塩見恵介さん『隣の駅が見える駅』感想
2022年3月25日ツイート分の転記です。
~心地よい繰り返しの効果~
いつも句集を読む時、特に気に入った句には付箋を付けていくのですが、この句集を読み終えて付箋の句をまとめたら、同じ言葉が繰り返されている句がたくさんあることに気づきました。
チューリップ兄より優し兄の友
お兄さんのお友達に遊んでもらって楽しかったのでしょう。兄姉の友達って大人に見えるんでしょうね。そしてそんな優しい友達がいるお兄さんもきっと優しい人なのでしょう。
兄という存在がいて、さらに妹(弟)の様に可愛かてくれるその友達がいる。兄を用いた繰り返しをすることで、二人の愛情を感じられ幸福感のある句になっていると思います。
チューリップという季語には淡い初恋感もあるように感じます。
世を捨ても世に捨てられもせずさくら
無常を感じさせるさくら。
「捨ても」「捨てられも」に手放すことも、見放されることしない「世」に宙ぶらりんである、自分という存在の中途半端さ、孤独を感じます。花の盛りの美しい光景だからこそ、その寂しさが一層引き立つのでしょう。
花筏別れて別の花筏
どっちを向いても桜、の時期がよく表されている句です。
「朝桜」でも「花吹雪」でもなく、「花筏」であることで、水の流れや煌めきも感じますね。
よく見ると「別れて」と「別」でこちらも字の反復となっています。それにより、あちこちに移動している様子が伺えます。乗り継いで行く感がありますね。
犬動画見て猫動画見て日永
犬動画と猫動画、似たようなジャンルですね。
あまり大きな変化はないけれど、ちょっとずつ画面がうつり変わっていく所に時間の流れを感じます。それが二つの「動画」が入ることの効果でしょう。
最初は見たい動画があって検索したけれど、オススメの動画がどんどん出てきてクリックしていたら、いつの間にか夕方、そんな穏やかな日永を感じます。
躑躅咲く今日のコンパに今日呼ばれ
人数合わせに突然声をかけられたのでしょう。
今日を繰り返すことで、その唐突さが強調されます。
少しドキドキしながら、コンパに臨んでいるのでしょう。
躑躅の日常性と華やかさが句に合っています。
大声の友も大声風薫る
風薫るは爽やかでよく通る声を連想させます。
体育会系で人の良さそうな青年二人を想像しました。
二回目の「大声」が一回目の「大声」に応えるように出てきます。会話している様子が浮かんでくるような効果が繰り返すことにより出てきますね。
燕来る隣の駅が見える駅
おそらく句集のタイトルになっているこの句にも「駅」という言葉の繰り返しがあります。
駅って同じようでちょっとずつ違うのが面白いですよね。この駅の特徴は隣の駅が見えるって距離感なんですね。「燕来る」からは地域に密着しているような素朴さを感じます。
まとめ
強調だったり、別の人や物の存在を表していたり、繰り返しには色んな効果があることが分かります。
十七音しかない中で同じ言葉を繰り返すことは危険な行為でもありますが、塩見さんの俳句ではこれを効果的に使い成功させています。
一回目の言葉と似ているけれど違う意味を持ち、字数を無駄にするどころか返って意味に広がりを持たせています。
またリズムがよいし、言葉を噛み締めることができます。
『隣の駅が見える駅』には、こんな繰り返しの句がまだまだあります。是非探してみてください。