Elizabeth エリザベス
1999年公開作品、124分。
第71回米アカデミー メイクアップ賞受賞
英国アカデミー主演女優賞受賞
監督 シェカール・カプール
出演 ケイト・ブランシェット
ジョセフ・ファインズ
ジェフリー・ラッシュ 他
2022年9月19日、Amazonプライムにて鑑賞。この「エリザベス」という映画は、エリザベス1世の話。時は16世紀で、とにかく血生臭い時代。映画の冒頭、プロテスタントの信者3人が、まるで魔女狩りのように、「異端」として生きたまま火あぶりになって処刑されるシーンから始まります。
映画に描かれてはいない、イングランドと英国国教会の歴史について話しましょう。
1517年にマルティン・ルターによる宗教改革で、プロテスタントが生まれました。16世紀はこれまでローマ・カトリックが中心だったイングランドにも、プロテスタントが起こってきた時代。イギリスでカトリックよりもプロテスタントに傾く理由の一つとして、エリザベス1世の父、ヘンリー8世の離婚問題のこじれがありました。
カトリックで離婚は御法度。しかし、いつまでも世継ぎが生まれないことを不満に思ったヘンリー8世は、1人目の妻キャサリン妃と離婚をしたいと、大司教に何度も持ちかけました(1532年)。そしてキャサリンの侍女だったアン・ブーリンを愛人にしてしまいました。このアンがエリザベスの母親です。
繰り返し大司教に離婚の許しを乞うものの、お許しは出ません。この頃離婚の代わりに、貴族の間では初めから「婚姻無効」だったとしてもらい、別れるパターンが多かったそうです。しかし、結局国王であるヘンリー8世は、法的に大司教より国王の決定権の方が勝るように変えてしまい、おまけに大司教の人事も好きにして、国王の言うことをなんでも聞く大司教に変更してしまいました(1533年)。
こうしてヘンリー8世は、まんまとキャサリンとの結婚は「無効」として、アンと再婚してしまいました。ローマ・カトリック側は怒って、ヘンリー8世を破門にしました。これが決定打となって、1534年ヘンリー8世は「国王至上法」を公布して、教会のトップに君臨しました。修道院も解散され、その財産も全て国王のものとされてしまいました。
ヘンリー8世の死後、息子のエドワード6世が著しくプロテスタント寄りにして統治し、その次のメアリー1世(ヘンリー8世とキャサリン妃の娘)の時にはまたローマ・カトリック寄りになって教皇の権利が復活。映画の冒頭、プロテスタント信者が処刑されていたシーンは、この頃のことです。
メアリー1世は異母妹のエリザベス1世を捕らえて塔に幽閉します。メアリーはカトリック、エリザベスはプロテスタントだったからです。そしてエリザベスの母アンは、自分の母キャサリンを追い払って王妃の座を手に入れた憎い女だったからですが、最後までエリザベス処刑執行の書類には署名せず病死します。
メアリー側の人間がたくさんいる中で、結局は王位継承順通りにエリザベス1世が即位します。しかしカトリック信者の貴族たちや教会関係者にはよく思われず、暗殺されそうになりながらも、エリザベス1世はカトリックとプロテスタントの中間の形をとった「英国国教会」を議会で通します。それが今に続く形となっています。日本では「聖公会」と呼ばれています。立教などがそうですね。儀礼的にはカトリックっぽい感じです。
スコットランドと戦ったり、スペインやフランスとの政略結婚の話や、政敵をでっちあげた話で処刑したり、信じている人間が裏切ったり、もうイギリス王室のドロドロした歴史が凄かったです。
エリザベス1世の母アン・ブーリンは、エリザベスが2歳の時に姦通罪で処刑されているし(冤罪とも言われている)、父ヘンリー8世は結局6回も結婚してそのほかに愛人もいたし…。エリザベス1世は母が処刑された後、非嫡子とされ王位継承権を剥奪されましたが、結局はのちに女王となり44年間も君臨しました。イタリア語、ギリシャ語、フランス語、ラテン語を使いこなし翻訳までこなしていたそうで、この人も猛烈な人でした。
日本史も昔の権力争いはかなり血生臭い話ばかりですが、イギリス王室の話はもっと調べてみたくなりましたね。
映画の中の世界はまさに16世紀。出演者たちの衣装やヘアが素晴らしく、さぞやお金もかかったんだろうなと。「国と結婚する」と宣言し、髪の毛を短く切って顔を白塗り。なんだか出家します、的な感じで終わるんだけど、「バージン・クイーン」と呼ばれたエリザベス1世の、揺るがない強い意志に圧倒されました。
この映画を見てその夜には、エリザベス2世の国葬中継をTVで見ました。ウエストミンスター寺院で葬儀を行い、ウィンザー城に運ばれ、セント・ジョージ教会で埋葬の儀。英国民に愛されていましたね。在位70年はすごいこと。ちなみに、エリザベス1世のお墓はウエストミンスター寺院にあるそうです。
2人のエリザベス、2人ともすごい人生でした。どうぞ安らかに。R.I.P.
★映画のストーリーと史実との相違点が実はたくさんあります。この映画はフィクションとして、よりドラマチックに描かれています。例えばスコットランドの施政者だったメアリー・ギースは、暗殺されたのではなく病死ですし、エリザベス1世はもっと色々恋を楽しんでいたようだし、顔を白く塗っていたのは、バージンを表すためではなく、水疱瘡の跡を隠すためだったなどなど。詳しくはWikipediaをどうぞ。
★エリザベス1世の母、アン・ブーリンとその家族については、Amazonプライムで視聴できる「ブーリン家の姉妹」(原題: The Other Boleyn Girl)を是非ご覧ください。こちらもすごい話です。