれば1日を無意味に過ごすことがなくなります。
また、ゴールは現状の外なので、クライアントの中には答えはありません。
(いわゆる世間的な認識のコーチングでは、共感傾聴をしますが、クライアントの現在のビリーフシステムをより強固にする、現状の内側によりとどまってしまうことになるため、そもそもゴール設定ができません。こうしたコーチングはカウンセリングに属する類のものとなります。)
また、現状の外のゴールはとてつもなく現状から離れたものなので、通常一人でゴール設定した場合には現状の外になりません。ビリーフシステムは現在の自分にとっての重要性という観点で物事を判断しているため、自分が考えて出したゴールは、現在の自分にとって都合のいい人物を喜ばせるもの、自分にとっての理想の現状=現状の内側のものとなりがちです。
そして、ゴールはとてつもなく怖いものであるがゆえに、自分にとっての本音のWant toに基づくもの、本気で達成したいと思えなければそもそも立ち向かえません。
そもそも設定することが難しいゴール、設定できたとしても怖くて、立ち向かうことに尻込みしてしまうゴールですが、そのためにマインドのカラクリのプロ、誰よりもゴール達成を信じ切っているコーチがいるのです。そしてコーチはマインドのカラクリを用いてクライアントの現状の外のゴール達成を支援していきます。
そのときに必要なものがエフィカシーです。
エフィカシー
エフィカシーは、「(現状の外の)ゴール達成能力についての自己評価」、自己効力感のことです。「なんかよくわからんけど俺ならいけるでしょ!」という謎の自信がある人はエフィカシーが高いといいます。SLAM DUNKの主人公桜木花道などが典型で、素人なのに「天才の俺ならできないことはない!」と言ってのけるのはエフィカシーが高い証拠です。
大事なのは今の自分に対しての自信ではなく、ゴール達成できることに対する自信のことです。
これに対して、エスティームという概念があります。
エスティームとは、「自分の現在のポジションに対する自己評価」、自己肯定感のことです。現在の役職や地位といったポジションに対する自己評価です。
本来人間そのものに価値があるというのがエスティームの心象風景です。
(なお、常に緊張感を与える先生や親と接するなど、心理的安全性が低い状況に置かれると、エスティームが低くなります。こうなったら生きていくことも難しくなるので、エスティームが低ければゆっくり話を聞いてあげて共感傾聴をする、カウンセリングを行うなどしてまずはエスティームを上げていく必要があります。)
一定程度のエスティームがないと、コーチングはできません。なぜなら常にチャレンジを続ける人生を過ごすことになるため、エスティームが低い人にとって、場合によってはつらすぎる状況に置かれてしまうからです。
一方で、エスティームが高すぎると現状にとどまってしまいます。例えば大企業の役員などが該当し、ポジションに対する自己評価が高く、自分は同期の中でも一番に出世した、自分は○○会社の役員だ、という評価を持っているので、現状に安住してなかなかそこから抜け出すことができません。
社長になるぞ!と意気込んでいた人が社長になったとき、そこが能力のピークで、あとは現状にとどまっているためなかなか突破できない、、というのはエスティームが高すぎるために生じています。
話をもとに戻します。
ゴールはWant toに基づくものだとお話ししました。ゴールは現状のなかにある重要性関数の外側=現状の外だが、Want toだから現在の欲求に素直に認識を当てて、まずは出してみることが重要です。そしてそれは現状の内側だからそれを外側に押し出していけばいいのです。
ゴールは探す、見つけるものではありません。ゴールは設定するものなのです。ゴールが見つからないのは当たり前、最適解じゃないので解がないのが正解なのです。ゴールは作るものです。
この作るときに厄介なのが、ゴールは現状の外であるがゆえにとてつもなく怖いものだからです。それを突破するのに必要なのが「エフィカシー」です。
