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このアートは千年続く? 千葉県立美術館 五十嵐靖晃 海風展

“千葉なんて所詮東京のコバンザメだろ?”

『小説版 翔んで埼玉』

このように『翔んで埼玉』でメタクソにディスられた千葉県だが、東京には無い上質な美術館が多数存在している事も事実。

古城のような外観にレンブラントやモダンアートを所蔵しているDIC川村美術館、伊藤若冲をはじめ上質な江戸絵画コレクションを持つ千葉市立美術館。

東京駅から1時間近くかかり、駅から離れている館が多いので、気軽に行けるわけでは無いが、その点を差し引いてでも行きたくなる魅力的な展覧会を企画することが多い。

そして今回招待された『五十嵐靖晃 海風』を開催中の千葉県立美術館の館内へ。
普段の館内はこんな感じ。

千葉県立美術館
千葉県立美術館

柱と一体化した螺旋階段が印象的な空間。50年前の高度経済成長期だからこそ出来た空間を贅沢に使った建築。
設計は大高正人。黒川紀章で有名なメタボリズム建築のグループに属した人物とのこと。

前川國男や丹下健三以外にも、自分の知らない、味のある日本の建築家はたくさんいるな〜。

この特徴的な展示室が海風展の会期中はこうなる。

五十嵐靖晃
五十嵐靖晃 『糸の星』

華やかな空間に変貌。沢山のカラフルな糸玉が天井から吊られ、まるで星空のよう。
タイトルは『糸の星』。一般公募で全国から募集した、一つ一つ巻いた人の個性が見て取れる糸玉たち。

アーティスト五十嵐氏の案内で、展示室奥の特設舞台に上がってみると、

千葉県立美術館

海面だー。
五十嵐氏は20代の頃ヨットで太平洋横断の旅に出たことがあり、船から見た星空の様子がこの作品のインスピレーションになっているとのこと。
うん。どんなリアルなCGやVRよりも、星空を再現しているように感じる。

屋形船でも酔う自分が一生見られない光景を追体験させてくれた五十嵐氏に感謝。ってか、自分が一生見ることの無い光景をアートを通して追体験することこそ、私がアート好きな理由なのかもしれない。

五十嵐氏からもう一つ面白い話が。
この辺りの古い地名を「結城」(ゆうき)と言い、ゆう=綿が採れる地を意味していたらしい。そして世界の綿の分布を調べると、綿が海流に乗って世界中に広まった可能性があるとのこと。
海を渡る植物だから「わた」。なんとシンプルな。
この仮説が証明されたわけでは無いけど、昔の人は科学的な調査を超えてこの植物の本質を言い当てていたのかもしれない。

五十嵐靖晃 『わたぶね』

美術館の中庭に海水を張った船の中に綿花を浮かべて、綿が2ヶ月間の航海に耐えられるのか上記の仮説を実証中。

次の展示室は。。。遠くに絵があるが、黒い糸が張ってあり近づけない。

ギュスターブ・クールベ 『嵐』ほか

海を描いた絵の丁度水平線の高さに、黒い糸が何重にも張り巡らされている。
海が絵の中から現実世界に溢れ出しているかのよう。

五十嵐靖晃 『海織り』

下から見上げると、まるで海の底から空を眺めている気分。
しかし、ほぼ1点の作品を展示するだけ展示室1室を使う五十嵐氏のアイデアと、千葉県立美術館の気前の良さよ。

ここには載せないけど、同じコンセプトでガラリと雰囲気が異なる展示があるので、気になる人はぜひ千葉県立美術館へ。

この展示を見て、新旧のコラボレーションを謳いながら、古い作品を自分の作品の為のデコレーションとしてしか扱わないアーティストが増えている中、五十嵐氏の作品はいい意味で自分の主張が全くない、と申したのはとあるツアー参加者の談。

確かにこの展示を見ていると、五十嵐氏個人の主張というよりも、千葉という土地の記憶や、制作に参加した参加者の想いをディレクションしている。
アートというよりも、イベントのディレクターに五十嵐氏は近いのかなーと思った次第。

展覧会の最後は五十嵐氏のこれまでの足跡のアーカイブ『記憶の海』

五十嵐靖晃 『記憶の海』

前の記事で紹介した『そらあみ』のプロジェクトを日本各地で行ったり、世界中のアーティストと荒ぶる南極海を超えて、南極のアートプロジェクトに参加したり、その土地と人々の結びつきを強める作品を制作しています。
自分が一番の成功例だと思ったのが、福岡県の太宰府天満宮で10年間続くプロジェクト『くすかき』

五十嵐靖晃 『くすかき』

かつて太宰府天満宮にあった千年樟と言われた巨木を偲び、毎年四月に参加者が集まり、境内の樟の葉をかき集めて、大木の形に整える、まるで儀式のようなプロジェクト。
始めた頃は「何やってんのこいつら?」と神社を訪れる人に白い目で見られたそうですが、10回目を迎えた2024年の時点で、オリジナルグッズが出来るほどの定着ぶり。一千年後、五十嵐氏の名前も、やり始めた経緯を忘れられても、天満宮の年間行事の一つとして、地域の人と共に続いて欲しいなと思います。

今回も長々と書き連ねてしまいましたが、結局何が言いたいかというと、子供の夏の思い出作りのピッタリ。そのことを千葉市在住の子持ちの友人にLINEで熱心に勧めたら既読スルーされましたが、千葉県住み、リーズナブルに夏の思い出を作りたい人(もちろんそれ以外の人に)おすすめしたい展覧会です。

前ブログ出てきた『そらあみ』や『風の子』も来館者が制作まだできるそう。

開館50周年記念特別展PROJECT UMINOUE「五十嵐靖晃 海風」
会期:2024年7月13日(土)~9月8日(日)
会場:千葉県立美術館(千葉市中央区中央港1-10-1)+千葉みなとエリア
開館時間:午前9時~午後4時30分(金・土曜日及び休前日は午後7時30分まで)(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし、7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)
入場料:一般1,000円、高大生はアンケート回答で500円→無料、中学生以下、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方と介護者1名は無料(午後4時30分以降の入場者は一般 800円)
ウェブサイト:https://chiba-umikaze.com 

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