【徹底解説】アルタンボラグ自由貿易区観光のための手引き🇲🇳|潜入レポート
もうロシアにはなかなか入国できない私たちが、限りなくロシアに近づける場所———それがアルタンボラグ自由貿易区である。
この記事を読んでいるということは、あなたはきっとアルタンボラグ自由貿易区に行きたいのだろう。そして、あまりの情報の少なさに絶望しているのではないだろうか?
安心していただきたい。
そんなアナタのために、今回(たぶん)世界一詳しいアルタンボラグ自由貿易区の日本語解説を用意した。
これは、あまりにも遠く、広大で、砂がちな風が吹きつけるフロンティアへ向いたいアナタを応援するために書いた、アルタンボラグ自由貿易区観光の手引きである。
アルタンボラグ自由貿易区とは
アルタンボラグ(モンゴル語:Алтанбулаг、英語:Altanbulag)はモンゴル北部・セレンゲ県の郡であり、ロシアのキャフタという町と国境で対峙する小さな町だ。
18世紀頃から、キャフタとの交易を通じて発展したという。
アルタンボラグ自由貿易区自体は2014年6月22日にオープンした。
アルタンボラグの政府機関の資料(※)によれば、蒙露中3カ国による投資を受けているらしい。ロシア–モンゴル–中国を縦に繋ぐモンゴル縦貫鉄道といった陸路を使って、ヨーロッパ・アジア間の交易を中継する地区になることが目標だという。
「自由貿易」区というだけあって、特殊な税制が取られているようだが、私は法律にあまり明るくないので割愛させてほしい。
※参考文献:http://altanbulag.gov.mn/backend/f/xgHzb0UabR.pdf
※アルタンボラグ自由貿易区公式サイト
アルタンボラグ自由貿易区へのアクセス
ほとんどの人はウランバートルからモンゴルへ入国するだろう。
よって、ここではウランバートルからアルタンボラグ自由貿易区への行き方を紹介する。
1. ウランバートル駅→スフバートル駅の列車に乗る
モンゴルは驚くほど鉄道が走っていないのだが、奇跡的にセレンゲ県の県庁所在地・スフバートルまでは旅客列車がある。まずは、このモンゴル縦貫鉄道に乗ってスフバートルを目指そう。
切符はオンラインでも買えるのだが、モンゴルの銀行口座やオンライン決済の手段がない外国人には厳しい。
そういう時は、親しいモンゴル人に頼んで買ってもらうか、ウランバートル駅左手にある切符カウンターで買うのが良いだろう。
実はウランバートル–スフバートル間は車で行けば2~3時間程度の距離なのだが、電車で行くと8時間もかかってしまう。夜行列車に乗れば宿代が浮くのでおすすめだ。
2. スフバートル→アルタンボラグのバスorタクシーに乗る
スフバートルに着いたら、駅前に屯しているタクシー運転手にアルタンボラグまで連れて行ってもらおう。
『地球の歩き方』によれば、10,000MNT(≒420円)で乗合タクシーに乗れるらしいが、これは片道乗り捨ての場合なのだろうか。
私たちはアルタンボラグでタクシーを捕まえられる自信がなかったので、タクシーを半日100,000MNT(≒4,200円)で貸し切って連れ回してもらった。
交渉すれば、スフバートル周辺を含めた日帰りツアーもしてくれる。
30分もすればアルタンボラグに到着だ。
ちなみにスフバートル⇆アルタンボラグの往復バスが出ているが、利用していないので運賃はよくわからない。
2016年時点で1,000MNT(≒42円)という情報を発見したが、最新の情報を知っている方は是非教えてほしい。
3. 車ごとor徒歩でアルタンボラグ自由貿易区に入場する
モンゴルの象徴である「ゲル」の形をした黄色い門が見えたら、そこがアルタンボラグ自由貿易区の入り口である。
しかし、モンゴルからの入場だとゲル型の門をくぐることはできず、国境警備隊らしき人物による検問を経ての入場となる。
入場方法は2つ。
自動車による入場と、徒歩による入場である。
いずれにせよ長蛇の列となることが予想されるため、開門(9:00)の1時間前には列に並んでおきたい。入場は自動車優先で開始される。
自由貿易区内はとてつもなく広く、徒歩で歩くのが大変なので、できればタクシーごと入場してもらうのが良いだろう。特に気の弱さを自覚している方は徒歩勢の列に並ぶのは避けた方が良い。(詳細は次項)
アルタンボラグ自由貿易区への入場方法
