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スイス漫遊記8~さよならジュネーヴ、こんにちはチューリッヒ~
「悲しみとかよう、辛いこととかよう。全部チーズフォンデュみたいに美味しく覆って食べちまいてえよなあ」
Goodbye Geneva
月日が経つのは早いもので、ジュネーヴにさよならを告げる日が来た。朝はのんびりと朝食ビュッフェを取りながら日記を書き、軽く仕事をした後で11時15分発の汽車に乗るため、スーツケースをころころと転がしてコルナヴァン駅に着いた。
ほんとうに出会ったものに別れはこない。そんな詩を谷川俊太郎が書いていたことを思い出す。誰にとっても、本当の出会いというものはあるはずで、そこで出会った人や思い出というものは、決して別れることがなく心に残り続ける。
ジュネーヴという街の、素朴だが歴史ある街を去ることに寂しさが無いと言えば嘘になる。噴き上がる噴水を見れなくなることや、美しいレマン湖を見れなくなることは少し寂しかった。だが、サマセット・モームがジュネーヴを後にしたように、進む者は進み続ける。ひとところに留まろうと思う日が来るまでは、私はずっと旅人なのだ。
一言に旅人と言っても、誰にでも理想の旅人像というものがあるだろう。私はただ気ままに、さすらように生きる旅人に憧れている。貯金が無いから人から金を募って旅をするような人も過去に見かけたが、そういう人は私の理想とはかけ離れていたから、少しヤキモキはしたけれど、自分は自分なりに旅人として生きて行けば良いのだと思った。
考えてみると、私は今、旅人でありたい気分なのだと思う。それが短期のものではなく、一年間という間だけはぶらぶらと放浪しようと考えているのである。そうして、また再び働きたいと思うときがきたら働けば良い。それだけの資格や能力はあるという自信があるから、こうして旅人としてヨーロッパを旅することができている。
振り返って、旅の始まりとしてジュネーヴを選んだこと、スイスという国を選んだことは私にとって宿命だったのかもしれない。本当に何の気なしにオーストラリアにいるときに見つけた情報をきっかけに、つながりができて、フットワークの軽さも幸いして、これ以上ないほど充実した生活を送ることができた。
一つの要因はおむすびチャンネル(https://ch-omusubi.com/) に所属していたことが大きい。かつての勢いは失われてしまったかもしれないが、それでも会員同士の深い繋がりや、ぬくもりというものに多くの面で支えられている。これも、本当に何の気なしに「じっちゃまが入るなら入るか」くらいの気持ちで入り、オフ会参加後に「僕もウクレレやギター弾けるから、配信者やってみようかな」と思い立って始めてみたら、あれよあれよと色んな人に見ていただいて、今はすっかりスーパーアクティブ配信者なるものになって、不定期ではあるが配信をするに至っている。
たった一歩踏み出すだけで、これほどに大勢の人との繋がりができるということに驚いた。私の予想を超えて多くの人が声をかけてくれて温かく迎えてくれた。おむすびチャンネルの感謝については、これからも至る所で発信していくことになるだろう。
さて、そんなおむすびチャンネルや寄付の結果によって、私のジュネーヴ生活は忘れられない時間になった。改めて、この旅について情報をくださったなっぱさん。そしてご家族の皆様に感謝を申し上げる。私の人生初ヨーロッパ旅は、最高の経験になりました。今後、方々でこの経験を発信していきます。
ありがとう、さよならジュネーヴ。また来るよ。
Hello Zurich
汽車に揺られながら、3時間ほどでチューリッヒに到着した。ジュネーヴにいる時は主にフランス語を良く耳にしていたのだが、チューリッヒに来てからは一気にドイツ語を耳にすることが増えた。やはりドイツがすぐ隣にあるだけあって、ドイツからチューリッヒに訪れている人達も多くいるのだろう。
チューリッヒ中央駅から30分ほど歩いてホテルへ向かったのだが、あいにくの雨模様で、じっくりと街を観光している暇はなかった。美しい建物はたくさんあったのだが、それは天気の良い晴れたときに見に行こうと思った。
Oldtown Hostel Otterという場所に着き、チェックインを済ませて部屋に入った。腹が減っていたので、途中で見かけたALDIに買い物に出かけた。普通は14フランはするようなサラダボウルが5フランで売られていたため、今回のチューリッヒ滞在では、このサラダボウルをメインに食事をしようと考えた。オーストラリア生活で中性脂肪がとんでもないことになっているので、サラダをとにかく食べて中性脂肪を下げなければならない。贅沢のし過ぎは体に毒なのである。
飯を食べて仮眠をしていると、部屋の中で会話をしている声が聞こえた。一人はニュージーランド出身の女性で、もう一人は日本人だった。
私も会話に加わってシドニーの思い出を話したり、さっそくジュネーブで経験した一週間のことを告げた。すると二人はとても驚いて、写真を見るたびに「That's stunning!!!」と感動した様子だった。ニュージーランド出身の人は、兄がスイス人と結婚したため結婚式に参加するために来たとのことだった。日本人の方は旅行中で、グリンランドというところに行くとのことだった。チューリッヒでオススメの場所を聞くと、リンデンホフの丘という場所が愛の不時着というドラマのロケ地になっているから良いとのことだった。
夜になってすっかり雨は上がっていたため、私はリンデンホフの丘へと行ってみた。実にロマンチックなところであり、一人で来るにはムードが無かったが、その美しい景色に見惚れた。ジュネーヴではあまり夜景を見ることはなかったが、チューリッヒの夜景はロマンチックで、リンデンホフの丘ではカップルが夜景を眺めながら座していた。
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旅をするといつも、「次はパートナーを連れてきたいな」と思うのだが、あいにく叶った試しがない。贅沢な欲だと思うが、機会に恵まれたらチューリッヒにパートナーを連れてきたいなと思った次第である。
宿に戻ってシャワーを浴びて、ゆっくりとベッドの中で眠りについた。チューリヒの初日は、そのような形で始まったのだった。