表象から紐解く音楽の展望
(授業の一環で作成したレポートなので、詳細まで掘らず「ふーん」ぐらいの気持ちで読んでください。しっかり読み返すと不正確な情報も多々あるので…)
ソングライター田淵智也の楽曲から紐解く音楽の展望
はじめに
アーティスト田淵智也は、ロックバンドUNISON SQUARE GARDENのベーシストであり、ソングライターでありながらUNISON SQUARE GARDEN以外のアーティストにも楽曲提供を行うなど、これまで非常に多くの楽曲を制作している。その楽曲数は2019年現在で200曲を超えている。彼がUNISON SQUARE GARDEN以外のアーティストに楽曲の提供をする活動を開始したのは2011年にリリースされた、『妄想コントローラー』(LiSA)からであるから、単純計算して彼は通常のバンド活動に並行して、年に10曲以上の楽曲をUNISON SQUARE GARDEN以外のアーティストに制作していることになる。
他の作曲家と比べても『多産』と表現して過言ではない田淵智也の楽曲に対して、世間からのイメージは比較的一環しているように感じられる。雑誌や音楽番組にて田淵智也の楽曲が取り上げられて紹介されるときには、
・早い、疾走感がある
・使用されている言葉の難解さ
・独特でありながらポップなイメージ
などの言葉で表現されることが多い。これらのイメージが実際の楽曲に当てはまっているのか。また、彼特有の独特さがこれまでと今後の音楽業界にどのような影響をもたらしていくのか、検討していく。
その上で資料として使用したのは、筆者が独自に制作した田淵智也の楽曲一覧である。楽曲タイトル、収録盤名、発表年、歌詞の文字数、楽曲の秒数、アニメ関係の楽曲であるか否か、を集計し整理した表をこの本文の終わりに記載する。
当文書では、田淵智也の楽曲一覧から見えてくる彼の楽曲の特徴や変遷に関する調査報告と、その調査から考察できる田淵智也の楽曲が現在の音楽業界にとってどのような立ち位置にあるのか、今後どのように影響を及ぼしていくのかを考察していく。
楽曲一覧から調査報告
制作楽曲の曲数
2005年にUNISON SQUARE GARDENとして発表した『流星行路』を皮切りに、田淵智也は多くの楽曲を制作してきた。
(当該グラフ・図はサイトの形式上割愛。)
(注:先にCDシングルで発表されている楽曲がアルバムに再録されている音源等については集計から除いている。)
上記の表は、田淵智也が一年で発表した楽曲数を一覧にしたものだが、これは彼は『田淵智也』名義で発表した楽曲に限られ、彼が所属しているプロデュースチーム『Q-MHz』が制作した楽曲は含まれていない。UNISON SQUARE GARDENが結成されて数年は楽曲発表の場が現在よりも限られていたため、曲数は伸びていないがその後はコンスタントに10曲以上の楽曲を発表していることから、彼が楽曲を生み出すペースと音楽業界からの需要に大きな齟齬があると認めることは出来ない。加えて、2013年を除いて特筆して発表曲数が急激に増えた年が存在しないことから、彼の楽曲は一時的なブームによって需要を伸ばしているわけではないことも分かる。(2013年は、テレビアニメ『夜桜四重奏』のキャラクターソングアルバム『桜新町の鳴らし方。』を全曲プロデュースしたため、局地的な値が多いと判断したため、流行を測る指標にはなり得ないとして除外した。)
したがって、田淵智也の楽曲は何かをきっかけにして爆発的に人気を得た、というよりもUNISON SQUARE GARDENと彼の作曲家としてのキャリアが実を結んだものだと考えられるだろう。
楽曲提供先アーティストの傾向
次に、田淵智也がUNISON SQUARE GARDEN以外に楽曲提供をしているアーティストにどんな傾向があるのかを楽曲一覧から考察していく。
(当該グラフ・図はサイトの形式上割愛。)
上記の表は、田淵智也が楽曲提供をしているアーティストの一部だ。楽曲数として最も多いのはLiSAの21曲だが、ここで取り上げたアーティストは自身のヒット曲が田淵智也からの定曲楽曲を抜粋しているが、田淵智也は計38団体のアーティストに楽曲提供をしてきた。その38団体の内、30組が声優やアニメ主題歌を担当することの多いアーティストだ。つまり、田淵智也の楽曲はその特徴としてアニメ音楽や声優歌唱の楽曲に需要が高いことが分かる。また、アニメの楽曲だけではなく、アイドルへの提供も行っている。アイドルに関しては男性、女性両方のアーティストに楽曲の提供を行っていることも分かる。
この点から、田淵智也の楽曲に
・ポップ
・疾走感がある
というイメージが持たれることには、こういった点に要因の一つがあるとも言えるだろう。
『使用されている言葉の難解さ』について
田淵智也の楽曲は、独特の言葉遣いも特徴の一つだ。まず、その内のいくつかを抜粋していく。