どうせできっこないと思っている限り、ゴールは現状の外側に行きません。人間はできない理由を探し出す天才であり、あれこれできない理由をもっともらしく語ります。これをクリエイティブアボイダンスと言います。(私もゴール設定においては、クリエイティブアボイダンスをしていました。時間がない、いまのままでは到底できっこない..etc。話しているときに「クリエイティブアボイダンスだなー」というのを自覚しながら。。。)
エフィカシーが低い場合、ゴール設定も、ゴール達成もいずれも難しくなります。
コーチは、クライアントのエフィカシーの高い領域を探っていきながら、エフィカシーを上げるサポートを行い、ゴールを設定します。エフィカシーが高いクライアントは現状の外にも立ち向かっていけるのです。
さて、これでゴールを設定し、エフィカシー高くゴール達成に向かっていく状況ができました。
.....かと思いきや、脳に備わっているある機能により、ゴール達成には困難が待ち受けています。それがホメオスタシスなのです。
コンフォートゾーン
ホメオスタシスとは恒常性維持機能のことです。
例えば、人間の体はだいたい平熱といわれる36.5°を維持しますが、このように無意識の中で常に慣れ親しんだ一定の状態をキープしようとすることをホメオスタシスといいます。この、慣れ親しんだ心地よいと感じている領域をコンフォートゾーンといいます。コンフォートゾーンは人のパフォーマンスの限界を決めるものです。
人はなかなかコンフォートゾーンを抜け出すことができません。例えば、仕事でキャリアを重ね、プロフェッショナルになってきた人がいるとしましょう。スキルがどんどんあがっていき、Canが大きくなってきているからこそ、人から任せられることが増え、仮にHave toまみれの職場だったとしても、現状から抜け出すことが難しくなってくる側面もあります。ホメオスタシスのフィードバックがかかり、コンフォートゾーンから抜けられないのです。
この文章の冒頭で、コーチは「現在のあなたにとっては最大の敵となる存在です」といったのは、まさにホメオスタシスの力によって、何とかして現状に引き戻そうとするあなたにとっては、ゴール設定をして行動を促すコーチは最大の敵として立ち現われることになるのです。
コーチングセッションが終わって日常の生活に戻った時、コンフォートゾーンが現状のままにあるとすぐに現状に戻ってしまいます。
日常においては、ゴール達成の妨げとなるドリームキラーがたくさんいます。
「そんなの夢物語だよ」とか、「危ないからやめておいたほうがいいよ」、と言ってくれる人たちのことです。彼らは本音で私たちのことを思ってくれているがゆえに、大きなチャレンジや一般的な目線では突拍子もないように見えることを止めにくるのです。
そんな日々のなかで過ごしていたら、現状に臨場感が生まれるのは当然のことでしょう。
ホメオスタシスの力が働き、今まで通りの日常である現状を生きていくことになるのです。自己啓発本を読んで感情が高まったとしても、翌日には元通りの日常を生きているでしょう。また、ダイエットしよう!と意気込んでも3日坊主になることも多いでしょう。これは、ホメオスタシスの力が働いているためです。
重要なことに、コンフォートゾーンは2つ同時に持つことができません。選ばれるのは臨場感の高いものです。
ゴールと現状どちらをコンフォートゾーンとして採用するのかゴールの臨場感をどうやって高くしていき、ホメオスタシスのフィードバックがゴール側にかかるようにするのか。そのために必要なものが、セルフトークになります。
セルフトーク
セルフトークとは、無意識に自分自身に語り掛けている言葉です。人間の脳は無意識に1日に3万~5万回自分に語り掛けているのです。
ビリーフシステムは「Failure Driven Index」であるため(そうでないと人類が生き残れなかったから)、失敗を基軸とした優先順位の体系がビリーフシステムの根本です。そのため、ほとんどの人はネガティブセルフトークが出やすくなっています。
セルフトークが自己イメージ、パフォーマンスを決定します。
セルフトークがセルフイメージを形成し、セルフイメージがコンフォートゾーンの境界を決めるのです。
セルフトークが脳を動かすことについてお話すると、
自分が語り掛けることば(セルフトーク)
→
言葉が映像(イメージ)を生む
→
映像が感情を想起する
→