アルタンボラグ自由貿易区はロシアとの国境地帯に面した場所のため、国境警備隊の管轄となっているようだ。入退場は多少厳しいが、自由貿易区内は特に警備隊の姿は見えず緩い。
1. パスポートを国境警備隊に提示する
外国人だろうがモンゴル人だろうが、アルタンボラグ自由貿易区内への立ち入りには身分証の提示が必要である。
入口付近で提示を求められたら、大人しくパスポートを見せよう。
2. モンゴル税関の窓口に並び、税関申告書をもらう
自由貿易区内への入場が許可されたら、目の前のモンゴル税関の列に並んで税関申告書を受け取らなければならない。
前項で「早めに並ぶこと」「徒歩勢の列に並ぶのは避けること」と述べてきたが、その理由はアルタンボラグ自由貿易区の列に並ぶのは命懸けだからである。
「列」と言っても秩序のあるものではない。列後方からバッファローのように突進してくる巨体のモンゴル人男性たちが次々と窓口へと前進してくる。
当然先に並んでいた人たちは文句を言うわけだが、巨人の前に人々は無力だ。
おばさんたちは喚きながら押し倒され、
枝のように細いおじいちゃんたちも薙ぎ倒され、
列を成すための柵に、はち切れんばかりに膨らんだ人間の塊が苦しそうに掴まっている。
おそらくこの阿鼻叫喚は日常茶飯事なのだろう。税関の30cm四方窓の向こうにいる職員は冷たい顔で気だるそうにしている。
一人ずつしか税関処理をしてもらえない上、バタンっ!!!と窓を閉めて軽く5分は帰ってこない。とにかく気を強く持って我先にとパスポートを窓の向こうに押し込まなければ永遠に申告書はもらえないのだ。
ただ、外国人であることを周りに申告すれば多少手加減してくれるかもしれない。
実際、手続き戦争の最中に「私ヤポンスキー(日本人)なんです〜〜〜〜!!」と言いながら参加していたら、近くにいたお婆さんが「ちょっとあんたたち!!この人外国人よ!!!」と周りに伝えてくれたようで何とか申告書にありつけた。
周りの人も渋々ではあるがある程度の秩序を作ってくれるようになったので、外国人であることを申告するのも手かもしれない。
3. 自動車などで構内を回る
入場手続きと税関手続きが済んだら、あとは自由に行動できる。
徒歩でも、タクシーごとでも、自分の好きなように回ろう。
アルタンボラグ自由貿易区の見どころ
見どころは特にないが、ロシアやヨーロッパ産の物品が手に入る。
モンゴルらしいものを求めているならば、ウランバートルのスーパーかデパートに行った方が良い。「とにかく珍しい場所に行きたい」という方にはオススメだ。
さて、これら18個の建物からいくつか抽出して以下に詳細を紹介する。
◇
①展示場のような建物
この建物の表側が出入口および税関で、裏側に商店が並んでいる。
建物の入り口上部に"Tea Road"と書かれた横断幕が貼られていた。モンゴルを中心にロシアのイルクーツク(?)との繋がりを表した絵のようだが、とても色褪せている。
残念ながら、今回は中に入ることはできなかった。ただ、2014年のオープン当日のツイートで展示場内の写真を添付したものを発見したので、以下に紹介しておく。
④ALTAI shop
②〜⑦の並びの店は全てヨーロッパ産のウォッカを売る店だ。それぞれの店に大きな違い・特徴はなく、売られている商品はほとんど同じである。ポーランドやスウェーデン、ノルウェー産のウォッカが多い印象。
ウォッカ以外にもウイスキーも売られていたが、日本でもよく見る銘柄なので日本人からすればそこまで目新しくないだろう。
だが、アルタンボラグ自由貿易区が「ヨーロッパ・アジア間の交易地点」であることを忘れてはいけない。
モンゴル人からすれば日本人にとってのKALDIのような、外国製品が沢山ある商店街として重宝しているのかもしれない。
面白かった商品を挙げるとすれば、「ラスプーチン」というウォッカがあったことだろうか。
ロシア産のウォッカはあまり置いていなかった。
⑧болор shop
こちらも酒屋である。
HANAMIというジンが売っていて面白かったので紹介。
⑩ "чанса"хүнс жимс самар ахүйн бараа, гүтал
店名の通り「家庭用品と靴(ахүйн бараа, гүтал)」が売られている。
他店が酒やタバコを扱っているのに対し、珍しいラインナップだ。
