就活に打ちのめされそうな学生へ、いち採用責任者より
もう何度目かもわからない面接。自分を奮い立たせるのも限界が近かった。あらゆる形の不合格通知のたび、世界中から否定されている気持ちになった。
友達からの内定の通知。いつも期待を込めて待っていてくれるお母さん。嬉しいはずのことも、どうしようもなく辛かった。
・・・今回、やっと。初めて最終面接まで進んだ。今度こそ、上手くいった気がする。迷いも吹っ切れて、堂々と話せた。面接官の反応も好感触だった。
「お母さん、もしかして上手くいったかも」
「美味しいご飯つくって待ってるからね」
弾む足取りで、ケーキを買って家に向かった。母と乾杯する15分後を想像しながら、鍵を取り出そうとしたとき、スマホに通知が。
「残念ながら…」
あまりに救いがないと放送中止になった、という東京ガスのCMがYouTubeで300万再生の注目を集めていました。
コメント欄を見てみると、「これが現実」「リアルすぎる」「就活あるある」といった声が多く、肯定的に見ている人でも これがふつう だと感じている様子が伺えます。
もちろん、起きていることとしては描かれている通りですが、この動画で切り取られているのは、面接や採用のあくまで一側面、一つの見方に過ぎません。
採用の責任者として、年間200~300人近い学生と面接し、「不合格」「不採用」を決定する立場にいる身としてこの動画を見ていると、なんともいたたまれない…。
「世界中から否定された」ように感じた人がいるのなら、それは違うんだと全力で伝えに行きたいですし、せめて、不合格とは単に「マッチングの不成立」に過ぎないということ、面接は決して得る/失うの2択ではないことを、僕がどう考え面接を行なっているかと共に伝えたい。
今回はそういうきっかけから、noteに書いてみることにしました。
不合格=マッチングの不成立
便利だから使ってしまうものの、僕自身は合格/不合格という言葉はあまり好きではありません。
そもそも、面接は人と人が今後付き合っていけるかどうかを決める、いわばお見合いみたいなもの。明確な審査基準があって、これ以上なら合格というものではないです。
会社があなたを断るとしたら、「私と付き合ったらこの人の可能性をつぶしてしまうんじゃないか」「価値観が合わないから、一緒にいるのは難しいかもしれない」といった理由で断っているのです。
決して、あなたの人格やこれまでの人生が無価値だと告げているわけではありません。
だいいち、たかだか1時間話したくらいで、人の二十数年を理解できるものではありません。あくまで暫定的な判断に過ぎない。
だったらもっと時間をかけろ、と言われればその通りです。
しかし、採用がもっとも重要な経営課題であったとしても、会社の中での他の課題とのトレードオフがあるので無限に時間を増やすことは難しい。ほとんどの会社は割けるだけの時間をすでに割いているはずです。
僕ら人事にできるのは、限られた時間の中で、できる限り目の前の求職者の本質に迫ろうとすることです。
最善、最適、最速と自信を持って言えるか
「御社に入社したい」というプロポーズを受けた時、どういう場合に、今後ともよろしくお願いしますと返事をするか。
次の2つの条件が満たされたときです。
まず、相手が目指すものに向かうため、欲しいものを手に入れるために、ここで働くことが「最善、最適、最速の方法です」と自信をもって言える場合です。
こちらにその自信がなければ、お断りします。
もう1つは、僕らのなりたい姿とそうなるために必要な力を示し、それを相手が持っていると確信できた場合です。
面接の場において、会社と面接者は取引相手として対等です。
両者の希望が上手くマッチすれば、やったねと握手を交わせる。
ただし、めでたく両者の確信のもとマッチングが成立しても、その後100%の人が納得のいく形で働き続けられるとは限りません。
これまで数え切れないくらい面接を行ってきて、かつ、ミスマッチをとにかくなくそうと努力をしてきた僕でさえも、1割5分ほどの入社がのちに最適ではなかったと感じる印象です。割合は異なるにせよ、これはおそらく、どこの会社でも同じでしょう。
良くも悪くも人や組織は変わるものであり、採用する側が限られた時間に下した判断は完璧というにはほど遠いからです。
ギフトを届ける場としての面接を
ここまでをまとめると、
・採用は、客観的ではなく、主観混じりの双方の判断で決まるもの。
不合格とは、単にマッチングの不成立である。
・全員にとって完ぺきなマッチングは難しい。
と言えます。2つ目については、情けない話かもしれませんが、今後も変わらないことと想定しています。
ではその上で、どうすれば、一人でも多くの人にとって面接が人を不幸にする場ではなくなるか?
現在の僕はこう考えています。
面接が、人をふるいにかける場としてではなく、また単にマッチングの場というのみでもなく、ギフトを届ける場とすることによって可能になるのではないか。
社会のどこかにある彼/彼女にとって最適な仕事へ向かっていけるよう、何か一つ武器となる手土産を渡すような採用がしたいのです。
面接で意識していること
僕自身は実際に、次の5つのことを意識し、面接しています。
1つ目、素で話せる雰囲気をつくる。表情や口調、服装はもちろん、「小学校の時、何に熱中していましたか?何が好きでしたか?」など、過去の話しやすいことから聞くなど、さまざまに工夫しています。
2つ目、できる限り時間をとって、時間の限り質問に答える。
面接は1時間を想定しつつ、前後の予定をなるべく空けておくようにしています。可能な限り質問に答えたいし、たくさん質問したいからです(ちなみに、最長で2時間半の面接を経験しています)。
また、面接した方が後日、TwitterのDMなどで質問をしてくれた時は、しっかり読み、考え返信するようにしています。
3つ目、就活や将来のことについての悩み事を聞き出し、必要なら人や会社を紹介し、不安を解消する。背中を押す。
クルーズでの採用には至らなくても、面接で「君に合っていると思う」と紹介した企業さんに合格しましたとお礼メールをいただいた時、「よかったぁ」とじーんとします。ちなみに、十何年も前に就活の相談に乗った相手と今でも飲みに行くこともあります。
4つ目、本質的なことを伝える。
うちに入社することはなくても、入社しても合わない可能性があったとしても、普遍的なこと・本質的なことを伝えられればその人の武器になると考えています。渡すならより息の長いギフトをという姿勢。
5つ目、お互いの欲しいものが手に入るかどうかで決める。
これは、先程の章で述べた通りです。僕らには欲しいものが手に入るとしても、相手にとってそうでないなら潔く退きます。
最後に~一人事として、一社会人として思うこと~
ここまで、僕の考えや実践していることをお伝えしてきました。
採用する側だって心をもった人間です。
自分の娘や息子くらいの若者の未来を左右してしまう立場にいながら、自分の属す集団のことしか考えていない人なんて、そう多いものではありません。そういう意味でいうと冒頭の動画は脚色が過ぎたかもしれません。
多くの場合、表現の仕方に上手い下手はあるでしょうけど、それぞれが信念を持って、それぞれの良心に従って面接に臨み、「採用/不採用」を言い渡しているはず。
きっとほとんどの場合、採用する側には、制約や抱えるものはありつつも、あなたの力になりたいと本気で考えています。なので、たとえば不採用後にDMで相談文を送ったら親身に相談に乗ってくれる方も少なくないと考えていいと思いますよ。
そんなわけなので、就活生に対して至らないところもある社会かもしれないけど、世の中への希望は捨てないでほしいな…というのが僕の勝手な希望です。僕ら人事は良いマッチングと良いギフトを届けるため人事を尽くしますのでなにとぞ!
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