代替医療やいんちき療法をめぐるセンセイと患者の因果な関係
標準的な治療があるのに代替医療やいんちき療法に頼る人がいます。それをやる医師、施術者、勧める人との因果な関係を実例を挙げながらあきらかにします。
著者:ケイヒロ
コーディネート:ハラオカヒサ
さらけ出されたおかしな医療
新型コロナ肺炎は社会の暗部に隠されていたものを次々と白日のもとにさらけ出していった。そのひとつに、代替医療といんちきな療法の困った問題があった。
代替医療は通常医療や標準治療を補完するものとされているが、科学的に有効性が裏付けられた医療は通常医療に組み込まれるため、いつまでも代替医療であり続けるのはおかしい。いんちき療法は、文字通りまやかしの検査や治療だ。
代替医療やいんちき療法にはワクチン接種を否定するものがあり、イベルメクチンが予防薬や治療薬として有効とひたすら言い続けているものもあった。これは騙された人たちの問題に留まらず社会を混乱させるまでになっている。
おかしなものに騙される連中が悪いと言っていられなくなったのだ。
「ボディートーク」医療ではない何か
代替医療とはどのようなものなのか。「ボディートーク」という療法を紹介しよう。
(注:ボディートークと呼ばれるものの運営母体はAlchemy for Life 株式会社のBodyTalk Japan Associationとボディートーク協会のふたつあり、前者の創設者はJohn Veltheim、後者は増田明である。ボディートーク協会のボディートークは「体ほぐし」を基本とした自然体法、呼吸・発声法などを中心に体操や感情表現法や人間関係法を提唱するものだ。当記事ではヘルスケアを提唱するBodyTalk Japan Associationのボディートークについて語るものとする)
BodyTalk Japan Associationのワクチンに対しての姿勢は判然としない。しかしボディートークを行っている人物がワクチンを危険視したり懐疑的な主張をしている例だけでなく、後述するようにワクチンが細胞を壊していると診断された例がある。
筆者はかつてボディートークを行っている人物に質問を投げかけたが会話が噛み合わないまま、ワクチンに対する見解だけでなく満足な返答が得られなかった。過日、ハラオカがボディートークの診察を体験した人から話を聞く機会を得て実態がはっきりした。
ボディートーク療法を統括するBodyTalk Japan Associationのホームページを見てみると、「その人の全体にフォーカスして」「心身全体の機能を回復」させて「自然治癒力を高める」「世界中で普及している」療法と称している。
ボディートークを行う人は施術士とされている。
ボディートークの施術士になるには、セミナーを受講後に試験を受け団体から認定を受けなければならない。ボディートークの施術士はカイロプラクターや整体師が主だった人たちなのだそうだ。
そして施術、施術士、臨床、副作用といった言葉が説明に登場しているにもかかわらず、治療行為の一種であるのを明言することを避けようとしている。たとえばボディートークの説明で「治癒力」が繰り返し語られているが治療とは言わず、「治療」という言葉が使われるのは標準治療への批判の場面だけである。
しかし、団体のホームページに大きな文字で書かれている「なかなかよくならない」「症状や不快感」「本当の不調の原因」に「アプローチ」するボディートークに、よりよい治療を期待する気持ちが高まってとうぜんだ。
では何に効くのか。
妊娠と出産、リハビリ、 がんと化学療法のサポート、免疫系の機能障害とアレルギー、臓器/組織移植と関節置換術の拒絶反応低減、認知発達と脳損傷、PTSDとトラウマ、依存症の回復と広範囲に効果があるとしている。
これでもボディートークは医療ではない何かなのだ。
ではいったいどのような施術をするのだろう。証言者は次のように説明してくれた。なお、証言者をボディートークによって診察したのは内科の開業医だった。
「ベッドに仰向けになり、私の右側に座って、私の右肘を曲げて腕相撲するように指を組んで、右肘を小刻みに曲げながら質問されました」
「憶えている限りだと、『○年前くらいに海に関するものを持っていませんでしたか? 青色のものとか』そんな感じでどうでもよいことを質問してきました。体に聞くので頭で考えないでね、リラックスしてねと言われました」
「ほかに触診はなかったです。問診も既往症や病歴など一切聞かれませんでした」
これをボディートークでは「セッション」と呼ぶらしい。
診断結果のデータはフォーマットに従って「7つのチャクラ(物質・生存に関係)」といった表現のほか「大脳辺縁」「筋肉系」「胸部のリンパ系」「後頭骨-仙骨」「脳下垂体」「副腎」「日本脳炎ワクチン」等と書かれている。
これが「その人の全体にフォーカスして、心身全体の機能を回復させて、自然治癒力を高める」ための診察または検査なのだ。証言例が施術士の暴走だったとしても、あらゆる医学的分野に効くかのような団体の説明は何を意味しているのだろうか。
伝道師と詐欺師が広める偽医療
代替医療や偽医療、これらですらない何かを勧めたり施術する人は2種類に分類される。
それぞれの理論や効果を信じているうえに自らが広める使命感を抱いている伝道師「エバンジェリスト」と、まったく信じていないか部分的にしか信じていない詐欺師・山師「インポスター」だ。この二分法は陰謀論やカルト、反ワクチン派の指導者にも適用できる。
たとえば「大根の葉を干して風呂に入れると体が温まって万病に効く」と信じているおばあさんの健康法はエバンジェリスト的と言える。そんなことを信じていないか、大根の葉には多少効果があっても万病には効かないとわかっていて、干し菜を買うことを勧めたり売ったりするのがインポスター的と言える。
両者の主張や態度は大根の干し菜の効果について科学的・医学的な研究に基づかないもので、このため標準治療に組み込まれることがない点で共通している。
