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「さばかれえぬ私へ」展に行ってきた/東京都現代美術館


「さばかれえぬ私へ」展に行ってきた

写真:東京都現代美術館HPより

東京都現代美術館で開催中の「さばかれえぬ私へ」展に行ってきました!
同時期に開催されていたディオール展の熱気が凄まじく、圧倒されましたが、それを横目に「さばかれえぬ私へ」展へ。

写真:東京都現代美術館HPより

ディオール展は私の大好きな写真家、高木由利子さんの写真も展示されていたようで、行きたかったのですが会期中常に大盛況&大混雑だったので諦めました…。さすがディオールです…!



展示の概要

「さばかれえぬ私へ」展は「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)」の第3回受賞者の志賀理江子さんと竹内公太さんによるものです。


出展作家

◯志賀理江子
1980年生まれ 宮城在住
2008年に移住した宮城を拠点に、人間社会と自然の関わりや何代にもわたる記憶などを題材に制作を行う。
◯竹内公太
1982年生まれ 福島在住
身体と憑依をテーマに、建築物や目撃者のインタビューといった人びとの記憶に光をあてつつ、多角的な視点から、メディアと人間との関係を探っている。

会場構成は、志賀さんの大型映像インスタレーションから始まり、竹内さんの風船爆弾の展示と別室の映像作品、そして最後に再び志賀さんの写真展示という流れでした。


志賀理江子《風の吹くとき》


ビデオ・インスタレーション《風の吹くとき》は2022-2023に制作された志賀さんの新作です。

写真:TCAA HPより

映像中央でマイクを持ち真剣な顔でこちらに語りかけている女性、その後ろで目を瞑ったまま歩く人々…。
本作は「東日本大震災」を題材としたもので、被災地や被災者の戸惑いや捻れた復興計画への訴えとなっています。

「眼を閉じて歩くと、真っすぐだと自分は思っても全然違う方向へ行ったり、強い風で方向感覚が失われたりする。私たちは普段何を信じて前へ進んでいるのか、素朴な『歩く』という身体行為に問われた思いがした」
と志賀さんは語ります。

映像中央に映る目を瞑って歩く人々からは震災による戸惑いや復興の捻れを感じます。
左右に映る映像と合わさって当事者の痛々しさ、生々しさがダイレクトに感じられました。


竹内公太《地面のためいき》


巨大な映像インステレーション展示を抜けると、続いて竹内さんの大型作品《地面のためいき》が現れます。

写真:東京都現代美術館HPより

作品の題材は「風船爆弾」です。
風船爆弾とは第二次世界大戦末期に日本軍が開発した、紙製気球に焼夷弾を搭載した無人兵器で、米国本土の直接攻撃を企図して約9300発が国内から空に放たれ、その基地のひとつが竹内さんの住む福島県いわき市にあったそうです。
私自身、この展示で風船爆弾の存在を初めて知りました。

会場中央に設置された巨大な気球は、天井近くまで大きく膨らんだりペタンコにしぼんだりが繰り返されていました。
この気球は本展のために制作された新作だそうで、ワシントン州の核開発拠点ハンフォード・サイト近辺の実際に風船爆弾が落ちた地面を撮影した写真300枚が使用されています。
呼吸しているような気球で「場」が表現されており、風船爆弾が投下された場所とその強烈な被害、恐怖を肌で感じました。


竹内公太《眺めの回収/風船憑依》


会場中央の気球を囲むように展示されていたのが《眺めの回収/風船憑依》同じく竹内さんの作品です。

写真:TCAA HPより

風船爆弾から見える眺めを竹内さんが描いた作品、まさに題名の通り「風船憑依」です。
壁一面に設置されたこの作品は「身体と憑依」という竹内さんのテーマを間近に感じることができました。
何よりも細かく精密であり作品の数も膨大で、その迫力に圧倒されました。


竹内公太《三凾座の解体》


そして会場内の別室に竹内さんの《三凾座の解体》という映像インスタレーション作品が展示されていました。

写真:TCAA HPより

三凾座(みはこざ)は、竹内さんが住むいわき市に明治時代に建てられ、国の登録有形文化財に認定されていましたが、東日本大震災でのダメージが激しく2013年に解体された劇場です。

薄暗い別室に入るとスクリーンに解体される三凾座の様子が映し出されており、鑑賞者がスクリーンに映し出される映像作品でした。

使われていたスクリーン(銀幕)と設置されていたベンチは実際に三凾座で使用されていたそうで、今はない過去の場所と時間を鑑賞者が身体的かつ視覚的に追体験できるものでした。

また、この作品は作品と鑑賞者の相互作用で完成する作品であり、「体験共有」「追体験」がキーワードではないでしょうか。



志賀理江子《あの夜のつながるところ》


最後の展示部屋は再び志賀さんの作品でした。

写真:TCAA HPより

天井近くまで埋め尽くされた巨大な写真(もはや壁紙?)に整列して貼られている2L版ほどの小さな写真、そして会場中央にはフェンス囲いの中で土嚢が落下する装置と土嚢状のピローが設置されていました。
まさに本作品の世界観に飲み込まれたようなインスタレーション展示でした。
会場の空気感もどことなく冷たいように感じ、写真の内容の生々しさと中央のオブジェクトが相まって、被災地と被災者の現実を体験したような、無力感に襲われる作品でした。



志賀理江子さんと竹内公太さんの作品はテーマは異なるものの、両者には共通の認識があり、作品の中でも重なり合うものがあると感じました

鑑賞者の内面世界へ訴えかける作品の力強さは、安定しない現代において重要な役割を果たすのではないでしょうか。

「さばかれえぬ私へ」の会期は
2023年3月18日(土)-6月18日(日)観覧料は無料です。


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