コーヒー屋になるまでの話。⑩
そもそもなぜ「コーヒー屋」だったのか。
私たちがなぜ、コーヒー屋と言う業種を選んだのかの話をしたいと思う。
はじめに話しておきたいのは、私はコーヒー屋さんに憧れていて長年コーヒー屋になることを夢見てきたわけでは無い。誰かをがっかりさせる発言かもしれないが正直に伝えたいと思う。
一番好きなことは仕事にならなかった。
私は動物が大好きで、獣医さんになりたかったり、ドッグトレーナーになりたかったり、20代後半までイルカのいる施設で働く夢を捨て切れなかった。でもこの大好きなことを仕事にはできなかった。どうしてだろう。幻想をそのままにしたかったのかもしれない。なんとなく好きで終わってしまった。
焙煎を担当するうちの夫も、かつては消防士を目指していた。出会ってすぐの頃は格闘技に興味がありそうだったし、いまだに寿司屋になりたいとか言っている。
仕事を通してどうなりたいかを優先した。
仕事を変えることで何を目指したか。それは意外と素朴なことである。
①夫と働きたかった・・・結婚して思ったことは、せっかく家族になったのに一緒にいる時間が少ないということだ。「下手したら自分の課長の方が今日長く一緒にいたんじゃ無いか?」と感じたとき、当たり前の日常が異常に感じた。私が異常なのかもしれないがなんか違うと思った。
②もし子供が生まれたら一緒に育てたかった・・・共働きだった場合、どちらかが(多分私が)一日の大半を子供と2人で過ごすのだと思ったら、そんなことできないと思った。自営業にすれば2人で育てられると思った。
③ありがとうを感じられる仕事がしたかった・・・かつて大きな組織で働いていたので、お客様からの「ありがとう」も自分が言う「ありがとう」もなんだか空々しかった。人に貢献していたり、影響を与えていたりする実感が欲しかった。
④なんでも自分で決めたかった・・・組織で働いていると上の決定に従うのが当たり前になる。それでうまくいったとき、一番嬉しいのはトップの決定権を持つ人間だ。私は前の仕事をしていて心底嬉しくて心の底からガッツポーズをした事が無かった。このままでは嫌だと感じていた。
⑤休みは自分で決めたかった・・・前の章で少し書いたが、私はいつでも体調が万全では無い。働く時間は自分で決めたかった。それにいつ休暇をとって遊びに行くのか自分で決めたかったことは言うまでもない。
何ができるかを考えた。
上記を踏まえて自分たちに何ができるかを考えた。④と⑤がある以上、もう組織で雇われるのは違うと思った。
2人でできる超小規模事業。
私はカフェによく入り浸っていたので、「カフェをやろう」と言うことになった。夫も飲食に興味がある様子だった。
その後考え直して「コーヒー豆の小売業」に落ち着いた。
カフェをやめた理由はカフェは忙しいので2人じゃできないということだ。当初はカフェで働いた事が無かったのでわからなかったが、飲食店はとても忙しい。仕入れに仕込みに、お客様へのサービス。メニューも定期的に変えたり。とても2人では無理だ。カフェをやるというビジョンの先に、ゆくゆくは自家焙煎珈琲店になり、コーヒー豆の売り上げが立つようになり、豆の販売だけでやっていくという目標を持っていた。なので最初から一番目指していた場所にチャレンジすることにした。
業種を選ぶ上で気にしなかったこと。
転職するときや異業種にチャレンジするとき、みんなはどうやってその業界を選んでいるのだろう。
ビジネス論なんかで大事っぽいと言われていることは私は気にしなかった。
●好きを仕事にするということにこだわらない・・・私はなりたい暮らしを実現するためにできそうなことの中から仕事を選んだのだ。好きなことで生きていくというスタンスでは無い。
●伸びそうな業界かどうかということは気にしない・・・どの業界が伸びるかなんて誰にもわからない。ましてや私たちみたいな小規模事業者がそんなことで仕事を選ぶべきでは無い。世の中の流れが変わったってそう簡単に方向転換できないのだ。条件が良さそうで最初選んでしまうと、その後も条件の一番いい場所を選び続けないとそのプランは頓挫してしまう。
●競争相手が多いかどうかということは気にしない・・・どの業種だって先輩がいる。私がやろうとしていることなんて、すでに誰かの二番煎じなのだと諦めた。お店の場所を選ぶときも、その場所に競合店が多いかは気にしなかった。同じ地域に何店コーヒー屋があったらNGなのか、同じ地域とは半径何キロメートルのことなのか、そういった判断基準を決めずに市場調査しても意味がないからだ。さすがにコーヒー屋の真横にお店を作ったりはしない。その辺はフィーリングで決めるんだから、せっかくなら好きな街でやろうと決めた。
一通り読むと、なんだか夢のない理由で私たちはコーヒー屋になった。
でも今の毎日はワクワクが溢れている。仕事を含めた暮らし満足度も高い。
自分たちの店に投資したもの(時間や労力やお金)が大きくなればなるほど、愛情も情熱も湧いてくるものだ。
仕事を通してどうなりたいですか。その仕事に長く愛着を持てそうですか。
好きなことを仕事にできているかどうかよりも、私はこれが大事なんじゃないかと今思う。