コーヒー屋になるまでの話。⑨
名前をつける。心に火が灯る。
「森とコーヒー。」という店名が決まったのは、2017年6月5日だった。
それまで漠然としていたものの輪郭がはっきりとした瞬間だった。
その日から「森とコーヒー。」という存在に火が灯り、今日も私の心の中で同じ熱量で燃え続けている。
思い描いているものに名前をつける。そのパワーは偉大だ。
名前の決め方。
「どうしてこの名前にしたんですか。」とよく聞かれる。
「森の中にお店を作って、そして名前は物語の書き出しみたいにしたかったんです。」と答えることが多い。その通りなのだが、ここでは詳細について詳しく書こうと思う。
まず先に決まっていたのは「お店のメッセージ性」だ。コーヒーを通して何を伝えたいのかは決まっていた。
「非日常、日常からの隔離、自然との融合」が大きなキーワードだった。
悲しいくらいなんの個性もない。こんなありがちなビジョンしか持っていなかった。
お店を構える場所は「森」がいいと思っていた。海は好きだけどちょっと目指す世界観が違うような気がした。森の中にポツンとあるような、他の世界から隔離された場所を作りたかった。
そしてこの頃は本をたくさんお店に置きたいと思っていた。森の中にある本が溢れるお店。「本の森」を作りたいと考えていた。
「森、コーヒー、本」みたいなキーワードが頭をぐるぐるしている時に、衝撃的な名前のお店に出会った。
「女とみそ汁」である。福岡にある飲食店さんの名前だ。こちらのお店に行ったことはないのだが、その名前が爆裂よかった。刺さった。名前だけで世界観が伝わってくる。なんて素晴らしい名前なんだ。
こちらにインスパイアされて、私のお店の名前は「森とコーヒー。」になった。マルをつけたのは先述した通り物語の書き出しっぽくしたかったからだ。
日常から隔離された場所、日々の煩わしさを忘れたい時に逃げ込める場所、そんな休憩場所のようなものを「森」という言葉に変えた。「森」はあくまで象徴的な言葉だ。実際森に行かなくたっていい。うちのコーヒーを飲んでもらうことで、「時には休んでもいいんだ」というメッセージを感じてもらいたい。そうやって時にはひとり休む時間や場所が心の中にあればいいと願っている。
名前が決まると道が見える。
「森とコーヒー。」という名前が決まってからは色々な迷いがなくなった。どんな店にするか、どんなコンセプトがそこにあるのか。急に見えた気がした。
何か決断を迫られた時は「森とコーヒー。にはこれは絶対必要」とか「森とコーヒー。にはそんなもの必要ない」とか瞬時に決められるようになった。
「森とコーヒー。」という夢に火が灯った。その消えない炎の光が私をいつも導いてくれる。
この先、この頭の中で出来上がりすぎてしまったお店のビジョンのおかげで場所探しに苦戦することになる。
しかしながらここからお店を始めるまでは早かった。
これから何かしたいことがある人は、その構想にぜひ名前をつけてあげてほしい。
そうしたら急にそれが生き物みたいに成長していく。