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デマと陰謀とビシネス/期待通りの結論を求めて単語を切り貼りする人たち

誤った情報を信じて本人のみならず家庭や社会を混乱させる人たちがいます。こうした人たちを食い物にするビジネスがあります。陰謀論の本質から、人の心のもろさと、もろさを弄ぶビジネスについて考えます。これは陰謀論に限らない明日は我が身の問題です。

著者/ケイヒロ
聞き取り・調査・まとめ/Kヒロ+ハラオカヒサ:プロジェクト

それはジクソーパズルを組み立てるようにはじまった

プロジェクトとして反ワクチン派や陰謀論者、神真都Qといった層や、彼らを家族にもつ人々から直接聞き取りをしたり、協力者が内部から情報を提供してくれた。このようにして、デマや陰謀論を再拡散するにとどまらず新たなデマや陰謀を生み出す人々の考え方を調べてきた。

過日、次のような論調でイベルメクチンの新型コロナ肺炎治療(予防)への効果を確信した人がいた。

・イベルメクチンが効くという前提

・mRNAワクチンには蛇毒が入っている。

・さまざまな伝説や宗教で蛇が語られている。

・人類の歴史は蛇との戦いであった。

医学の象徴にも蛇がマーク化されて入っている。

だからイベルメクチンは新型コロナ肺炎治療(予防)に効く

「mRNAワクチンは蛇毒」という前提からおかしい。結論に至るロジックが筋道を成していない。これは特異な例ではなく、反ワクチン派や陰謀論者、神真都Qといった層にありがちな考え方だ。

ジグソーパズルが入った箱を逆さまにしてピースをすべて床にぶちまけた状態を想像してもらいたい。こうした混沌が私たちの社会や世界と言ってよいだろう。大概の場合、ぶちまけられたピースを箱に戻してからジクソーパズルで遊ぶはずだ。だが、このままおもむろにピースを組み始める人がいる。これがデマや陰謀論を信じて再拡散するだけでなく、新たなデマや陰謀を生み出す人たちだ。

目の前の混沌を整理するところからはじめず、いきなり情報の海に飛び込む人たちによって組み立てられているのがデマや陰謀論なのである。


期待どおりの絵を組み立てるためのピース選びと覚醒

前述の例では、まず「イベルメクチンが新型コロナ肺炎に効いてほしい」という期待があった。これそのものは特に珍しい考えではない。しかし、その後の思考は「イベルメクチンが新型コロナ肺炎に効く」とする結論ありきで進められた。

「イベルメクチンが新型コロナ肺炎に効く」と結論づけた正しさを証明しようと、蛇をめぐる連想ゲームをはじめて、混沌とした情報の海から都合のよいものをつまみ食いのように集めピースを組み立てて完成したと言っている。実際にはまったく完成していないが、この人からは期待を裏切らない完成品が見えているのだ。

これがデマの拡散者や陰謀論者の典型的な態度だ。

期待したものが、そのまま彼らの結論になる。この結論のために、元の文脈や意味と関係なく単語やイメージが集められる。単語やイメージが集められるのは、もっともらしい確信や納得を得るためで、結論はこうして飾り立てられないとならないのだろう。この「なぜ、そうなのか」が陰謀論になる。とうぜん期待した結論通りの絵が描き上がる。無関係そうなものごとを連結して結論に至った気づきと達成感が「目覚める」感覚であり覚醒と解釈される。

期待[イベルメクチンが効いてほしい]、結論[イベルメクチンは効く]。

・mRNAワクチンには蛇毒が入っている。

・さまざまな伝説や宗教でが語られている。

・人類の歴史はとの戦いであった。

医学の象徴にもがマーク化されて入っている。

だからイベルメクチンは新型コロナ肺炎治療(予防)に効く

目覚める感覚/覚醒/達成感/気づき


専門家の発言を取り入れて陰謀論者になった人

他の例で考えてみようと思う。

関西圏で暮らすAさんは、ワクチン接種の副反応が気になって情報収集をしていた。このとき偏った情報を流し続けていた某大の名誉教授Xの発言に強い関心を抱き、新型コロナ肺炎ワクチンは有害だと信じるようになった。

「ワクチンは有害」であると確信したのちのAさんは、確信を補強するための情報収集に集中したかのように見受けられる。YouTubeはワクチン有害論の宝庫であり、ここからさらに踏み込んだ陰謀論にAさんが接近するのは時間の問題だった。副反応に不安を抱いて専門家の話に耳を傾けていたAさんは、半年たらずで陰謀論者を経て神真都Qの構成員になった。

Aさんには期待と結論がまずあり、結論を補強する情報を集めるうち陰謀論者になったと言える。注目すべき点は、専門家の発言を重視していたのに、もっとも荒唐無稽な陰謀論を掲げる神真都Qの構成員になったことだ。同様の例では、専門家から代替医療を実践する医師を勧められたのち、YouTubeを通じてQアノンを信じるようになった女性がいる。がん放置などおかしな情報にとどまっている人がいるいっぽうで、こうして陰謀論に踏み込んだ人がいるのだ。

