埋立地にカミサマは宿るのか? 千葉県立美術館 海風展
千葉県、特にJR京葉線 千葉みなと駅周辺の埋立地に思い入れはあるだろうか?
正直に言うと都心育ちの自分には全く無い。舞浜のTDRも20年近く行っていない。そんな思い入れのない埋立地に存在する千葉県立美術館 開館50周年記念展に、老舗アートブログの管理人takさんから招待いただき、アーティスト交えてのガイドツアーに参加してきました。
今回の展覧会のタイトルはこちら 『五十嵐靖晃 海風』
爽やかなタイトルだけど、一体何を展示しているのか???
美術館で集合し、アーティストの五十嵐靖晃氏と共に炎天下の屋外へ。
そう、この展覧会は館内だけで完結しない回遊型の展覧会なのです。
最初の目的地は千葉ポートタワー(125m)。
普段は公開されていないタワーの1Fに入ると、古びた錨が浮いている不思議な作品が登場。
こちらのタイトルは『船霊様』(ふなだまさま)。
江戸時代、千葉港を行き交っていた帆船の守り神をイメージした展示。
正確に言うと、船霊様は錨でなくその下にちょこんと鎮座しているサイコロの方。昔は船の帆柱の中にサイコロなどを祀って守り神にしていたそうです。
そして錨の上はどうなっているか頭をあげてみると。。。
高い。。。125mの最上階からロープ一本で吊るされている。振り子のように。
そして見事なタワーの鉄骨組み。エヴァの庵野監督が気に入りそうなロケーションだな(骨折お見舞い申し上げます)。
工場やコンビナートが密集している現代の千葉を象徴するメカニカルなタワーの中に、海運業が盛んだった過去の千葉のスピリチュアルな展示が共鳴して、とても面白い。
実現しなかったけれども、五十嵐氏はタワーそのものを船の帆柱に見立てた、大規模なインスタレーションも企画していました。
125mの塔に巨大な帆を張るという大胆なアイデア。規模は違えど江戸時代にはこんな帆を張った船が海を駆け巡っていたことが偲ばれます。
次の展示物は千葉ポートパークの小高い丘の上に。それにしても太陽が熱い。
てるてる坊主のような鯉、のぼりのような形の『風の子』。
公園に風が吹き抜けると、生きているように風の中を泳ぎます。
風の子たちの設置予定は800個。付近の小学生達がワークショップで制作して、その子達の名前の代わりに出席番号が書かれていました(個人情報保護)。
千葉版の風の又三郎といったところ。
作品の周囲には、池に飛び込んで遊ぶ子供や、野球をしている若者達も。
シン・エヴァの主題歌そのままの眩しい午後の中、千葉みなとを歩き回ります。
最後の屋外展示はハーバーに面して設置された『そらあみ』。カラフルな色で編まれた網が空に面して張られています。
この作品も地元のボランティアクルーたちが共同で編んで制作したもの。みる角度、時間によって様々な表情を見せる「あみ」。
ちなみに夕方の風景はこんな感じ。
際立っている色が昼と異なります。
作品を設置したところ、近くのマンションに住んでいる人が毎日網が絡まっていないかチェックしてくれるそう。作品が地域に住む人たちのコミュニケーションを促進するいい一例。
五十嵐氏の作品は予備知識がなければ素通りしてしまうかもしれないシンプルなもの。けれども作品のターゲット(この言い方が正しいのか?)は、この地域に住んでいる人たち。
制作ワークショップに参加したり、作品の様子を気にかけたり、そうすることで地域に対する愛着(思い出とも言っていい)が芽生えてくるのかも。
昔の人は、新たに開拓した土地に神社や寺を建てて、名のある寺社から神仏を"勧請"(お裾分け)してもらい、新たな土地の守り神としてきた。稲荷や八幡など、同じ名前の神社が日本中にあるのはそのため。しかし数十年前まで海だった埋立地は、昔からの伝統や文化はまだ育っていない。
五十嵐氏がやっているのは、令和時代に土地に新しいカミサマ(=文化)を勧請してコミュニティを活性化することなのだなと、考えが至った次第。
屋外展示でここまで長く書き連ねてしまったので、館内の展示は次の投稿で。
開館50周年記念特別展PROJECT UMINOUE「五十嵐靖晃 海風」
会期:2024年7月13日(土)~9月8日(日)
会場:千葉県立美術館(千葉市中央区中央港1-10-1)+千葉みなとエリア
開館時間:午前9時~午後4時30分(金・土曜日及び休前日は午後7時30分まで)(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし、7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)
入場料:一般1,000円、高大生はアンケート回答で500円→無料、中学生以下、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方と介護者1名は無料(午後4時30分以降の入場者は一般 800円)
ウェブサイト:https://chiba-umikaze.com