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かつての友の行方

もうずっと長いこと忘れていた昔の男友達の夢を見た。

高校生の時のバイト先にいた彼は、学年は1つ下なのに、私よりも色んな辛い経験をしてきた子で、馬鹿みたいに振る舞いながらもいつもその目の奥には悲しみや苦しみを湛えていた。

年下なのに、初対面の時からなぜか私にだけ馴れ馴れしく下の名前を呼び捨てにして、偉そうに仕事の指示を出してきて、ふざけ合ってじゃれ合って…生意気な弟ができたみたいに楽しかった。

彼が問題のある家庭で育ってきてまともな生活が送れていないことも、高校に行ってないことも、バイト先でたくさん耳に入った。

シンナーで溶けた歯。
まだ携帯電話の無い時代に家に固定電話が無く、近所のおばあちゃんの家が連絡先で、かけたら呼びに行ってくれていつも5分は待たされること。
まだ15歳の男の子が盗んだ車で生活していたこと。

みんな彼とは距離を置いてた。

盗んだ車で生活していたことがバレて捕まり、バイトを辞めた彼とは、その後も時々連絡をとっていた。

ピザ屋でバイトを始めた時は、店が暇な時間帯にピザを持ってきてくれた。

うちに来て、私の母が作った晩ごはんを私の狭い3畳の部屋で何度か一緒に食べたこともあった。「美味いな、お前の母ちゃんのごはん」とニコニコしていた。
家庭料理に飢えていたのであろうとあとになって気づいた。

うちに来ても、お互いそれぞれ漫画を読むくらいで、特に深い話をすることもなくて、何も気を遣わずに過ごせる子だった。

数ヶ月に1回は「元気か?」とお互いに連絡していた仲だった。

ある日久しぶりに連絡があった時、仕事中に骨折して県外の病院に入院していると電話があって、すぐに友達の年上彼氏にお願いして遠い病院まで車に乗せてもらってお見舞いに行った。彼の大好物のプリンを持って。
また地元に戻ってきたら一緒にごはんを食べようと約束して帰った。

数年後、妊娠して結婚した私のところに結婚祝いを持って行きたいと連絡が来た。
やって来た彼は初めて見るスーツ姿だった。
改まって手土産とお祝い金を渡してくれた。
今は県外に住んでいて、なかなか会えないからお返しもいらないから、と。

電話してきてすぐの昼頃に来た彼に、何も食材が無いからとカップ麺を出し、2人で笑っていいとも!を見ながら床に寝転がり、2人ともウトウトと寝てしまっていた。

たまたま私の父がやって来て、彼が来ていることを聞くと、旦那不在の時に男を家に上げるなんて…というようなことをブツブツ言われた。

ああそんな風に見られるものなのか。
来てるのは「彼」で、性別を超えた友だから、なんら問題はないのに…とぼんやり考えていた。

昼寝から目覚めて、近所のスーパーへ買い物に出た。彼が「ついて行く」と言う。
スーパーで買い物が終わったら店の前でバイバイかな、と考えながら2人で家を出て何気ない話ばかりしながらスーパーへ行った。

自然な流れで袋詰めを手伝い、当たり前のように荷物を持ってくれた。
「お前妊娠してるんやから重いもの持ったらあかん」と。ずいぶん大人になったなぁと嬉しかった。

家まで買ったものを運んでくれた。
夕方過ぎに旦那が帰って来る頃に「もうそろそろ」と帰宅を促した。

旦那も同じところで働いていたから、もちろん彼のことは知っているし、彼と私が友達であることも知っている。
だけど、数時間前の父の言葉がよぎったのだ。

彼は晩ごはんを食べてから帰りたいと言った。
買い物をしている時にはそんな素振りを見せなかったから、旦那と私の分の魚2切れしか買っていなかった。
「なんで買い物してる時に言わんのー?今度なんか好きなもん作ったげるから、また今度にしよ!今日はもう帰り」と、一緒にお茶を飲んだあと、彼を見送った。

「またな」と手を振って、名残惜しそうに彼は去った。

それから彼とは1度も会っていないし、連絡も取っていない。

私も彼も19歳の時の話だ。

数年後、共通の友達に彼は今どうしてるか誰か知らないかと尋ねたけれど、誰も知らなかった。
そりゃそうだ。たくさんいたバイト仲間の中で、彼を気にかけてずっと連絡を取っていたのは私だけだったのだから。


何年かに1度、彼のことを思い出す。

元気ならいいな、と。
あの時、晩ごはんを食べさせればよかった、と。


最近はもうあまり思い出すこともなくなっていたのだけど、今日、彼の夢を見て、とても不思議な夢を見て、目が覚めた。

他人が聞いたらトンデモ話に聞こえるような内容の夢は、私の中でとてもとても腑に落ちた。


もう会うことはないだろう。
あの不幸な生い立ちだった少年には、もう2度と。

夢の中で見た、彼の少し離れた垂れ目を、胸の中で思い出す。

彼とは16歳から19歳までの3年の間の短い付き合いだったのに、なぜか不思議な距離感の仲だった意味を夢の中で教えてもらったような気がした。

もう2度と会えなくても、もう寂しいと思わなくてもいいと彼は教えてくれた。

そんな夢だった。

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