特別になろうとすることを辞めてみる
特集が「理想の本棚。」だったので迷わず手に取った、BRUTUSのNo.999(2024/1/1/15合併号)。その中に、ファッションブランド〈A.P.C〉の創業者であるジャン・トゥイトゥさんのインタビュー記事を見つけました。
あまりファッションに詳しくない私でも知っているブランドですが、アーかエーかはいまだにちょっと自信がなく、「ァ(ェ)ーペーセー」と口篭ってしまうくらいの距離感です。余談ですが、A.P.Cは「Atelier de Production et de Creation」のイニシャルで、日本語に訳すと「生産と創造の工房」だというのもこの記事を読んで知ったのですが、長く愛されるブランドの威厳を感じますね。
という前置きはさておき、たまたま読んだこのインタビュー記事で、胸に刺さった言葉がありました。「36年という長い間にわたって自身のブランドを続けてこられた秘訣はどこにあったのでしょうか?」というインタビュアーからの質問に対して、ジャン氏がいくつかの事例を挟みながら回答した内容から、抜粋するとこのような感じです。
つまり、ジャン氏の答えとしては
(A.P.Cというブランドをここまで成長させられた秘訣は)
特別になろうとしないこと、特別なことをしないこと であり、
誰もやらないことをやること であり、
その仕事の全てにはスピリットがあり説明ができるんだよ
ということ。
私が唸ったのは、「特別なことをすること」と「誰もやらないことをやること」って、イコールじゃないんだ、ということです。
あれ?
特別なこと=誰もやらないことをやること、じゃないんだ。
でも誰もやらないことをやることで、A.P.Cは特別な存在になっている。
じゃあ、誰もやらないことをやるって、なんなんだ?と考えるわけですが、私の固い頭では、やっぱり他人にはできないような特別なことをしなければというループに陥ってしまうのでした。
そんな無限(に見えた)ループを抜け出す光が見えたのが、一昨日ランチを食べた、友人が営むカレー屋でした。たまたま私が座ったカウンター席の目の前に置いてあった『なんだこれ!?のつくりかた』という一冊の本。その本の中では、「未知と出会った時に抱く感覚”なんだこれ!?”」の作り方として、デュシャンに始まりChim↑Pomまで、国内外・時代、様々なアーティスト(本の中ではパイセンと呼ばれている)の作品を紹介しながら
・誰もやってないことをやってみる
・やりにくい方法でやってみる
・ひっくり返してみる
・大きさを変えてみる
など、10個の「なんだこれ!?」の作り方が書いてあります。
10個の「なんだこれ!?」の作り方の中には、「普通のことをわざわざやってみる」とか「同じことをものすごく繰り返す」とかもありました。「同じことをものすごく繰り返す」では、先生に間違えた漢字を何回も書きなさいって言われて用紙一枚分書くのは普通だけど、運動場一面分書いたら、それって「なんだこれ!?」でしょ?という例えもあって、ほんとだ…と大人ながらにときめいてしまいました。
ああ、そうか。
ただ続けるってことも、他人がやらないくらい続ければ、特別になる。
特別になろうとして特別に“なれる”んじゃなくて、とにかく誰もやらないくらい続けてみたり、誰もやらないくらい意味のないことをあえてやってみたり、そうした結果、勝手に特別(と思われる存在)に“なる”のか。
とんだひねくれ野郎の私は、ジャン氏のインタビューに感銘を受けつつも「ゆうても、ジャン氏もA.P.Cも特別じゃん?」と思ってしまっていたのですが、そもそもジャン氏は、「特別になろうとしないこと」「特別なことをしないこと」を大事にしているのであって、「特別」であることを否定はしていません。目的を「特別になること」におかずに、全ての仕事に自分たちのスピリットを込めながら、生産と創造を続けてきたからこそ、ファンから愛される”特別な”存在になれた、ということなのかもしれません。
ちょいと理屈っぽい話になりましたが、見栄っ張りの頭でっかちになりがちな自分には、とても良い示唆をくれた、ジャン氏と『なんだこれ!?のつくりかた』でした。
特別になろうとせず、誰もやらないことをやることには臆せず、そして全てに自分なりのスピリットを込めてやっていくぞ。おー!