上記の歌詞は、田淵智也の提供楽曲の一部だ。彼が作る楽曲の歌詞の特徴として、『難解な言葉遣い』が挙げられることは一部でも読み取れることができるだろう。『平等性原理主義』という言葉が本当に存在するのかどうかは別として、「なんとなくこの歌詞の意味がわかるような気がするけれど、やっぱり意味がわからない」歌詞が田淵智也の楽曲の特徴だろう。ポップで明るく疾走感のある楽曲に難解な言い回しの歌詞が乗ることで『田淵っぽい曲』の要素が検討できる。
また、これは彼のファンである筆者自身の体感だが、歌詞の観点でいえば、彼の楽曲は年々長くなっているように感じる。歌詞が長くなっている、というのは楽曲が長くなっているわけではなく、同じ時間の中で詰め込まれる歌詞が長くなっているという意味だ。その点を、単純計算ではあるが『(歌詞の文字数)÷(楽曲の秒数)』で得られる値、つまり一秒間で何文字の歌詞を歌っているか、を算出し彼の楽曲の歌詞の長さに傾向が見られるか考察した。
上記の図は、『(歌詞の文字数)÷(楽曲の秒数)』で得られる値を、年代別に分けたものである。この値が大きければ大きいほど、楽曲における『歌詞の密度が濃い=短い時間の中に多くの言葉が詰め込まれている』ということになる。先の二つの図は、田淵智也がUNISON SQUARE GARDENとして活動を始めた2004年からのデータを使用したグラフだが、後の二つは彼がUNISON SQUARE GARDEN以外のアーティストに本格的な楽曲提供を行うようになった2010年以降のデータを使用したグラフとなっているので、この点は留意していただきたい。
このグラフから見える事実として、田淵智也が制作する楽曲の歌詞の長さは、下限値はほとんど変異していないが、上限値は大きく伸びていることが分かる。また、アニソン関係の楽曲のグラフを見てみると、逆に上限値はほとんど変わらないが下限値が底上げしていることが分かる。
つまり、UNISON SQUARE GARDENとして求められている楽曲の幅が大きくなり、アニソンと同等の密度の歌詞になっているのに対して、アニソン関係からは明確に歌詞の密度が高い曲のオーダーが増えているとも考えられるだろう。提供楽曲のオーダーとして、早いテンポで難解な言葉を詰め込む、という定型が外注される田淵智也の楽曲の特徴といえる。
では、UNISON SQUARE GARDENの楽曲でアニメの主題歌になっている楽曲は、他の提供曲に比べて『歌詞の濃度』はどれくらいなのだろうか。これもグラフにして検討した。
上記のグラフを見てみると、UNISON SQUARE GARDENが発表したアニメ主題歌に関しても初期の2011年と比べると、2019年現在の楽曲は歌詞の密度の加減は維持したまま上限が伸び、楽曲の幅が広がっているといえるだろう。
以上のことを総括すると、田淵智也が制作する楽曲については二種類の傾向が読み取れる。
まず、UNISON SQUARE GARDENの楽曲については本業のバンドであるからしてバラードやロックバンド然とした楽曲に加えて、ポップなアニソンに近い楽曲もこなすオールマイティに制作をしている。
対して、提供楽曲は『難解な歌詞』『詰め込まれた歌詞』『キメや掛け声の多い、所謂アニソン然とした楽曲』のイメージを確固としたものにするような作品が年々増えているのではないだろうか。つまり、楽曲をオーダーする側の『田淵っぽい楽曲』のイメージ像が固定化されつつあると考えられる。
田淵智也の楽曲が音楽業界に与える影響
ここからは田淵智也の楽曲が音楽業界に与える影響について考察していく。
田淵智也の楽曲がこれまでの音楽業界に与えてきた影響
まず、田淵智也の楽曲がこれまでの音楽業界に与えてきた影響を考察する。ソングライターとしての田淵智也と切っても切れない関係なのが『アニソン』だ。彼がこれまで手がけてきたアニソンは、他のロックバンドの兼任して楽曲を提供しているアーティストと比較してもかなり多い。しかし、ロックバンドがアニメの主題歌を担当することはここ最近始まったことではない。彼がUNISON SQUARE GARDEN以外のアーティストに楽曲を提供するようになる以前から、ロックバンドとアニメは楽曲の提供という点で繋がりがあった。その楽曲達は所謂『ロックバンド然』とした四つ打ちのビートであったり、骨太なサウンドであるなど、オタクがサイリウムを振って踊れるような楽曲は少なかった。つまり、『ロックバンドのアニソン』と『アイドルや声優が歌うアニソン』の間には大きな乖離があった。
しかし、田淵智也が作るアニソンはUNISON SQUARE GARDENの楽曲であっても、声優やアイドルが歌う楽曲であっても、『オタクが求めるアニソン』が多い。オタクに響くアニソンを作れるロックバンド出身の作曲家が登場したという点で、彼の存在は邦ロック界にもアニソン界にも大きな影響を与えたと考えられる。
