反ワクチン派・陰謀論者・神真都Q──彼らはどこから来たのか
神真都Qの動向が劇的に変化しています。反ワクチン派や陰謀論者をめぐる情勢は新たなフェーズに入りました。いったいこれからどうなるかを考えるには、ここに至った経緯を知らなくてはなりません。では、彼らはどこからきて、どこへ行くのでしょうか。
著者/ケイヒロ
観察・調査/Kヒロ+ハラオカヒサ:プロジェクト
311後の805件追跡観察からわかったこと
反ワクチン派はコロナ禍に突然登場した人々ではない。
被曝デマを流布させたり信じた人々と、意識の在りかたが素朴な人々が源流。
神真都Qはさらに素朴な人々。
筆者は東日本大震災と原発事故によって登場したデマを流布する無数の人々と、こうしたデマを信じ切って再拡散し続けた人々を短文投稿サイトのツイッターで追跡観察した。
この観察は、繰り返し誤りを指摘されても考えを改めなかったり、「癌、不妊、奇形」などの言葉を被災当事者に向ける理解の範疇を超えた人たちと、今後も社会で共生しなければならないと考え、彼らは何者なのか、どのような意図や目的でこのようなことをするか知る必要があると考えて行った。
2012年に観察を開始しながら観察数を1000アカウントをまで増やし、このなかでアクティブに発言をしたり、影響力のあるものに注目した。2017年に観察をやめた後、2020年に確認するとアカウントの凍結や停止などで発言者は805アカウントに減っていた。
この805件はもともと反原発色の強い発言をしているか、原子力発電を悪とみなしている層だったが、2015年前後に政治的な運動が興隆すると左派・リベラルと目される運動を支持する流れに乗っていた。SEALDs支持であり、いわゆる『モリ・カケ・サクラ』派である。ただしこの流れで政治的な雰囲気をまとうだけの層と、政治色を鮮明にする層の2系統に分岐した。
(例外はあるものの)2系統いずれもコロナ禍直前に反ワクチン的傾向を帯びた自然派であるか完全な反ワクチン派となって、初期反ワクチン層をかたちづくっていた。なお、政治色を鮮明にした層の多くが後のれいわ新選組山本太郎支持へ流れている。
「初期反ワクチン派」と名付けたのは現在の反ワクチン派の主流と言い難いからだ。
現在の主流派は、2020年12月にイスラエルとアメリカで新型コロナ肺炎ワクチンの接種がはじまり、2021年2月に国内接種がはじまるこの3ヶ月間に急速に反ワクチンに流入した人々だ。
では急速に流入した層はどこからやってきたのか。
彼らは素朴な民族意識を抱いてる人々で、2010年代のヘイト・反差別運動のなかでは素朴な感覚でヘイトを口にするようなタイプだった。もちろんヘイト発言をする人々のすべてではなく、彼らのすべてが差別発言を連発したわけではない。「素朴な民族意識」とは、家の前を見知らぬ人が通ったから怪しんで睨みつけてやるという単純なナワバリ意識に似たものだった。
素朴さはヘイト発言だけではなく、当時の社会的トピックについて素朴なアンチ生活保護であったり、素朴な自己責任論者だったりした。上級国民論が盛んになれば、これを支持した。煽り運転問題では感情をたかぶらせ、犯人探しで無関係な人を攻撃した者もいる。NHK解体論にのってN国党を支持したりもしている。(これらもまたすべてではない)
前述のように民族意識、アンチ生活保護、自己責任論の背景に社会意識や政治意識が希薄で、俺の庭とあいつら、俺の金とあいつら、俺の人生とあいつらといった程度の感覚だったのである。だからプロフィールで大和民族と名乗ったり日本の国旗を貼ったりしていても、本質はノンポリに近いと言ってよいだろう。
つまり反ワクチン派はれいわ新選組山本太郎支持を左とするなら、反原発に引っ張られて左派的だがノンポリに近い層と、主流派となった右派に見えがちな素朴な層というクラスターに大分類される。
これら観察結果は、805件観察の視界に入ったものや、現在の反ワクチン派アカウントの過去を遡ることで理解されたものである。
なお、ここには神真都Qは含まれない。
後述するが、神真都Qは「さらに素朴な層」で、「素朴な層」に合流することも、迎え入れられることもなかった人々だったと言ってよいだろう。神真都Qの理念が民族主義的であるため、先ほどの分類の最右翼に位置すると思われがちだが、民族意識を鼓舞すると素朴な人々が反応しやすいため結果的に右の位置付けになっているだけだ。
彼らはコロナ禍になって突如として登場したのではない。