いきなりYouTuberの言葉を信じないで専門家の発言をウィンドウショッピングする層でさえ、期待を結論にしてしまうとまたたくまに陰謀論者になってしまう。もっともらしい確信と納得を得ることに熱中して、無関係そうなものごとを連結して結論に至ったとき得られる気づきと達成感はまさに「覚醒」で、他では得難い喜びと優越感を経験するのだろう。


ニーズに応じて「魂の覚醒」を売る元締め

デマや陰謀論に耽溺する人のジクソーパズルを組み立てるような思考を説明した。こうした思考法や陰謀論ならではの情報を吹き込む人たちがいて、陰謀論ビジネスまたは覚醒ビジネスと呼ぶべきものを行っている実態を紹介したい。

J某を名乗る陰謀論者の影響で親が変わり果ててしまったというBさんは次のように証言した。

「この男は参加者を覚醒させると言って陰謀論セミナーを開催しています。セミナーでは、ワクチンを打った人たちの顔つきがどんどん変わっている、変なタンパク質が体に浸透して体ごと化け物に変わっているなどと言っています。顔が変わったのは(接種した人ではなく)うちの親です。目つきがおかしくなって狂ったようなことしか喋らなくなりました」

Bさんの親はどのように変わったのか。

「J某のYouTube番組を見るとセミナーの雰囲気がすこしわかると思います。AだからBだ、CだからDだと言っているだけで、AからBになる理由はめちゃくちゃな思いつきです。しかし信者はA、B、C、Dが結びついて世界全体がわかったつもりになります。これが覚醒したという思い込みです」

陰謀論ビジネスを行うJ某は神真都Qの創設にも関わっているとされ、神真都Qの代表岡本一兵衛(イチベイ)こと倉岡宏行容疑者に陰謀論を吹き込んだのは彼ではないかとBさんは疑っている。

「J某は陰謀論や神真都Qに本気ではありません。目立ちたいだけなのがデモの途中で姿を消してしまうことでもわかりますが、冷酷さを感じたのはイチベイが逮捕されたあとの態度です。ビジネスでやっているから公安監視対象の神真都Qを切り捨てようとしたのだと思います。流行りそうなネタをばらまいているだけなんです」

ニーズを察知して次々とネタと演出を変える様子は『アイドルグループとファンの生態系に近い』もので、こうした構造を筆者はPRESIDENT Onlineの記事で紹介した。これがJ某と神真都Qの類似点かもしれない。


期待通りの結論しか認めない人と陰謀論の本質

陰謀論は『妥当な説明があるにもかかわらず、強い力を持った邪悪な勢力が陰謀をめぐらしていると断定するもの』と定義されている。ではなぜ妥当な説明があったり、合理的に説明できるのに、適切ではない間違った断定を信じてしまうのかを本稿では考察した。

陰謀論を信じるのは、妥当な説明が意に反するためで期待にそぐわないからだ。自分が期待しているものが正しいか検証する前に、期待こそが正しい結論であると確信して、確信を補強する情報を求めるうちに陰謀論者になる。

合理的で妥当な説があるにもかかわらず、これを否定するロジックを構築しようとするのだから、とうぜん残りカスとなった情報や無関係な情報を集めるほかなく、これらを妄想によって切り貼りしようとする行いが既に陰謀論的だ。

切り貼りサイクルに入った人たちは、自分自身の力で(誤った)真理に到達して「覚醒」感を得たり、自らが確信したものを教義にしている既存の陰謀論を発見して接近する。本来の陰謀論は自然発生的で匿名のものだが、陰謀論ビジネスは効率よく集金するため中央集権的な構造をつくりあげカリスマが君臨する。カリスマが提供する商品は確信を補強するキーワードと、キーワード同士を接着するためのストーリーだ。

会費や購入代金をカリスマに支払ってキーワードとストーリーを手にした陰謀論者は、期待と結論が強く結びつく確信に覚醒感を得てますます陰謀論の深みにはまる。そして自らも陰謀論に沿って、確信の再生産を行うようになる。

重要なのは、複雑な思考が苦手な素朴きわまりない人たちが、彼らの思考パターンに従って期待を結論にしてしまい陰謀論者になっているだけではなく、専門家の発言をウィンドウショッピングする層からも陰謀論者が生まれていることだ。

専門家とはいえおかしな発言をしている人を信じるのだから、そもそもおかしな層なのだとする意見もあるだろう。しかし、おかしな専門家が増産されてメディアが紹介した背景にコロナ禍があり、これらに反応する人々もまたコロナ禍によって生み出されたのを忘れてはならない。

「いままで普通だった」「傾向はあったが、ここまでひどくなるとは想像できなかった」と陰謀論者になった家族を語る人が多い。コロナ禍への不満や不安から期待と結論を直結させる人が数多く生み出され、彼らをうまく誘導できなかったのが陰謀論と陰謀論ビジネスの主を跋扈させた原因のひとつだ。まったく他人事ではなく、すべての人が当事者なのである。



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加藤文宏
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