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顧客への熱・後編

前回、「顧客への熱・前編」では、組織に蔓延し始めていた「顧客への関心の希薄化」について書かせてもらいました。

相談主のスタートアップA社は、とある業界に根深く残る問題に果敢に立ち向かい、そして見事に突破口を突破して邁進中、視界は良好、狙い通りの資金調達も完了、まさに急激な成長を謳歌していたさなかでの相談でした。

今回、「顧客への熱・後編」では、顧客に対する誠実な興味を失わないことの大事さをあらためて実感したA社が、どうやって顧客解像度を上げ、顧客に向き合っていくのかについてのやり取りをお届けします。

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守屋:顧客への熱を失わない大事さは分かってもらえたとして、でも、ただやみくもに顧客を知ろうとしても、うまくいかないよね?

A社代表:仮説をもってあたれ、ってことでしょうか?

守屋:そう、その通り。うちの参画者(A社の社員)にも個性があるように、顧客にも個性があるよね? でもって、我々は商売をしているわけだから、「商売センスのある分け方」で、うまく顧客を把握する必要がある。うちは、どんなふうに分けてるの?

A社マーケティング部長:マーケとしては、施策別に結果を追ってはいるのですが、顧客別には見ていなくて…

守屋:なるほど。それでホントにイイと思ってる? マーケ施策を実行することにあまりに偏っているというか、目標をクリアするためにあらゆる手を打ちまくるので精一杯みたいなことになってない? ノルマ達成に向けて全力、ってことだとは思うんだけど、それ、長期的にはヤバそうな気が、じつはしてたりするんじゃないのかな?

A社マーケティング部長:…。

守屋:ヤバそうな気が、「している」ならOK。今から挽回しよう。「してない」なら考えを少し変えてもらった方がイイかも。マーケの作業請負を専門としている外部の機能会社なら分かるんだけど、我々はそうじゃないよね? マーケ施策を実行することも仕事かも知れないけど、さらに上位の概念として、「顧客に価値を発揮すること」が仕事だよね?

A社代表:すみません、そこは、私が中心となって頑張るところでした。

守屋:そしたら、いま一度、みなで顧客感度を高めることに注力してみようか。まずは、ざっくりとした顧客把握から。うちのターゲットは、全国に何人くらいいるの?

A社マーケティング部長:全国で10,000社ほどです。

守屋:そっか、B2Bだったね。総数で10,000社かぁ。「10,000」という数字をどう捉えるかだけど、間違っても、「潤沢。統計的、確率論で扱う規模」とか思わないでね。「少数。個別対応、しらみつぶしでイケるレベル」って思ってね。B2Bだから、今年も来年も再来年も、10,000のまま。今の我が国の状況からしたら、減ることはあっても増えることは無い、固定的で貴重な10,000だからね。ちなみに、10,000社のうち顧客化出来たのは何社?

A社マーケティング部長:5%くらいでしょうか。

守屋:5%じゃなくて500社ね。確率論じゃなくて、顔の見える感じで捉えるクセをつけてね。そしたら10,000社は、まず500社と9,500社に分かれるよね。その先はどうなってる? たとえば、500社は、「すでに離脱してしまった企業」と「現在も継続している企業」とに分けられるよね。そして離脱企業も、「サービスの完成度合いが低かった初期段階で離脱してしまった企業」と「サービスの完成度合いが高まった直近の顧客なのに離脱してしまった企業」とかに分けることが出来るよね? 他にも、「我々のミスが原因で離脱してしまった」、「競合の無料キャンペーンでひっくり返されてしまった」、「原因不明。何も把握できていない」とかとか、いろいろ分類できるよね?

これまで接点のなかった9,500社だって、何パターンかに分けられるはず。たとえば、企業の規模や立地、社歴とか。意味があるかは怪しいけど、とにかく簡単に機械的に分類できる。もちろん、そんなカネの匂いのしない分け方より、カネの匂いのする分け方の方が秀逸。たとえば、我々からの発信に何かしらの反応があったかとか、最近の出店状況や採用情報、他にも資金調達情報などから我々のサービスへの関心が推測されるエトセトラとか、類似サービス会社のお客様事例に載っていた会社とか、載っていた会社の競合各社とか。いくらでも考えられるはず

もちろん、「500社」の分類がイイ感じに出来ているなら、500社の分類に合わせて9,500社を分けるのだってアリ。「既顧客に似ている未顧客は既顧客候補」だからね。

A社マーケティング部長:なるほど。細かく分けていくということですね。

守屋:そう。ただ、分けりゃいいってもんでもない。10,000社を10,000通りに分けても意味はないでしょ。ww カネの匂いのする、商売センスを感じる、うまい分け方でないと。大事なことは、分けるのが目的じゃなくて、アクションすることが目的。500社には、離脱することなく太客に成長してもらいたい。だから、「太客ファネル」を狙い通りに駆け上っているか、逆に離脱の危険は無いか、そんな感じのことが動的に見えたら尚いい。9,500社も同じ。まずは購買してもらいたいわけだから、「購買ファネル」を想定確率通りに進んでいるか、滞留や拒絶に至ってしまった先に復活の働きかけをしたらどうなったか、そんな感じのことが動的に見えた方がイイ。

A社代表:分類の仕方はいく通りも考えられますね。どう分けていくかが悩ましいですね。

守屋:全部盛り込もうとするとね。くれぐれもアタマデッカチにならないでね。理屈をこねくり回して、やたら理論的に精緻に分類しても、分類屋になるだけだから。シンプルでないと、運用できなくて悪化と混乱を招くだけだからね。

A社マーケティング部長:これまで、守屋さんが実際にやってきた事例とかを教えてもらうことって、可能でしょうか?