2021年夏のターニングポイント
反ワクチン派は3分割された
分裂は可処分所得やカリスマへの忠誠度で選別された結果
2021年の夏は、それまでの反マスク運動が完全に反ワクチン運動に塗り変えられた時期であり、海外で活動をしていた人物が日本の反ワクチンデモや講演会に参加するなど運動が一気に盛り上がりを見せている。
しかし、このとき反ワクチン派は分離または分裂した。
2021年夏の反ワクチンデモや講演会の参加者は、それ以前の反マスク運動の参加層とも神真都Qの構成員とも違った。現反ワクチン層主流派のなかでもアクティブな活動家と、以前からの反ワクチン層にちかい自然派を感じさせる若年層夫婦や親子の姿が印象的だった。後者は意識が高い結果/意識が低い層である。
以前からの反ワクチン層は、近年ではHPVワクチンの危険性を訴える全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会の池田としえ氏や、同会と密接な関係がある内海聡医師の影響下にある人たちである。
内海聡医師は2021年の春に、フェイスブックやツイッターで新型コロナ肺炎についての主張を活発化かつ過激化させ数多くのフォロワーを獲得していた。そして夏のデモや講演会では呼びかけ人になるなど運動の中心に位置していた。
だがフェイスブックやツイッターアカウントがロックまたは凍結されたあたりから以前に増してQアノン支持者批判を繰り返すようになる。また同年10月のデモは呼びかけ人を降板している。
この時期の内海聡氏は著書の宣伝と、著書の広告を地下鉄に自費で掲載するための支援金集めに余念がなかった。広告費を捻出する予算に困ることがない彼が支援金集めに熱心だったのは、著書を買い、支援金を支払える可処分所得に余裕がある人々と、それ以外を選別する意図があったからではないだろうか。
このとき彼はアメリカの右翼系短文投稿サイトGETTRを使用していたが、「支援しました」と報告するフォロワーに圧されて明らかにフォロワーの客層が整理されたように見えた。また切り捨てられた側の顕著な動きとしては、陰謀論器具のテスラ缶を買えずに手作りを試みる人たちが神真都Qの母体に流れて行った。そこまでの差はないものの、池田としえ氏などを源流にし内海聡医師などの影響力が濃厚な活動に、反ワクチン派の主流派に属している著名活動家が参加しなくなった。
可処分所得が多いうえに忠誠度が高い層と、中間層を含むが代替医療に積極的に入れ込むことがない層と、可処分所得が多いとは言えない層に分離したあたりから、テレビで顔を売るワイドショー系の反ワクチンまたはイベルメクチン支持の専門家の活動が加速し過激化していくことになる。
こうして反ワクチン派の主流派にとってのリーダーが交代してイベルメクチンへの期待を膨らませていき、象徴性が高い人物を立てる集団として神真都Qが勃興したのである。
神真都Q構成員の家族による証言
構成員は神真都Q流の陰謀論を理解していないかもしれない
情報や倫理観の更新ができない人たちの居場所
認知や理解に大きな凹凸がある人たち
神真都Qの構成員が渋谷区のクリニックに押しかけて逮捕者を出したあと、筆者のもとに構成員の家族から相談が相次いだ。以前、協力者が某地方都市で神真都Qの構成員と接触した際の報告や、筆者の聞き取りや観察とあわせて比較したとき他の反ワクチン集団と異なる特性があった。
■理解が不得意な人
反ワクチン派や陰謀論者がどこまでワクチン害悪論や陰謀論を理解しているかわからないとしても、神真都Qでは幹部が語る陰謀論を理解できずキャッチーな単語をキーワードとして記憶したうえでひたすら復唱している人々がいる。
神真都Qの陰謀論は突飛なもので、思いつきの継ぎはぎにしか感じられず、常人には理解して納得するのは難しい。しかし理解できないなら賛同できないはずだが、理解していないにも関わらずサタニスト、DS(ディープステート)、ビック(拉致して処刑すること/されること)、豆腐船(拉致されたワクチン推奨派や医療関係者を処刑する船)といったキーワードを羅列して理解しているつもりの構成員が少なくない。
このため彼らのオープンチャットや集会では、キーワードの理解に齟齬が出たり、内容がわからず使用するため合いの手くらいの意味合いになっているケースが珍しくない。
