【月刊noo】降っても晴れても【2023.6月号】
《月刊noo 2023.6月号 目次》
・ごあいさつ ~はじめに~
・エッセイ:ソ連邦のおもひで
~モスクワへの道 穴だらけのON・THE・ROAD~
・サバイヴ(エッセイ):もてない人(再掲)
・レシピ :『眠れぬ夜はケーキを焼いて』で朝を迎えよ
・ごあいさつ ~おわりに~
・宣伝:キクカク企画
・オマケ
ごあいさつ
月刊noo、3号目です。
いつも読んで頂いてる方、いいねしてくれる方、サポートしてくれる方々、ありがとうございます。
梅雨時はいつにもまして心も体もしんどくなりやすいので、色んな形でのエールに感謝です。
6月は私にとって、1年のうちで年末年始と同じくらい体調を崩しやすい月です。季節の変わり目プラス、天気と気圧が乱れまくる梅雨の時期ということもあり、降っても晴れても頭痛もでるし眩暈はするし、謎に目が充血するし。さらに体調にひっぱられて気分も落ち込みやすくなります。私はジェットコースターが苦手で、絶叫マシンで有名な富士急ハイランドには一生縁がないタイプの人間ですが、この時期は否応なしに乱高下する地球の気圧というジェットコースターにのせられて心身ともにゲロゲロです。
気持ちはクサクサ腐ってゾンビのようですし、湿気でむくんだ体は濡れた米俵か水揚げされたマグロのごとく、隙あらばベッドに横たわってます。
これは私の周囲の人調べですが、常日頃からメンタルに不調を抱えがちな人は、すべからく梅雨時が苦手っぽい。普段元気な人も憂鬱になる季節ですから、いわんやメンタル不調の民をや。
この記事が公開される頃には、梅雨明けしていることを祈って。
今月も、張りきりすぎず生き延びましょう。
エッセイ:ソ連邦のおもひで
~モスクワへの道 穴だらけのON・THE・ROAD~
1991年6月13日。
赴任して早々、国際空港のトイレでソ連邦の洗礼を受けた私と母。(マガジン前号https://note.com/mosukuwakanu/n/n779aef96251fを参照)
空港をでるための手続きをまつ間、日本を出る頃から顔色が悪かった母はますます口数が少なく、退屈した私は妹と延々と「アルプス一万尺」や「線路は続くよどこまでも」の手遊びを繰り返していました。
薄暗く、汚く、まばらな職員には愛想などなく、トイレに紙も座れる便座もない旧シェルメチボ空港。手続きを延々と待たされた後、ようやく空港をでる許可がおりて、父の仕事の前任者であるK氏が出してくれた車で一路、私達家族はこれから最低3年間は暮らすことになるモスクワ市内を目指すことになりました。
もっとも、私達が住む予定の部屋にはまだ前任者のK氏のご家族が住んでいたので、しばらくはホテル暮らしの予定で、まずはモスクワ市内にある、日本大使館近くのホテル「エストニア」へと車で向かうことになったのですが、私達はここでも、日本じゃ絶対にありえないソ連邦クオリティと未知との遭遇を果たすことになったのです…。
車を運転してくれていたK氏「あ、こっちは道路に穴あいてて車が飛びますんで、舌とか噛まないように気をつけてくださいね」
…穴?道路に穴??車とか走る道路に???あと車が飛ぶとは…???
その疑問への回答は、私達を乗せた車が走り出してすぐに明かされました。
ソ連邦の道路、普通の道から高速っぽいとこまでめっちゃ穴あいてる!!!
その上をビュンビュン車が走るから穴に車輪とられて車体が浮くぅ!!
…なんでだよっ!!!
と、当時大人だった父と母は、定期的にビヨンビヨンと跳ねる車の中で思っていたのではないでしょうか。
ちなみに私と妹は子供だったので、最初こそ道路のあちこちが陥没して穴のあいた道も跳ねる車も面白がって楽しんでましたが、ほどなくこのビヨンビヨン走法はめっちゃ車酔いすることがわかってぐったりしてました。
なんといってもこの道路にあいてる謎の穴、大小様々でバラエティー豊かなのですが、小さいやつでもマンホールの蓋くらいありますし、大きい穴はそれこそ車輪がハマったら動けなくなりそうなレベルの陥没具合。
どうしてそんな穴が道路の、それも絶対避けて通れない場所に放置されているのか…。
野生のマリオカートコースでしょうか。(当時はまだマリオカート出てませんが…)
いいえ、ソ連の一般道です。
一般道の定義を試される大地、ソ連邦。
ちなみに、そんな穴の上をどうやって何台もの車が通っているのかというと、「スピードと勢いで穴に落ちる前に走り抜けて」事なきを得ているという、嘘のような力業。(たまに事なきをえてない車もあります)
ちなみに当時走行していた車は、ソ連邦産のラーダやチャイカと呼ばれていた車が多く、
サイドミラーなし!
ワイパーなし!
フロントガラスなし!
よし!!
