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"090-3の悲劇"ーーエリート番号がまさかの地獄に!?
「どうしてそんなに番号にこだわるの?」
大地はスマホを握りしめ、ため息をついた。高校に入学したばかりの彼には、母・由紀子のこだわりがどうにも理解できなかった。
「だって、これよ?090-3よ!」
由紀子は、ひと昔前の“エリート番号”をつかむことに一抹の誇りを感じていた。
彼女にとって、90年代の携帯番号には一種のステータスがあったのだ。
だが、日常は思わぬ方向へ転がり始めた。
ある日、大地のスマホが鳴った。知らない番号からの着信だ。電話に出ると、年配の男性の声が耳に飛び込んでくる。
「鈴木さん?久しぶりだねぇ、元気かい?」
大地は困惑した。「エリート番号」が、こんな形で思いもよらないトラブルを呼び込むとは、彼も由紀子も想像していなかった。
母に相談すると、由紀子は鼻で笑い、「そのうち収まるわよ」と言ったが、それがすべての始まりだった。
翌日もそのまた次の日も、昼夜を問わず知らない番号からの着信が続く。電話に出ると、「鈴木さん?」と名前を呼ぶ声が次々と聞こえてくる。
老人たちは誰もが「鈴木さん」に会いたがっているらしい。電話の相手はややこしいことに認知症らしき人もいて、何度も同じ話を繰り返し、説明しても通じない。
そんなある夜、彼のスマホに再び電話が鳴る。ため息をつきながら応じると、向こうから鋭い声が聞こえた。
「支払いが滞ってるんだ、わかってるだろうな?」
借金の取り立てだった。
大地の顔が青ざめた。「…母さん、どうなってんだよ!」部屋に駆け込んで母に訴えると、由紀子はただ「何かの間違いよ」と言い、笑い飛ばしたが、彼女も内心の不安を隠せなかった。
由紀子は翌日、携帯会社に問い合わせた。そして真相が明らかになる。「090-3」番号は、長年一人の持ち主によって使用され、最近亡くなった高齢者のものだったのだ。
その高齢者は借金を抱えていたらしく、亡くなった今もなお、家族にも死が伝わっておらず、親族や友人、借金取りが「鈴木さん」を求めて次々と電話をかけてきていたのだ。
「お母さんのエリート番号のせいで、僕、もう限界だよ…!」とうとう大地がそう言い出し、由紀子も決心した。
「…そうね、大地。090-3なんていう“ステータス”にこだわって、あなたにこんな負担を背負わせるなんてね…」
由紀子は携帯会社に番号変更を依頼した。新しい番号を手に入れたその夜、大地は安堵の表情を浮かべて母にこう告げた。
「やっぱり、クリーンな番号が一番だよ」
由紀子は笑いながら肩をすくめた。「090-3の“エリート感”に惹かれてしまったけど、結果的に過去の重荷を背負い込んでただけだったわね」と、悔しさと安堵が入り混じる顔でつぶやいた。
こうして、由紀子の“エリート番号”へのこだわりは幕を閉じた。どんなに立派な数字も、時代の流れとともに色褪せていく。古い番号には、過去の重荷が積み重なっているものなのだ。
それに気づいた由紀子は、未来の真新しい番号が意味するものの方に、少しだけ期待を感じていた。
私のテーマは「50代で得たリアルな人生ストーリ」を1日1話発信。ビジネスや人生に役立つヒントや気づきをお届けします。迷いや悩みが生まれた時は、一緒に地図を広げ、進むべき道を探していきましょう!
@morizo_23