スパイスカレーを食べた日記
先日、スパイスカレーを食べた。
スパイスカレーは美味い。カレー自体がまずスパイスからできているから、スパイスカレーではないココイチのカレーやバーモントカレーとかこくまろとかもスパイスカレーなのではないかと思うが、世間では主にあの、カレールウで作る方では無く、スパイスを何種類か混ぜ合わせて作るお洒落な感じのやつをスパイスカレーと呼称しているようだ。
よって、ここでもそれを「スパイスカレー」として扱う。
そもそも、私はガサツで悪食なので普段の食事といえば、マクドナルドか松屋か適当に煮てめんつゆをかけただけのパスタとソーセージの3通りであると言って良い具合で、つまり細かな味の際に舌鼓を打ったりするような習慣がない。
スパイスカレー屋で提供されるスパイスカレーは一般的に、めっちゃ色々入っており、カレーというかなんというかトロっとしたスパイス液体であり、ポジティブに表現すれば個性豊かなスパイスの組み合わせの際を楽しむ美食だ。
松屋やマクドナルドで味も感じないまま適当に済ます食事と異なり、スパイスカレー屋でスパイスカレーを食う時は、そんな私も例にもれず美食家となる。
「う~んこれは、海鮮のだしにミルクを入れることでラクサ風にしているのか…」とか「皿をサラサラの触感のやつにして印象を柔らかにしてるのか…」とか思う。
まあ自分で作ろうとしたこともないので大概よくわかってないが、とにかく色々なスパイスが入ってるのでぶつくさ感想が言いやすいのでもある。
ところで、スパイスカレー屋は個人経営の店がほとんどの割合を占めている。
そして中心街からやや離れた雑居ビルの一室にあることが多い。
で、内装と店主がサブカル風の見た目であることが多い。
なぜか。
それはたぶんスパイスカレーがオシャレだからだ。
オシャレで出店のための初期費用が安からだと思われる。最悪、鍋とコンロ一つあれば事足りるだろうから。
私もずっとサブカル畑の人間だが、スパイスカレー屋の店主といったら、かっこいいような印象を受ける。
バンドや零細ファッションブランドをやるよりもずっと堅実だろうし、調理師免許とスパイスの調達経路とテナントを借りれる伝手があれば良い。
まあそれらはすべて妄想だが、あながち間違いでもないだろう。
雑居ビルの狭い狭い一室、それも二階の、外階段を上がって一番奥で、まあ、自分がお客さんだったら入りづらいだろうな~という一室で、同じくサブカルチャーの金髪女子のアルバイトを一人雇い、店内の内装壁にはサブカル界隈の絵描きが描いた前衛的アート。
で、硬派にSNSを運営して、その日の賃料の分の売り上げを試みる。
で、時には無名のクリエイターを誘って空きスペースで個展を開催させたりしてね…
たぶんあの店の店主は、浪人して大学に入って、下宿先の学生達と仲良くなって毎日飲んで遊んで、講義にも出ないからダブりにダブって、入学から4年経って覚えたことと言えば麻雀と安酒の飲み方、それとセックスと性病によく効く抗生物質。そんな具合で、親から仕送りは来るけど連絡するのは気まずくて、まあサブカル界隈で有名な人と知り合ったりして立場が出来たような気がするけど実際はなんてことなくて、そのうち退学してフリーターになって30歳になって、Twitterでバズってる絵師が17歳で2007年生まれだったりして、もうおっさんだし金もないし甲斐性もねえし、なんか…俺の人生って…となったけどある日そんな抑うつの反動で躁状態気味になって、うっしゃ~スパイスカレー屋でもやるか~~俺でもできそうだし…
となったに違いない。
店主。アナタのところのスパイスカレーは、なんか珍しい具材ばっかり入ってるけど、全部が全部主張しててとっちらかってるから美味しくないよ。
いや、馬鹿にしているわけではない。僕だってスパイスカレー作ったことないし。
つうか、流れに身を任せて流れてたら、運よく今の会社で働くことになっただけで、能動的に努力したことと言えばたぶん3回くらいしかなかったもんで職もなにもない30おっさんになっていた可能性はかなり高い。
かといってそういったやる瀬ない生活に耐えるような豪気な精神性も無いから、精神的に追い詰められた結果、蛮勇を発揮して一念発起しそうだ。
敷居の低そうな飲食店をやるなら、ふだんマクドナルドか松屋しか行かないようなガサツな自分でも良し悪しがわかるような気がするスパイスカレー屋を開業しようと思うだろう。
あの店主は、会社にほど近い、雑居ビルの二階の奥の奥に鎮座してて、知り合い以外はかなり入りづらそうな、でも内装は結構頑張っててサブカルの流儀が感じられて、でも肝心のカレーはさしてうまくないあのスパイスカレー屋の店主を見ていると、決して他人には思えない。
店主と喋ったことはない…というか目すら合わせたことも無いが、店主を見ていると、違う世界線の、サブカル界隈にすっかりハマっているif世界の自分を想像してしまう。
味の区別も付かないのに良いスパイスカレーなんて作れるかよ。
ちょっとは努力しろ!俺。
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