神真都Qの構成員にとってはこれで十分で、互いが尊重され一体感を共有することが重要なのである。そして社会で尊重されず一体感を得られる場所がない人たちのなかに、ものごとの内容を理解するのが不得意でキーワードを復唱するほかない人たちがいるのだ。
■ゴミの捨てかたと割引率の理解その他
その構成員を仮にAと呼ぶことにする。
Aは独身女性だが、自治体のごみ収集ルールを理解できないためゴミ捨てで近隣トラブルを頻繁に起こしていた。生ゴミに混ぜてはならないもの、プラスチック、ペットボトル、フライパンなどの金属類、簡易で小さな家電製品、割れ物などを何曜日にどのようにして捨てたらよいか説明されてもうまく実行できなかった。
また3割引きと30%引きが同じ意味であることや、どれだけ割り引かれるかがわからない。わからないため計算をして金額を知るのではなく、いつまでも売り場で悩んでいるわけにはいかず雰囲気で買い物をしている。
不織布の品不足が解消されたのち、彼女は騙されて5枚5000円相当のマスクを買ってしまい、これを周囲の人々に咎められたことから買い物とマスクが怖くなった。ワクチン接種のお知らせが届いたときは、見るからに複雑そうで予約を入れなかった。こうしたことが神真都Qの前身集団に親近感を覚えたきっかけだった。
このようにAの縁者は説明し、一人暮らしをやめるよう説得したくても母親は健在でも体調がよくなく、では自分たち夫婦が引き取るにはあらゆる面で負担が大きすぎるという。Aは障害者ではないため福祉の恩恵を受けにくく、神真都Qをやめさたあとも課題が残ると悩みは尽きない。
■社会や倫理の複雑化に対応できない人々
Aの例が集団全体を象徴するものではないが、このほか精神的な病気を疑わざるを得ない例や、心の働きが平均的と言い難い例が、他の反ワクチン集団より神真都Qで多いと言わざるを得ないように思う。
こうした印象とほど遠い人も、他の反ワクチン派や陰謀論集団と同じく社会や倫理の変化に対応できていない。
ことはゴミの捨てかただけではない。昭和の時代、子供が住宅街の道路で遊ぶのは珍しくなったがいまどきは迷惑な「道路族」とされる。インターネットは地上波テレビと違いプロバイダーや回線を選択して契約しなければならず、スマホもまた同様にさまざまなコースから最適なものを選ばなくてはならない。パワハラやセクハラの概念も年々更新されている。これらに失敗したときの、世の中の不寛容度も高まっている。
完璧で後ろ指をさされるところがないと胸を張れる人がいるいっぽうで、程度の差こそあれ意識や行動をアップデートできない人もいる。アップデートできない程度が大きかったり、アップデートに失敗したことでつらい状態にある人や、アップデートに疲れた人がいて、身の置き所を現実の社会ではなく反ワクチンや陰謀論に求める例があるのを理解しておきたい。
冒頭で「素朴な人々」について触れたが、 考え方などが単純で多面的に情報を処理できないのが素朴さである。神真都Qに流れた人は反ワクチンの主流派より「さらに素朴」な人々なのだ。
あの人たちはどこへ行くのか
しばしば誤読、誤解されがちだが、特定の傾向を帯びた人が陰謀論や集団に多いというだけであり、これがすべてではない。しかし、こうした人が陰謀論や偏った考えかたを信奉する運動をしているとしたら、社会で共存するほかない私たちは対応を余儀なくされる。
コロナ禍が去ったあと『意識が高い結果/意識が低い層』はワクチン害悪論を唱えながら、新たなトレンドで意識が高く振る舞い結果として意識の低さを露呈するだろう。『反ワクチン派の主流派』は薬害について過剰にさわぐほか、こちらも新たなトレンドに飛びつくはずだ。
では神真都Qが低迷し崩壊したとき構成員はどうなるのだろう。
元神真都Q構成員となった人々は社会や倫理の複雑化に対応できない人々として、神真都Q設立前の暮らしに戻るだけだ。これでは何も解決しないのである。
「社会や倫理の複雑化に対応できない人々」や「対応しきれない人々」を私たちは存在しないかのように振る舞ってこなかっただろうか。この問題について未だ本格的に考えてすらいない私たちは、どのように対応すべきかだけでなく、何ができて何ができないかすらわからないままなのである。
陰謀論と反ワクチン問題について触れた記事を以下のマガジンにまとめた。また神真都Qの東京ドーム会場妨害騒動に際して寄稿した記事を紹介する。
ともに、ご一読いただきたい。
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