洗剤やシャンプー、カーテンといった日用品の品揃えが豊富で、靴も大量に売っている。
⑪PLM Shop
先程の靴屋の隣にあるのがPLM Shopだ。ここは主に中国のタバコを扱っている店である。
他店の多くがヨーロッパ産の製品を扱っているのに対し、中国に寄ったラインナップであることから異色の店と言えるだろう。
他店との大きな違いは、店内に非常に高級感がある点だろう。
店内は少し暗めで、綺麗なガラスのショーケースにタバコが陳列されている。入店するや否や、店主が中国のタバコのカタログを見せてくれた。風貌は若干曾志偉に似ていて、とても中国を感じた。
さて、先程ロシア産の酒類はほとんどないとお伝えしたが、この店にはロシア産のウォッカが置かれていた。
⑫〜⑭の店たち
この辺りは酒類やドライフルーツが置いてある店である。ドライフルーツはキロ単位で売られており、ロシアからの輸入品だという。
⑮LUXURY★
LUXURYはアルタンボラグ自由貿易区で一番大きく、一番品揃えが豊富な店である。
とりわけ面白いというわけではないが、ここまで様々な店を見てきたあなたの目には見どころ満載の店に映るに違いない。
店内は小さなスーパーといった様子で、綺麗に整頓されている。
酒類はもちろん、清涼飲料水やお菓子、インスタント麺、乾麺、調味料、粉類など何でも売っている。タワシや歯ブラシ、オムツなどの日用品も売っている。
カザフスタンやウズベキスタンといった中央アジアの商品が多い印象だ。
そして面白いことにキューピーのドレッシング類も売られていた。
ちなみに、モンゴルではカゴメの商品をよく見る。ケチャップや野菜生活が小さな商店でも売られている。野菜が少ないモンゴルの食事に注目して、健康意識の高い人向けのマーケティングを行なっているのだろうか。
⑰おしゃれなカフェ(名前不詳)★
こちらもアルタンボラグ自由貿易区には珍しく、大変モダンなカフェである。日本の田舎道に突然現れる、若い人が経営するお洒落なカフェといった様である。
アルタンボラグ自由貿易区の広大な土地に歩き疲れたら、ここで休憩するのがオススメだ。
モンゴル名物の軽食・食事が頼める。
カフェというと、コーヒーを豆から挽いてくれるとか既に作ってあるコーヒーをコップに注いでくれるとか考える方が多いだろうが、この店は缶コーヒーをそのまま出してくれる。
ちなみにコーヒーは韓国のものだ。
カフェのお隣の店はウズベキスタン産のチョコレートを売っているお菓子屋さんなので、お土産に買って帰ると喜ばれるかもしれない。
アルタンボラグ自由貿易区を観光する際のアドバイス
最後に、アルタンボラグ自由貿易区を観光する際のアドバイスをいくつか紹介する。
1.商品はトゥグルグで購入可
アルタンボラグ自由貿易区内の支払いはトゥグルグ(MNT)で行える。
タクシー運転手の話ではロシアルーブルに替えなければならないと聞いていた。もしかしたらルーブル払いもできるのかもしれないが不明。
2.7:00〜8:00頃には門前で待機しておく
入場方法の章でもお伝えしたが、入場の列は非常に長くなる。なるべく早く待機して、なるべく早く税関窓口で税関申告書を手に入れよう。
3.自動車で入場する
アルタンボラグ自由貿易区内は非常に広大である。徒歩で歩けないことはないが、疲れる上に途中で店を巡るモチベーションが下がることが予想される。できればタクシーごと入ってもらうのが良い。
4.トイレは覚悟して入る
モンゴルの水洗トイレは、ほとんどの場合中国製の便座を使っており、一部ウランバートル市のショッピングモールではTOTOが採用されていたりする。
しかし、アルタンボラグ自由貿易区には水洗トイレはない。
自由貿易区入り口から少し離れたところに、地面に穴を掘って小屋を上に立てただけのトイレがある。
詳細は記載しないがお察しなトイレなので、「綺麗なトイレ以外無理!!!」という方には観光を諦めてもらうしかない。
5.蒙露国境ギリギリまで近づいてしまうことに注意
アルタンボラグはロシアとの国境の街であるため、アルタンボラグ自由貿易区から徒歩15分の場所に国境検問所がある。
ロシアのビザを持っていればこの国境ゲートからロシア入りができるが、徒歩での国境越えはできないのでタクシーかバスを利用する必要がある。
