(エッセイ)尻を打った話

尻を打った。正確には尻〜腰付近を打った。
前回(イキってシーシャ屋で作業しようとしたらそのタイミングでiPhoneが壊れ虚空を見つめるしかなかった話だよ!これ以上何かあるわけでも無いけど暇な人は前回の記事『iPhoneが壊れた話』を読んでね!)
のシーシャエクストラバージン(響きのみ)からの続きにあたる。
シーシャで奇しくも望んでいないSNSデトックスに成功してしまった私は、動かなくなったiPhoneと切ない気持ちと共にお会計をした。
お洒落長髪店員さんがお会計後ドアを開けてくれて、「また来て下さいね」とニコニコ。
私は「ありがとうございます」とニコニコしながら返事をし、心の中で「はい、次は新しいiPhoneと一緒に来ますね」と泣きながら返事もした。
ドアが完全に閉まりきり、気を取り直し家に帰ろうと歩き出した途端、嫌な予感がした。
人間というのは不思議なもので、予感というものは当たるらしい。
なんとなく、階段でこける気がした。
しかしシーシャの煙で頭がフワフワしていた私はまさかね〜♪と何も考えずに警戒心ゼロで階段に一歩足をかけた、途端、世界が、歪んだ。
気付けば階段に対し並行に寝転がっている自分がいた。
そして尻〜腰の強烈な痛み。
本当に痛い時って何に向かってか分からないが、なんか悔しい。
歯軋りをしながら地団駄踏んで拳を作り、とにかく憤りを感じる。
この憤りや痛みを少しでも早く分散させる事に全集中しているため、今だからこうも冷静に当時のことを書けてはいるが、その時は何も考えられない。
ただとにかく体の中の何かが「全神経に告ぐ!手が空いている神経さんは尻〜腰及び繋がっている神経のカバーに回ってください!脳みそさんもホラ、お高く止まってないですぐに向かってください!一刻の猶予もありません!何をそんな悠長にあれパンツ見えてる?なんて考えてるんですか?!体裁より尻の痛みでしょう?!」と緊急事態宣言を発動させ、体内の神経達が忙しく動き回っていた。
神経各所が尻〜腰を打ってからの約10秒間迅速な動きをしてくれたおかげで、少しずつ脳が尻〜腰以外のことも考えられるようになってきた。
と同時に「ううう、うう、うう〜」と間抜けな声を思わず上げてしまい、そして自分があまりに間抜けな声を出したのでそれに対しニヤニヤしてしまい、更にニヤニヤしてしまった自分が情けなくなり、涙が出そうになった。
これ以上惨めになってはいけないと最後の理性(?)が働き、パンツが見えないようにどうにか起き上がる。
その時はじめて自分が思っているより重症かもと気付く。
動く度に応じるズキズキ感。
あとから内出血は絶対になるんだろうな…
絶対ないと思うが、万が一折れていたらどうしよう?!という心配性な自分もいる。
そして何より、シーシャのお洒落長髪店員さんに一部始終を見られていたらどうしようという焦り。
転んだ瞬間同時に「やっちまった!見られた!」という羞恥が脳みその片隅にあった。
ここへきてやっとその可能性と向き合う時が来たのだ。
実は転んだ直後からずっと、後頭部に視線のような熱さを感じていた。
最悪な熱視線である。
私はこのまま後ろを振り向かずシュレディンガーの猫状態で「尻を打った女を見た店員さん」「尻を打った女を見なかった店員さん」の2人を己の世界線に誕生させることは容易い。
しかしそんなこと私のプライドが許さない。

向き合おう。
今ここで。
真実を知ろう。

いざ店員さんと目が合った時に「こういうことも生きていればありますよね?フッ」と大人の余裕を見せるべく薄ら笑いを顔に張り付け、あくまで一応ね、一応念のため万が一を備えて確認のために、後ろを見ますよ?風にさり気なく振り向くことにした。念のため振り向くって何?


いざ、決戦!!!!!
「こういうことも生きいてればありますよね?フッ」



そもそも私が転んだ階段からシーシャ屋のドアは見えない。
もちろん店員さんはそこにいなかったし、あるとするならばテナントビルの薄汚れた白い壁だけだった。


なんだろう、このやるせなさは。


もしかして私は見られたかったのではないか?
尻を?打った?姿を?接客する・されるだけの関係値しかまだ築いていない店員さんに?私は彼の名を、彼も私の名も、知らないのに?ただそれだけの私達なのに?誰でもよかったのかな?ねえ私って誰でもよかったのかな?
私はただ誰かとこの憤りを共有したかっただけなのかな?
ここで一つの疑念が生まれる。
このありもしない尻から始まるストーリーに期待をしていたのは、Twitterで即座に尻打ち話を呟けなかった弊害ではないか?
そんな伏線回収あってたまるか!

「大丈夫ですか?!」
「やっちまいました〜痛いですね〜(笑)」
の会話シュミレーションまでしていた私は、白い壁を見つめるしかなかった。


続く

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