自己イメージを形成する
→
自己イメージ=コンフォートゾーンを作り上げるのです。言葉→映像→感情→自己イメージ→コンフォートゾーンです。
セルフトークとビジュアルの対象は同じものです。
私は何者だという定義を変えると言葉が変わる、イメージが変わるように、
世界チャンピオンになる前から世界チャンピオンになった自分が発している言葉を言うことで、実際にチャンピオンになれるという現象があります。
言語を利用して仮想的な空間にリアリティを上げるのです。
私たちは映画を見て感動して泣いたりするように、実際に存在しないものに対しても臨場感を高くもつことができます。
自分に対して肯定的な言葉(セルフトーク)で語り掛けることを通し、潜在意識を変化させ、望む方向に自分を導くことをアファメーションといいます。
アファメーションにより、ゴール世界に生きている自分をありありとイメージすることで、その世界を現実のものにすることができます。
ゴールに向かうためのリソース計算は脳が勝手にやってくれます。現状の外のゴールが正しく設定され、日々の生活にこうしたアファメーションを取り入れることで、ゴール世界の臨場感が高まります。プロセスは脳が無意識のうちにクリエイティビティを発揮し、創造してくれます。Invent on the wayというものです。決断が先、プロセスは後、なのです。この脳の使い方は普段の仕事の中ではおそらく逆なので戸惑うこともあるかもしれませんがこれで問題ないのです。
Image×Vividness=Realityという図式が成り立ちます。人間は今ここにないものを想像し、臨場感をもつことで現実を生み出すことができます。真のWant toに基づく現状の外のゴールを設定できれば、脳は無意識のうちに創造力を発揮し、ゴール達成までの道筋をはじきだしてくれます。
言葉の定義を書き換えるだけで世界が変わります。セルフトークはあるべき未来のコンフォートゾーンをつくるために非常に重要なものであり、セルフトークをコントロールしてビリーフシステム(内部表現)を変えゴールの臨場感を高め、コンフォートゾーンを変えていくのです。ホメオスタシスのフィードバックがゴール世界にかかるようにしていくのです。
ゴール設定ができたら、ゴール世界がコンフォートゾーンになっている自分が発している言葉をセルフトークとして自分に叩き込みましょう。
また、失敗したときにも、しまった!ではなく、むしろチャンスだ!と言うようにすると、セルフイメージが変わっていきます。
まとめ
非常に長くなりました。ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございます。今までの話をまとめます。
マインドのからくりを上手く活用して、主体性を発揮した人生を歩むためには、現状の外かつWant toに基づくゴールを複数(バランスホイールすべての領域に)設定することが重要です。
ゴールを設定すると、脳のビリーフシステム、重要性関数が書き換わり、スコトーマが外れ、ゴールにとって重要なものに対してRASが発火し、見えていなかったものが見えるようになります。
ただし、ゴールは現状の外なのでとんでもなく怖いものです。これを突破するのがゴール達成への根拠のない自信、エフィカシーです。
一方、ホメオスタシスのフィードバックにより、現状がコンフォートゾーンである状態がなかなか変わらないので、ゴール設定をしても人生がかわっていきません。コンフォートゾーンは2つ同時にとれないため、ゴールに臨場感を持つことで、コンフォートゾーンがゴール側に動き、ホメオスタシスのフィードバックがゴールに向かって働くようにしたいのです。
そこでゴール側に臨場感を持つためには、セルフトークを変える必要があります。ゴールがコンフォートゾーンになっている自分であればこう言う、というイメージでセルフトークを作り、自分に語り掛けていくのです。結果として、エフィカシーが上がり、臨場感が高まり、ゴール達成に近づくことができるのです。
※映画「THE FIRST SLAM DUNK」を見ていて、随所にコーチング理論が散りばめられているなあと感じました。観客の皆さんの見終わった後の興奮含め、素晴らしい心象風景がつかめると思います。