拡大期の営業組織が実際に陥った4つの"ボラティリティ"~医療AIスタートアップUbieの営業組織編~
こんにちは!Ubieの河本です。
本記事は「セールスイネーブルメントアドベントカレンダー」企画の投稿になります。グラフの藤田さんから引き継いで本日、クリスマス・イブを担当させてもらいます!
①自己紹介
まずは簡単に自己紹介。医療AIスタートアップUbieのScale組織Ubie Customer Science(=以下UCS)で営業Mgrをしています。
過去経歴やUbieへの入社理由は宜しければ下記参照頂けると幸いです!
Ubie?なにそれおいしいの?という方々ばかりだと思うので簡単に会社紹介をさせて頂くと “テクノロジーで人々を適切な医療に案内する”をミッションに、医師の阿部とエンジニアの久保2名によって創業された会社で、BtoB、BtoCそれぞれにAIを活用した問診システムを提供しています。
Ubieという会社は一つしかありませんが、機能によって組織を分けて運営しているのが特徴です。
さて、今回の営業アドベントカレンダーは『拡大期の営業組織が実際に陥った4つの"ボラティリティ"』をテーマにしています。スタートアップといえば「カオス」な点が楽しくも苦しくもあるのですが(笑)諸々生じるボラティリティによって、スケールが妨げられる。今回は自身や組織が何を課題設定し、いかに対処してきたのかを振り返りながら記載していきたいと思います!
②営業の標準化を改めて考えてみる
営業マネジメントを経験してきた方なら一度は通過する言葉「標準化」そもそも何故、標準化が推奨されるのでしょうか?私見を記載します。
■経営視点
当たり前ですがスタートアップは潤沢に資金がある訳ではありません。どんな形であれプロダクトを創り、顧客に買って頂き、価値提供の対価を頂く訳ですが営業は基本、ブラックボックスになり易いです。どの程度インベストすれば、どの程度のアウトカムがでるのか?この方程式は事業計画や人員計画はもちろん今後の事業戦略にも影響します。なので、このブラックボックスを科学し、メトリクスを構築して安定的にアウトカムを創り出すことができれば、経営管理は非常に楽になります。
■顧客視点
営業のAさんは顧客から買って頂けるけど、Bさんは買って頂けない。これでは顧客へ提供できる価値も安定せず結果として顧客の不の解消が遠ざかり、機会損失に繋がりやすいです。誰が営業しようともプロダクトを届けることで(おこがましいのですが)顧客の機会損失をなくしたいと考えています。
■プロダクト視点
営業がブラックボックスだとプロダクトの現在地把握が遠のきます。特に我々のサービスはまだまだ発展途上中です。何故、顧客に選んで頂けたのか?逆に何故、選んで頂けなかったのか?営業に依拠し過ぎない適切なデータを集めて、プロダクトの戦闘力を正しく図ることで今後のプロダクトの開発優先順位を見定めたいと考えています。
③拡大期に生じた4つの"ボラティリティ"
私がUCSに入社したのはちょうど1年4カ月前です。Ubieから組織を独立させて、本格的なスケールに向けてアクセルを踏むタイミングで、文字通りカオスな環境でした。その際、課題視したボラと順番は下記になります。
ボラ⑴ ミッションと役割範囲の認知
当時のUCSは「どんなミッションで何が優先順位高いのか?」という部分に明確なものはなく、各人が思う優先順位で走っていました。
例)とにかく売ることが好き、プロダクトFBを集めるのが好き等
UCSのミッションは「社会を進化させるAIプロダクトを、最速で医療現場に実装する」ですが、ともすれば顧客に買って頂ければ良い、自分だけ売れれば良いという認識構造にもなりやすく、ミッションや役割範囲、優先順位のズレを課題化しました。
ボラ⑵ 営業のやり方とアウトカム
上記で思想や価値観をすり合わせても、もちろんボラはあります。それはセールスプロセス及び商談のHOWが人によってマチマチな点でした。具体的には商談前準備の仕方や商談中や商談後の進め方等。リクルート、エムスリー、エスエムエス出身の営業等がおりましたが、過去の営業経験を基に各自が手探りで営業活動していました。
当時、「スタートアップだからこそのカオスだ!笑」と楽しんでいましたが入社前から、この点は強く課題視していました。何故ならスケールしていく為に、10名に満たない組織は早々に20~30名程度にする予定で、早い段階で基準や方法を揃えておかないとボラがより大きくなると考えていた為です。
ボラ⑶ 顧客セグメントではない失注理由
上記セールスプロセスやHOWの浸透を頑張っても、まだまだまだボラは飛び跳ねていました。失注理由です。
月次の受注/失注理由分析にとりかかってみると人によって傾向が様々あることがわかりました。例えば、Aさんは現場の皆様から導入合意頂けずに失注することが多い、Bさんは経営層に対して投資対効果のご懸念が残り失注することが多い、などです。