みたいな感じの車も、まあまあ結構、普通に走っておりました…。
ソ連の大地に降り立って数時間。まだ空港と、車に乗ってモスクワ市内へ向かう道しか知らない私達に「これが、これこそがソ連邦だ!!」と次々繰り出してくる不思議の国、ソ連邦。ある意味気前が良い! 大盤振る舞い!
(なお、当時のソ連邦、崩壊間近で経済的な景気はどん底です)
いやもう、でかい穴とか普通に落とし穴のレベルなのですが、そんなことで怯んでいては郊外の空港からモスクワ市内には到達できません。
モスクワへ! ビヨン! モスクワへ! ビヨンビヨン! モスクワビヨン!へ!
(※1)
景気よく跳ねる車のなかで、舌を噛まないように口数少なかった私達一家。
そう、私達家族のモスクワ生活は…これからだ!
to be continue…?
サバイヴ(エッセイ):もてない人(再掲)
※ 本記事は、2021年3月31日に別媒体にアップした記事の再掲です。
吾輩は、傘を持てない人である。
純文学っぽく始めてみたけれど、なんのことはない。
あまりに傘を失くしすぎるので、「これ、いいな!」という傘を買ってもすぐにどこかにやってしまい、気に入りの傘を長く持てない人だという、なんとも小さなことだ。
私は今まで、あらゆる傘をどっかにやってきた。
ローラアシュレイの水色に赤い花柄の傘は、お気に入りだった1本目を失くして、諦めきれず同じものをもう一回買ったのにまた失くしたし、雨の日に電車に傘を置き忘れたりするし、行きは雨だったのに帰りは晴れていたりすると、もういけない。傘は私の手から気づけば忽然と消えている。たぶん異世界転生とかしてるんじゃないかと思う。
よく揶揄される「何もしていないのにパソコンが壊れた」的な言いぐさがあるけれど、私はそういう気持ちがよくわかる。
私に言わせれば、まさに「何もしていないのに傘が手元から消える」のである。
多分、傘を持って家を出たことを、出先で忘れてしまうせいだ。
雨の日になくてはならないものなのに、財布や携帯のはいった鞄ほど重要ではなく、しかもさしていなければ視界から消えてしまう、そんな奥ゆかしい存在、それが傘…。
しかし自分、「視界にはいらないもの=ないもの」にしてしまう特性のせいで、そんな奥ゆかしい存在をないがしろにしがち。
なので最近はもう諦めて、可愛いと思う傘を買ったりしないし、お気に入りの傘もつくらない。
失くすことを前提で、コンビニのビニール傘を買って使っている。
一見コスパが悪いようだし、実際ビニール傘もしょっちゅう失くしたり忘れたりで買い直すので実際コスパが悪いのであるが、1本1000円も2000円もする傘を失くすよりは損害が少ない。根本的な解決には至らないまでも、「傘を失くすまい」を無駄にあがいては失くしていた頃と比べたら心は穏やかだし、お金と物を無駄にする機会を削減できた、と思う。いや、ビニール傘もなくすなよ、という話ではありますが。
これも、ちょっとありえないレベルでの物忘れ特性のある、発達障碍者のライフハックの1つだ。
しかし、しかしである。
本当は私は、お気に入りの傘を手元において、ながい間大事に使うということをやってみたい。
自分はものに執着しがちで、気に入ったもので周囲を固めて安心したい気持ちが強いので、とみにそう思う。
本当は、海月を模した傘や、青い水玉に薔薇を散らした可愛い傘や、柄のところが木製で骨の多い丈夫なコウモリ傘をさして、雨の日を颯爽と過ごしたいのだ。
でも多分、私はそれらを失くしてしまう。
「本当に大事に思っているならなくさない」そんな風に思っている時期が私にもありました。
失くしものが多すぎる自分は、物を大切にできない、大切に思えない人間なんじゃないかとずっと悩んでいたし、自己嫌悪もあった。が、大事に思っていても、なんなら高価なものでも、失くしやすい条件や環境にハマると私は失くしてしまう。根性論や精神論でどうにかなるものじゃない。
だから、そういう特性とうまくやっていったり、困ってしまう特性がでづらい環境を自分で選んでいく必要がある。
傘にとっても自分にとっても、それが一番いい。可愛かったり素敵だったりする傘と自分との距離感は、憧れのままのほうがお互いを傷つけなくてすむ。
だけど、諦めきれない気持ちが心のどこかにまだあって、街中で素敵な傘をさしている人を見かけると「いいな」と思う。
あの人は、なくしてしまう心配なんてなしに、自分の気に入った傘を持てるんだろうか。
ハッと気が付くと、大事にしていたモノが手元から消えている、という経験を何度もして、大事なモノを持つことを諦めたりすることはないんだろうか。
私は自分のお気に入りの、柄が木製だったりする、風で簡単に裏返ったりしない傘を持って、大事に長く使いたい。
その憧れも、それが叶わないことも、小さな小さなことだ。
そういう小さな小さなことが、私の日常にはたくさん散らばっている。
レシピ :
『眠れぬ夜はケーキを焼いて』朝を迎えよ
今月号で紹介するのは、『眠れる夜はケーキを焼いて』。
著者の午後さんによるコミックでありエッセイでありレシピ本であり、長くて暗い夜を共にしてくれる明かりのような一冊です。
