一生で「持てるモノ」は限られている。 「持てる時間」が限られているのと同様という話。
友人が亡くなったとの報があった。54歳。大腸ガンだったそうです。自分は今36歳。人生70年だとしても折り返し地点にまで来ました。最近、モノや情報がうるさく感じられて仕方がないんですよ。
集めた本やレコード。死ぬまでに一体どれくらい聴けるでしょうか。自分は別にコレクターではないし「読めればいい」「聴ければいい」派。今後、時代の潮流は「所有」から「共有(シェア)」「アクセス」へと変わっていくのは火を見るより明らか。残り少ない余生(つっても計算上はまだ35年はあるわけだが)、自分にとって、本当に大事なものだけに囲まれてくらしたいと切に願うようになりました。
ヤギヤスオさんのTwitterを見ていると、切なくなってくるんですよ......。迫りくる死、その足音を聞きながら、寂しい、けれどもその寂しさを味わうことの豊かさに気づいているような。
若い頃はいい。体力がある。時間がある。「胃袋」がある。だから、なんでも片っ端から吸収できちゃうし、モノや情報がたくさんあっても、それを整理できちゃう。
若者の弱点は「歴史がない」ことだけど、歴史がないってことは「積み重ねたもの=所有しているもの」が年寄りと比べて、相対的に少ないってことだから、整理すべき「モノ」も「情報」も少ないってことです。
けれども年齢を重ねると「持っている」ものが増えてくるのに反比例して、「持てる」キャパシティーがどんどん減っていく。だから、モノや情報を持つのが疲れて疲れて仕方がないんですね。
情報だって管理コストがかかる
「本もレコードも処分しようかな」とつぶやくと、友人や知人は「データ化」を勧めてきます。「本は裁断して自炊しちゃえばいい。部屋はスッキリするし、読みたいときに取り出せるから便利だよ」。そうなのかもしれません。でも、そんなことを言う友人を見ると「まだまだ若いな」と思ってしまいます。
いくらデータ化しようが、それを見直す時間がない。それが「老い」です。データ化している時間で一冊でも多くの本を読んだほうがいいかもしれないですし、何より、「データ化」しても、今度はその管理に時間が取られます。
CDも一気に処分しようとして、iTunes Matchというサービスを試してみたことがあります。パソコンの中にある音楽データをクラウド上とマッチングして保存してくれるサービスです。何度も途中でマッチングにエラーが起き、とにかくストレスがたまりました。結局、まだすべてのCDがマッチできていません。
他方でApple Musicという月額の音楽サービスに加入しました。月1000円ほど払えば、クラウド上にある音源にアクセスして聴き放題。試しに様々なマイナーアーティストの名前を入れてみましたが、相当マニアックなものまで聴けることに愕然としました。わざわざデータを「所有」して「管理」する必要もなかったのです。
モノも情報もそれを持つだけで「管理コスト」が発生する点はまったく違いはありません。「データ化する」というと聞こえはいいですが、これはコピー、複製してるということですから、オリジナルとコピーとで管理対象が二倍になってしまいます。すべてをデータ化してモノを捨てられればいいですけどね。おそらく、そうはならないんだろうな、ってちょっとやっただけでわかりました。
モノも情報も「仲間を呼ぶ」
モノも情報も「持つ」「所有する」だけで管理コストが発生します。それだけでなく、モノも情報も「仲間を呼」ぼうとします。
わかりやすいのがiPhoneです。iPhoneを持つとiPhoneケースが欲しくなる。各種アクセサリ類が欲しくなる。画面保護フィルムが欲しくなる。フィルムを吹くクロスが欲しくなるし、iPhoneから買い物サイトを見ていたら、欲しいものがたくさん出てきます。
情報だって同じです。「アート界隈を追ってたい」「批評系の話題が気になる」。気になり調べて掘れば掘るほど、ますます気になることが出てきますし、「保存」したくなることが出てきます。
特に情報は基本「保存できる量」に制限がありませんから、いくらでも「所有」したくなってしまう。増殖力においてはモノと遜色がない、というか、モノ以上です。
情報はモノよりも管理コストがかかる
しかもモノよりも情報のほうが管理が大変です。
今、一番管理、処分に頭を悩ませているのが、自宅の本棚、レコード棚、ではなく、Dropbox(オンラインストレージ)のフォルダ管理です。
Dropboxは年間1TBの容量を契約しています。1TBはほぼ無制限だろ、ということで、撮影した写真や、仕事のファイル、音声データによるログなどを片っ端から保存しているのですが、この整理整頓をしようとすると、精神的な疲弊がすさまじく、思わず発狂してしまいそうです。
Dropboxは1TBですが、手元のMacBook Proのストレージ容量は120GB。ということはDropboxとMacBookを完全に同期はできません。それどころか、一部「カメラアップロード」だけで80GBを超えるため、同期ができない。同期ができないのにどうやって整理するの? とにかくボトルネックが細すぎて、その管理の苦痛はモノ以上なのです。
ちょっと気がはやいかもしれませんが、死に支度は今から、という気持ちになっています。「断捨離」なんて仏教言葉でごまかしていますが、人がモノを捨てたい。うるさく感じる。それは死が近づいてきている証拠でしょう。仏教用語が「死」について考えさせないための方便として機能している。ここにはそんな皮肉もあります。
35年かけて自分が手元にためこんできたもの。それをあと35年かけて捨てていく。その捨て方に、その人の美しさも醜さも、価値観も生きてきた意味も、すべてが表れるのでしょう。
それでも捨て切れなかったものと一緒に最後は灰になる。All that you can't leave Behind.
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