エバンジェリスト的なおばあさんは、伝承や誤解(体験)を通して大根の干し菜に効能があると信じているか、「万病に効く」という言葉の重さを理解していないか、一般的な入浴剤によくない印象を抱いているため市販品を批判するため干し菜を勧めているのかもしれない。
ボディートークの施術を受けた前出の人物は次のように証言する。
「これをやっている方は、お父様が悪性腫瘍になったときにボディートークに走ってしまったようでした。抗がん剤のことを悪く言っていたり、私のことも本当は必要ないのに打ってしまったワクチンのせいで細胞が傷ついていると言っていました」
この医師はボディートーク療法を伝道するエバンジェリストのように思われるし、仮にインポスターだったとしても使命感が背景にあってボディートークの施術を利用しているのだろう。
インポスターはさらに2種類に分かれる。
顧客の期待と距離を置いてわりきった商売をする者と、顧客の期待や感情に応えるうちに自らが変質してしまうタイプだ。後者は自分がつくり出した熱狂に巻き込まれて言動に過激さが増して収拾がつかなくなる。
コロナ禍で注目を集めた反ワクチン派であったりおかしな治療法を勧める医師や専門家を思い出してもらいたい。
以前から代替医療やおかしな医療を商売として行ってきた医師某は、SNSでの過激な発言で集まるのは顧客にさえならない者たちとわかると訴求方法を方向転換した。
いっぽうマスコミに祭り上げられた者の多くが誤りを指摘されても撤回できなくなり、失態を糊塗し続けるうちに自分が何者かさえ見失ったかのように混乱している。末期的な状態に至ったインポスターは、エバンジェリストとも賛同者たちとも見分けがつきにくいものに成り果てる。
セールスマンを信じる患者たち
かつてブロガーとして名を馳せたイケダハヤト氏は、「ある種の水」を含ませた砂糖玉があらゆる病気を治療できると称するホメオパシーを勧めていたことがある。
イケダハヤト氏がホメオパシーを勧めていたのは、砂糖玉を使って新生児がビタミンK欠乏性出血症で死亡した事故から6年が経過した2016年で、ホメオパシーの危険性が盛んに報道されたのちの時代だった。
BuzzFeed Newsの記事を読むとイケダハヤト氏は
と発言していて、彼はとくにホメオパシーを信じているわけではないとしている。こうなると、ブログを広告媒体にして生計を立てている彼は単発的にホメオパシーのセールスマンになったということになる。
彼はこんなことも言っている。
しかし、現在削除済みのブログ記事にはこうした説明や主張のほか、ホメオパシーについての注意点はとくに記述されていなかった。つまり受けたい医療を受けることについて両論併記した記事と言い難いものだったのだ。
代替医療や偽医療には伝道師と詐欺師がいるのを説明したが、さらにセールスマンたちが情報を拡散して客集めをする。
思い入れがあるわけでも、経験者でもないセールスマンの言葉に惹きつけられる人がいて、これらの人々が標準治療を勧める医療関係者を罵倒さえするのはなぜなのだろうか。
こうした人々は医療関係者の説明を理解できないか、理解する気がない人々であるのは間違いない。
『反ワクチン派の正体とこれから彼らが社会にかける大迷惑をあきらかにしよう』で紹介したように、科学的な説明を理解できない人が20%から30%程度いる。また過去の経験から医療不信に陥った人々がいる。これらのなかに標準治療を無理強いされているとか医療関係者から騙され続けていると感じる層が形づくられているのだ。
標準治療を無理強いされていると感じているなら、伝道師や詐欺師やセールスマンの甘言に心を奪われてとうぜんだろう。
口コミで紹介されていたいんちき療法が、その後メディアミックスの手法を使うのがあたりまえになり、現在はSNSから直結するまでになっている。手を伸ばすまでもなく、スマホ上で指を滑らせるだけでいんちき療法に到達してしまうのだ。
反ワクチン医師の死
癌治療に特殊な見解をもっていた宗像久男医師が2021年9月21日に新型コロナ肺炎で死亡した。彼は反ワクチンの主張をしていただけでなく自らもワクチンを接種していなかった。
宗像久男医師とは何者で、彼の診療がどのようなものであったか、著書と書籍へのレビューが内容を知る助けになるだろう。
宗像久男医師について筆者は取材をしたが、上掲のレビューと同様の声が癌患者の家族からあがっている。そのなかに、免疫力の強化を唱える彼に新型コロナ肺炎ワクチンを接種するなと言われたとする証言がある。
反ワクチン派の医師の感染例は彼だけではない。
医師で選挙運動中だった田淵正文氏はワクチンを接種せず、イベルメクチンを服用すれば感染しないと主張していたが、2021年10月28日に選挙事務所でクラスターが発生したことを公表している。このうち2名死亡、本人もショック状態まで悪化し後遺症を患っている。
反ワクチン派の医師の感染や死亡が判明したのは、SNSでスタッフまたは当人が報告をしたり、田淵正文氏の場合は報道されてもいる。しかし、彼らの主張に賛同していた層は重症化や死亡事例から何ら学ばなかっただけでなく、これらの出来事を無視したのだった。
つまり、ワクチンを打たず死んだり重症化した医師などいなかったことにされた。
ワクチン害悪論者は、彼らを生み出し、後押しした反ワクチン派の医師でさえコントロールできないものになっている。
インターネットの普及によって、広告予算やネームバリューの規模にあわせていくらでも宣伝の手法が選べ、広範囲にいんちき療法を広められる時代になった。しかもSNS上の宣伝や勧誘に対して厚生省による医師法や薬機法違反摘発の動きは鈍いと言わざるを得ない現状だ。
誰も後片付けできないものを代替医療やいんちき療法が今日もまたつくり出し続けている。
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