顧客セグメント毎に失注傾向が出るのは一定分かるのですが、営業毎に大きく傾向が出るという事はまだまだ俗人的な部分がある証拠。プロダクトの戦闘力を測る為にも課題設定しました。
ボラ⑷ 各営業が優先する課題解決
ボラ⑶までやると、ロジックはないのですが、改善が楽しくなってきます。皆でひたすら改善!改善!改善!なんか良さそうな雰囲気ではあるのですが、一方で新たな課題が出てきます。
皆頑張って改善に向けているけど、ふと、「あれ、これ大丈夫か?」となりました。Sansanさんの言葉を借りれば「それさぁ、早く言ってよ~」という感じです(笑)
④"ボラティリティ"を乗り越えた4つの方法
具体的な解決施策とその結果を記載します。余談ですが、この際に大事にしていたのは前職リンクアンドモチベーションで学んでいた組織変革時に活用していた『思想、型、形』というフレームワークです。
よく、やり方だけではなくあり方も大事と言われますが、一つ一つの行動を標準化していくよりも先に、組織としての思想や価値観をすり合わせて基準や行動を全員で紡いでいく事が組織創りでは重要だと感じていました。
ボラ⑴ ミッションと役割範囲の認知
まずは「我々は何を大切にしたいのか?」の視界共有を丁寧に実施しました。具体的にはUDE(Undesirable Effect)=組織として起こしたくないことを書き出す、内容を分類して、一覧化。その後、事業全体のループにのせて、因果関係を線で結んで、可視化していくことで組織として回避したいことは何に起因しているか?だからこそ我々はどうあるべきか?を言語化し、すり合わせました。
THE MODELを表層で捉えるとマーケ~IS~FS~CSを分化させた結果、それぞれの目標ばかりにしか目がいかなくなり連動性や全体視点が失われやすくなる為、事業という”線”で見た時に組織として大事にしたいものを視界共有したかったからです。
ちなみにこのUDEは「組織的要因でカバーできるもの」と「人員要因でカバーできるもの」に区別し、人員要因でカバーできるものは採用の人材要件へと落とし込んでいきました。これによって、初期段階から
など今でも大事にしている思想を全体で視界共有できました。
ボラ⑵ 営業のやり方とアウトカム
王道ですがまず営業の「ベストプラクティス構築」に向けてハイパフォーマー分析にとりかかりました。8つの営業フェーズにおいて、徹底的にセールスプロセスを分解、商談を起点に「事前」/「最中」/「事後」で区分け、5W1Hでアクション整理してTO DOを可視化。
ノーマルパフォーマーと比較し、逆にハイパフォーマーが”やっていないこと”も可視化し抽出。
分解、ポイント化したものを基に各フェーズの目的、TO DO、達成基準を言語化し、アクションレベルで差分が起きないようにセールスプロセスを標準化しました。また各人で認識/アクションズレが起きないように、SFDCの商談ページのパス内に明記、SFDCの項目入力にもデイリーアラートを設けて、「運用の徹底」を浸透させていきました。
アクションレベルを揃えながら同時並行でスタンスとスキルも揃えました。「ハイパフォーマーはどのようなスタンスで顧客と向き合っているのか?」これを言語化していくと、PSS(professional selling skills)で提唱されているものと近く、UCSの参考教材として採択し、社内浸透。スタンス及びスキルをインプットし、個別具体に落とし込んでいきました。
まず商談の中身は営業の主観が入ってしまいやすいので(顧客に同意を得た状態で)商談内容を録画をさせて頂き、それを題材に週に一度「動画共有会」という形でFBに向けていきました。商談を投稿する人は商談の前提情報、FBほしい観点を記載して、チームへ展開。メンバーはその商談動画を閲覧してFB観点はもちろん、商談のGood/More、再度商談実施する場合の行動改善や今後の進め方に関するアドバイスを記載。投稿した人は周囲からのFBをもらいながら、商談時の課題と改善アクションを決めて週次でPDCAを回していきます。
また、これとは別に「案件共有会」も実施し始めました。今月や来月の案件、お困り事案件に関して、チームで360度FBを行っていきました。
案件毎に
を話し合い、360度FBという名の組織ナリッジを循環させていき、最後は必ずネクストアクションに落としてモニタリングしていきました。顧客ケース毎のナリッジや次々開発される機能をどのように訴求していくと良かった/悪かった等、細かく見ていく中で、これは全体共有したほうが良いなというものはNotionにまとめて格納。フロー情報ではなくストック情報として貯め、人の経験から自分の学びにする流れも生まれてきました。