ちなみに、外国人が利用できる蒙露国境ゲートはアルタンボラグを含めた4ヶ所のみで、他の検問所はロシア人とモンゴル人しか通過できない。
上記写真の場所までは徒歩で到達できるのだが、この先は乗り物に乗らなければ入ることはできない。
しかし、アルタンボラグ自由貿易区の隣の空き地の端っこから、徒歩での侵入が禁止されている国境地帯に近づけてしまう。
本当に思いもよらないところから近づけてしまうため注意である。
絶対に、むやみに近づいたり写真を撮影してはいけない。万が一それらしき場所に来てしまったらすぐに立ち去ろう。
5.自由貿易区の隣にあるスフバートル県革命博物館が面白い
「せっかく朝早くから並んだのに、10:00前にはアルタンボラグ自由貿易区観光終わっちゃったよ……ショボン」という方がほとんどだと思うが、そんな時はお隣のスフバートル県革命博物館がオススメだ。
モンゴルは現在のモンゴル国以前は、モンゴル人民共和国という名の社会主義国家であった。ソ連の支援を得て、1921年に中華民国から独立した。
スフバートル県革命博物館は、1917〜1921年までのモンゴル人民革命に関する展示を中心とした2階建の博物館である。
入場料は3,000トゥグルグ(≒125円)。
モンゴル人民革命の中心メンバーにダムディン・スフバートル(1893〜1923)という青年がいた。
この博物館はスフバートル青年の、革命の功績を中心に展示している。
スフバートル青年は残念ながら1924年のモンゴル人民共和国の樹立前に亡くなってしまったのだが、彼の功績を人々は讃え、モンゴルのあらゆる場所に「スフバートル」という名前が使われている。
アルタンボラグが属するスフバートル県も彼の名前が由来だ。ウランバートルの中心にある広場も「スフバートル広場」と名付けられている。
また、モンゴルの各地にスフバートル像が立てられている。
これだけ英雄視されているスフバートルだが、「彼はただ革命のアイコンに祭り上げられたにすぎない、特に何もしていないのに」というモンゴル人の意見を聞いた。
革命に人生を捧げ、若くして亡くなった彼の人生はいかにもセンセーショナルだ。
若くして亡くなった幕末の志士に熱烈なファンがいるのと同じように、スフバートルの功績より彼の人生のありように惹かれる人々の心が、スフバートルを英雄に仕立て上げたのかもしれない。
1階の展示コーナーでは、スフバートルの遺品を中心に、彼の功績やモンゴル人民革命を描いた美術品が陳列されている。
スフバートルのもの以外にも、革命に参加した人々の遺品や功績の記録が並ぶ。
2階は革命後〜現代のモンゴルの様子が展示されており、民俗学的な展示物が多い。
モンゴル各地の特産品、生息する動植物、モンゴル仏教やシャーマン関連の物品などが見られる。
世界史好き以外は、なかなか触れることのないモンゴル人民革命の歴史を知ることができるため、ウランバートルからはるばる訪問する価値は大いにある。
学芸員の方が英語とモンゴル語で丁寧に解説してくれるため、展示物への理解も深められるはずだ。
まとめ
この記事を通して、アルタンボラグ自由貿易区への興味が湧いてくれていたら大変嬉しい。
正直なことを言うと、何もない場所なのでアルタンボラグ自由貿易区自体に興味がないのなら、行く必要はない。ウランバートル市内やゴビ砂漠を楽しんだ方が良いと思う。
ちなみに、現在とは違って、かつてこの場所が盛えていた時代もあるようだ。
今回私たちがアルタンボラグ自由貿易区に向かったのは、ただ単に蒙露国境地帯のこの場所が現在どのような状況になっているのか見たかったからである。
買い物を目的にしているなら、行っても買うものは特にないだろう。
Twitterで「Алтанбулаг чөлөөт бүс」や「Altanbulag free zone」と検索をかけてみてほしい。モンゴル人たちの青息吐息、辛辣な評判がザクザク出てくる。
このように散々な言われようだが、地元当局としてもアルタンボラグ自由貿易区の更なる活用を目指しているようだ。
今後ますますアルタンボラグ自由貿易区が発展していくことを、私は切に楽しみにしている。
◇
アルタンボラグ自由貿易区にどうしても行きたいというアナタ。
私はアナタのことを心から応援している。
その時には、少しばかりこの観光の手引きのことを思い出してくれたら、とても嬉しい。(了)