田淵智也の楽曲がこれからの音楽業界に与える影響
次に、田淵智也がこれからの音楽業界に与える影響を予想し、考察していく。先にも述べたように彼の楽曲は邦ロック界とアニソン界の両方に影響を与えるだろう。そこで、ここでは特にアニソン界隈への影響を中心に考察する。
筆者が昨今のアニソン界隈に対して課題に感じていることとして、『ヒットソングがない』ことがある。ここ数年で、誰もが一節歌えるようなヒットソングがアニソン界隈から発信されていない。アニメの放映が減らない限り、アニソンはコンスタントにリリースされ続けていく。また、昨今は世間のアニメへの関心が以前よりも高まっている(ライト層『オタク』の増加、『オタク』の市民権獲得)ことからアニメを放送するチャンネルも増えた。しかし、ヒットソングは生まれない。2016年にRADWIMPSが発表した『前前前世』は、アニメ映画『君の名は。』の主題歌でヒットした楽曲であるが、この楽曲がロックバンドが集まるフェスやイベントで演奏されることはあれど、その場所にサイリウムを振ったオタクが集結することはなかった。以上を加味すると、往年のヒット曲である『残酷な天使のテーゼ』や『創聖のアクエリオン』、『コネクト』など、国民的ヒットソングは少ないように感じる。
作られてる楽曲は減っていないどころが増えているにも関わらず、新しい楽曲達はアニメの放映時期を超えると聴かれないまま時代の潮流の中に消えてしまう。このことについて筆者は危機意識を覚えている。
そして、この危機意識を解消するのが田淵智也の楽曲なのではないかと考えている。UNISON SQUARE GARDENが2011年にリリースした『オリオンをなぞる』は、アニメの主題歌としてヒットした楽曲だ。『オリオンをなぞる』が、ロックファンだけでなくアニメファンにも浸透したことで、UNISON SQUARE GARDENのライブにはある変化が起こった。UNISON SQUARE GARDENのライブにアニメファンが足を運ぶようになったのだ。普段アイドルや声優のライブでサイリウムを振っている音楽ファンがロックバンののライブに足を運ぶようになる、この変化はUNISON SQUARE GARDENのバンドとしての歩みとして大きな変化であるように感じる。『オリオンをなぞる』以降から、UNISON SQUARE GARDENにアニメの主題歌のオファーが増加したのは事実であるし、田淵智也個人に対しても楽曲提供のオファーが増加した。そこで、彼の作る楽曲には『田淵っぽさ』として括られる、ユニゾンファンが求める要素とアニメファンが求める『アニソンっぽさ』が共存していることで、両者の垣根を曖昧にしつつあるのではないだろうか。また、『オリオンをなぞる』や『シュガーソングとビターステップ』は、 UNISON SQUARE GARDENの楽曲でありながらこれまで様々な声優やアーティストにカバーされてきた。キャラクターソングや音ゲーの課題曲など、その用途は様々でありながら、楽曲のこのようなあり方を可能にしたのも『田淵っぽさ』のなせる技だろう。
彼の楽曲は、UNISON SQUARE GARDENの楽曲が好きなロックファンとアニソンが好きなアニメファンのちょうど中間に立つような楽曲であるといえる。
ここで、先ほど述べた課題に戻る。アニソンとして作られてる楽曲は減っていないどころが増えているにも関わらず、新しい楽曲達はアニメの放映時期を超えると聴かれないまま時代の潮流の中に消えてしまうという点について彼の楽曲は一つの答えを提示している。つまり、田淵智也の楽曲にある『混ざり合わない界隈における中立性』は普段アニソンを聴かない層であるロックファンにもアニソンに触れる機会になると同時に、普段ロックバンドのライブに行かない層であるアニメファンがロックバンドのライブに行くことで生でアニソンを聴くことができるようになる。両者が混ざり合う必要性の有無を考える前に、両者が同時に足を向ける場所ができることによって、ロックファンもアニメファンも絶対的な人数が増えることになるだろう。ライト層であっても、アニソンが人の目に触れるところにある。このことが筆者が覚える危機意識について一つの答えになると考えている。
田淵智也の楽曲にある、『ロック』とも『アニソン』ともとれる特徴が、
・早い、疾走感がある
・使用されている言葉の難解さ
・独特でありながらポップなイメージ
として形容されるのだろう。
田淵智也がソングライターとして制作してきた楽曲の表象を読み取ることで、彼が今後の音楽業界に与える影響について考察してきた。
ある意味で『独特』といえる彼の楽曲の特異性がボーダーレスにファンを獲得していることを楽曲の表象から知ることができた。
後記
後の指摘として、文字数÷秒数 という計算式であると、前奏・間奏・後奏の扱いはどうするのかという指摘をいただきました。