自作小説の夜に関する部分の抜粋
しかし夜である。夜――私は夜に惹かれる。昼間の世界は私には眩しすぎた。すべてが、存在するまま、露骨に、太陽のもとで私に働きかける。その一方的な刺激を私は痛々しい攻撃として受け取った。昼間に立ち働く人々も同じだった。人々は私を攻撃して、そのことには気づかずに、平気な顔をして生きていた。彼らの一言二言に私は傷ついて、心がまったく働かなくなるというのに、人々は寧ろそのお陰で活き活きとしているように見えた。その反対に、夜は人々が眠る時間だ。彼らが私を攻撃して来る心配がない。物も闇に隠されて見えなくなる。そこには私が見たいもの、存在してほしいものを見ることができ、いらないものは忘れてしまうことができた。それは私自身もそうだった。私の弱い肉体も夜の世界には存在しなかった。私の輪郭は闇に溶けてしまった。そして残るもの、肉体を滅却しても、そこに残るもの、それこそが私だと思った。夜の間は、私は本当の私でいられる。より活き活きと、夜の闇を泳ぎ回った。そこで私は何にでもなれた。早熟の天才にも、肉体的強者にも、絶世の美少年にも、あまつさえ早世する英雄にも。それを可能にしたものこそ、私と呼ぶべきものであると後に知ることになる。それは、「精神」とも「感受性」とも呼ばれた。