これをやっていくと既存メンバー間では共通思想/共通言語があり、共通の型/形が徐々に整ってきます。組織内でこういった「基準」を設けることができたので、その内容を基に「オンボーディングプログラム」と「バルクアッププログラム」を作成し、育成にも活用していきました。
「オンボーディングプログラム」
=ご入社1カ月で決裁者様商談で導入合意を獲得する
「バルクアッププログラム」
=ご入社3カ月で主要KPIを平均数値まで上昇、初受注を実現する
私自身もそうでしたが、医療機関様へ営業経験のある人は多くいませんのでオンボでは商品理解、顧客(業界含む)理解、営業/営業管理理解に分け、それぞれ週次でテーマと合格基準、テストを設けて、インプット→スループット→アウトプットを徹底して頂いています。
これまでは人によるアウトカムにボラが数多く生じていたのですが、組織のべスプラ構築及び浸透、オンボーディング/バルクアップを実施する事で、主要KGIは目標水準にまで上がりました。新規入社者も3カ月で主要KPIが平均値となり、初受注までのLTも20%短縮するに至りました。
ボラ⑶ 顧客セグメントではない失注理由
こちらも王道ですが失注理由を「プロダクト機能起因」、「OPS起因」、「その他」に分類し、失注理由割合と営業間格差の2軸で優先順位設定。
当時、多かったのが経営層からはご評価頂けるのですが、現場の方から「ご高齢の患者様がシステムを活用できるとは思えない」という点でお見送りになる、全体失注理由の20%弱がこれでした。
これは実態を確かめてみるしかない!と、マーケチームと一緒にユーザーインタビューを実施。いくつか聞かせて頂く中で、うまく使って頂ける病院様と使って頂けていない病院様の差分を抽出。うまくいっている病院様の看護師さんからAI問診導入のBefore→After、導入したことでのメリデメ、ご高齢の方でもうまく活用頂く際のOPSポイントなどをお話頂き、顧客事例化。
動画に落とし込んで、拡散性高い形の営業資材にさせて頂き、導入済の医療機関様にもご案内させて頂きました。
また、その事例を伝える際、想定される顧客心理やご懸念ポイント、解消に向けた方向性を踏まえたトークスクリプト、情報資材を作成し、チーム内に浸透。よく社内でも言っているのですが、「他顧客で事例があるから大丈夫というのは顧客に対してとても雑」と考えています。他顧客がうまくいっているポイントは何か?それを目の前の顧客だとどう使えるか? or 使えないか?など営業としての仮説を提案できてこそ意味があると考えています。
結果として上記理由での失注割合は20%→5%まで低減。営業が何か言うよりも顧客に語って頂くことの絶大な効果を切実に感じました(笑)
ボラ⑷ 各営業が優先する課題解決
課題解決に向けては下記ステップが必要と考えました。
・組織内で課題集約できるシステムを作る(目安箱)
・課題を捉えながら、全体視点で優先順位を決めていく
・それぞれの課題に取り組むアサインをする
・ズレがおきないように納期、完了定義を言語化する
具現化していく為にビジネススクラム制を導入し、運用し始めました。具体的にはClick Upというタスク管理ツールを用いながら
上記4つのステップをくりかえす方式にしました。
UCSではよく、「リターンがない課題はないが、”リターンの大小はある”ので優先順位が重要」といった会話がなされています。
組織として出力最大化していく為に、「どこに入力すべきか?」を揃えることができたのがスクラム制の一番のメリットです。また現場で取得した課題を把握して、解決に向けるだけではなく、組織内にROI視点や全体視点の浸透に繋がっていった点も非常に良かったと捉えています。
⑤おわりに
長文かつ些末な内容になってしまいましたが、ここまでお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました!
スタートアップに限らないですが、組織を拡大させていく際に多くの企業で様々な壁にぶちあたっているのを前職時代に数多く見てきました。
スタートアップに転職して、私もぶちあたってきた訳ですが(笑)4つのボラを中心に、読んで頂いた方にとって、ほんの少しでも参考になる点があれば幸いです!
そんなUCSですが、私が入社した直後は10名に満たない組織でしたが、現在では40名を超える規模まで大きくなってきています!
※Ubie全体では150名程度
ここから日本だけではなく世界の医療体験をredesignし、全ての人を適切な医療に案内する世界に向けていく為に、まだまだ一緒に働く仲間を募集しています!
実は私、UCSの採用責任者も務めています!
そうなんです!(笑)
少しでもご興味持って頂いた方はお気軽にDM頂ければ幸いです!
毎週水曜にウェビナーも催行していますので、遊びにきてくれたら嬉しいです。
ちなみにUbie、他組織も絶賛採用中です(笑)
改めて、最後までご覧頂き、ありがとうございました!
ぜひ、今後ともよろしくお願いいたします!