現在、3巻まで発売中。
午後・著『眠れぬ夜はケーキを焼いて』1巻~3巻
料理レシピ本大賞で、第8回【料理部門】コミック章を受章した本作。
バリバリ気合のはいったお菓子本ではなくて、眠れない夜や憂鬱な雨の日、苦手な季節で弱っている時期でも作りやすく、体にも心にも優し気なお菓子時々おかずのレシピが、著者である午後さんの日常と共に紹介されています。淡いカラーの優しいタッチに、登場人物は皆動物たちにデフォルメされていて、紹介されているレシピもとても簡単。疲れた体にも弱った心にも低刺激で、この本そのものが、体に優しい素材で丁寧につくられたスイーツのようです。
私自身、眠れない夜は数多く、雨の日は頭痛で憂鬱で、梅雨や年末年始の苦手な季節は寝込んだり鬱ったりしてしまいがちなキャラクター。少し著者の午後さんと似ているかもしれません。
違っているのは、私には料理のハードルが高いので、この本に書かれているように、眠れぬ夜にケーキを焼くなんてことはなかなかできないところ。
だけど今回この本を紹介したかったのは、この本のレシピをお供にしたティータイムを、読者の皆さまに推したいからです。
ちょっとしたコンビニスイーツ、例えばファミリーマートのスフレプリンがおやつなら、第1巻の第5話「雨の日にプリンを蒸す話」の雨音を感じながら。買ってきたスコーンにジャムとクリームを塗ってモーニングなら、第10話の「真夜中にスコーンを焼く話」の、バターを清潔な手で粉とあわせていく過程を読みながら。怠くてジャムしか舐められなような日も、第2巻1話の「真夜中にジャムを煮る話」をお供にすると、こっくりとした手作りジャムを舐めているような気分になれます。
たとえ本に書かれたレシピ通りのものじゃなくても、そこに書かれた優しさや温かさが、既成のコンビニスイーツや安いジャムやバターや小麦粉と一緒に舌にのって、少しだけキラキラと自分の体のなかに入ってくるような。
眠れない長い夜、自分の心身が海底のような場所から浮上してくるのをじっと待つしかない辛い時間、文字も読めないくらい暗い場所にいる時。
クッキー、ホットケーキ、レモンケーキ、ミルフィーユ、スイートポテトにテリーヌショコラ、エトセトラエトセトラ。
色んなお菓子のレシピはどれも素敵ですが、それらはただのスイーツの作り方ではなくて、生きている限り苦しい夜がやってくる私達が、たとえケーキを焼けなくても朝を迎えるためのレシピなのだと思います。
とはいえ、今回のマガジンでせっかく取り上げるのだから…と、私でも出来そうなケーキのレシピに初挑戦してみました。
2巻の第9話で紹介された、ミルフィーユ・レアチーズケーキです。
簡単に作れるのに、私のお菓子作りの歴史のなかでおそらくナンバーワンの美味しさ。
レシピ本好きなクセに料理の苦手な私ですが、朝を迎えるために、こんなケーキのある夜も悪くないと思ったのでありました。
実際の作り方は是非、『眠れぬ夜はケーキを焼いて』でご覧ください。
ごあいさつ ~おわりに~
月刊noo、おかげさまで無事に3号目をだすことができました。
ささやかながら、気持ちも空気もジメジメしがちな梅雨の時期に、ほっと一息やリフレッシュ、はたまたあえてのちょっとしっとり…な時間のお供になりましたら幸いです。
よろしければ、いいねやサポート、ご感想などいただけると励みになります。
モスクワカヌのゆるゆるマガジン、次号は7月20日前後の公開予定。
その頃には、私が脚本を担当する9月公演についても情報公開がされているだろうと思います。皆様へのお知らせが楽しみです。
それではまた!
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★キクカク企画 参加者募集中!★
― あなたの話を、聞いて、書く―
feat.クレバス2020企画『キクカク企画』
■概要
「2020年、もしくは2023年のあなたの話」をテーマに、自身の思いや体験を戯曲として作品化したい方を広く募集いたします。希望者にはモスクワカヌ自身がインタビューを行い、その内容から5~10分程度の短編戯曲を書き下ろしさせて頂きます。
■応募資格
特になし。
■脚本料について
本企画は応募者の方から脚本料をいただく企画となります。
脚本料は「15,000円(税込)」です。
■応募方法
feat.noo.mw@gmail.com のメールアドレスまで、件名を【キクカク企画への応募】として以下の項目をお知らせください。
① お名前
② 希望されるインタビューの形式(対面、オンラインでzoom等)
③ 戯曲化したい内容についての簡単な説明
④ ご連絡先のメールアドレス、電話番号
企画の詳細については、こちら(https://note.com/mosukuwakanu/n/n22af176b30c1)からもご確認頂けます。
私は人の話を聞くのが好きです。
この世界に在るものやこと、まだ現れていないなにかを書かせてもらえたら光栄です。
あなたの話を聞かせて、書かせてもらえたらと思います。
皆様のお話との出会いを楽しみに、ご応募お待ちしております。
(劇作家 モスクワカヌより)