守屋:もちろん。たとえば、昔、ミスミ時代に、動物病院向けカタログ通販事業を立ち上げたんだよね。当時、国内に8,000軒あった動物病院のうち6,000軒から注文をもらえ、しかも年間250軒の新規開業動物病院に至っては240軒が注文をくれるという、顧客化率96%にまで、6年で成長したんだ。ちなみに体制は、立上げ当初は2人だけ、6年目でも総勢6人っていう極少だった。

だから、その6人は、徹底的にやることを絞ったんだ。何に絞ったのかというと、8,000軒の動物病院を「8つに分類」して、ひたすら追いかけることに絞ったんだ。

8つの分類は、こんな感じ

当時使っていた、顧客把握のための、顧客分類表。

まずは、縦軸に動物病院の施設規模、横軸に開業年数をとった「2 × 2のマトリックス」を作る。そこに8,000軒の動物病院をプロット。そうすると、開業したばかりなのに大きな動物病院が①、開業したばかりだから小さな動物病院が②、歴史も規模もある業界の有力動物病院が③、長年経営をされている地域の動物病院が④となる。

そして、①~④のそれぞれを「HとL」に2つに分ける。H=ミスミからたくさん買ってくれている(売上シェア高/High)、L=ミスミからあまり買ってくれていない(売上シェア低/Low)。これで「8つ」になる。

そうすると、たとえば「①H」の顧客は、開業したばかりなのに大きな動物病院で、且つミスミからたくさん買ってくれている。つまり、ミスミからすると「LTVが最大の顧客」ということになる。超重要顧客。だから、もし「①H」が「①L」に落ちるようなことがあれば一大事。その動きを月次で徹底的に追い、万が一の時はたとえその動物病院が地方の遠方の立地だったとしても、「通販」なのに「実際に顧客のもとを訪れ」、何があったのかをインタビューして改善につなげていく努力を、惜しみなくしていたんだ。

そうした努力を、「①H」だけでなく8顧客すべてを追い、各セグメントごとに方針を定めたうえで、好ましい動きや好ましくない動きを特定、その顧客の受注履歴やコンタクト履歴を確認したうえで訪問し、問題点を詳らかにすることに全集中した。

極限まで、「顧客解像度を上げて顧客対応をしていく」ということに集中させたから、創業から6年、総勢6名で、全国6,000軒/8,000軒、新規240軒/250軒、年商20億円を超えることが出来たんだよね。(詳細は、「顧客の解像度を上げる方法」参照。)

A社マーケティング部長:顧客訪問して、何を聞けばいいのでしょうか?

守屋:何を聞くって、そりゃ、聞きたいことを聞きに行くんだよ。ww 注目した顧客の解像度をあげたら、自ずと聞きたいことが山ほど出るでしょ。アンケートじゃないんだから、聞くことが決まっていてそれを機械的に聞くんじゃなくて、どうしたらその顧客に我々の価値を感じてもらえるかの仮説を立てたら、いくらでも聞きたいことが出てきちゃうんじゃない?

たとえば、売上規模が分かっているわけだから、使用するそれぞれの医療材料の量も大まかに把握できるでしょ。なのに、実際の購買量が大きくズレていたら、競合に注文が流れているな、って分かるでしょ。注射を打つには、注射針と注射筒を合わせて買わなければいけないはずなのに、どちらか片方しか買っていない場合も、誰かに注文が流れているわけだよね。そんな感じで、取り扱っていた5,000品に渡る医療材料に目を光らせ、「訪問前に仮説を立て、その仮説をもって訪問」したということ。

こうした予習を丁寧にして、それぞれの顧客の解像度を徹底的に高めて訪問すると、「よく、うちのことを考えてくれているな!」と感心してもらえ、我々の至らない点、他社の優れている点などを教えてくれるんだよ。「うわべの話し」じゃなくて、「本音の核心」をね。

A社代表:確かに、それだけ理解をした状態で話を聞きにきてくれたら感動します。

守屋:ちなみに、顧客1軒の状態がありありと見えてきたとして、それが特異なハズレ値の1軒なんてことは少なくて、多くの場合、個客の問題解決は全体の問題解決にイコールなわけね。だから遠方への訪問でも、その訪問は費用対効果が合っているんだよね。

A社代表:なるほど。ぐうの音も出ないです…。

守屋:いや、だから最初にも言ったけど、こういった問題に、ちゃんと目が向いている時点で半分解決したようなもの。そして今、どうやって向き合っていこうか考え始めたわけだから、あとはひたすら真っ向向き合えばいいだけ。大丈夫、イケる!

A社代表、A社マーケティング部長:はい、真っ向向き合ってみますっ!

なお、後日談。

A社なのですが、マーケティング部長が力戦奮闘、すっかり、「顧客解像度」という言葉が社内定着したそうです。そして、「素晴らしいっ!」って思ったのは、マーケティング部長が、マーケやセールス、カスタマーサポートのみんなが、ちゃんと顧客に向き合えるように「社内業務全体の断捨離と再構築」を提案し、リードしてくれたそうです。相談を受けた際の会話では、いろいろ不安だったのですがww、守屋の心配は無用でした。立派にリーダーシップを発揮してくれました。本件一連のなかで、じつはそれが一番うれしかったかも知れません

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顧客への熱・前編」「顧客への熱・後編」をお届けさせていただきました。今回は、「A社」の話として書かせていただきましたが、じつは、A社は「特定個社ではなく頻出多社」だったりします。ある1社との会話ではなく、たびたび話している平均的な会話だったりする、ということです。

顧客に対する誠実な興味を希薄化させない。ぜひ、顧客への熱を、組織のカルチャーにっ!

新規事業家の、未来をつくるメモ
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