なぜ、開業するのか。
これを書いている今は2021年。いうまでもなく、前年から猛威を振るっている新型コロナウイルスにより、世界中のサービス業は大打撃を被っている。そんなご時世である。ふつうに考えるとこの不安定な時期に起業、しかも飲食店など、悪手の極みではないか。
そのように私は、、、考えなかった。
それはひとえに、自分の住む町の持つ力を感じ続けていたから。
前職は観光協会の職員だった。仕事の中で、町の人たちと話す事も多かった。草津町は全産業のうち観光関連の業種が約9割を占める。そのうちのほとんどは中小規模の事業者で、家族経営の宿泊施設や飲食店も多い。つまり、一般的な自治体に比べると、経営者としてのマインドを持っている人の割合がかなり高い。しかも、有名温泉地である事に胡座をかかず、危機感を持って今後の誘客のあり方や人材確保、事業承継の問題に向き合っている。特に、若旦那、若女将と呼ばれる世代の方々の動きが活発だ。
前職の前職がフリーランスの演奏業かつ現場がエンターテイメント性や接客技術の高さで有名なテーマパークだったため、皆さんも興味を持って私の話も聞いて下さった。人前で話す事は特に苦でもないので、従業員向けガイドツアーのガイド役を務めたりもした。また、コロナ禍でイベントやプロモーションが激減する中、ご当地キャラクターであるゆもみちゃんの活動の場をどう展開していくかを試行錯誤し、インスタライブや、オンラインでのグリーティングの企画や進行も担ってきた。
とはいえ、普段の勤務時間の大部分を占めるのは、観光振興などの議論の取りまとめだったり、問い合わせや取材の対応だったり、行政と民間の橋渡しをしたり、イベントの準備をしたりと、いわゆる黒子のお仕事である。事務作業の時間の方が圧倒的に長い。また、多種多様な業務スキルや調整能力が求められる。長く働いている人の仕事を見て舌を巻く事もしばしばだ。でも、
「やっぱり、人前で何か表現している方が楽しいな。」
ある日のインスタライブを終え、家でアーカイブを見ながら一人反省会をしている時、そう思った。同時に、
「今の仕事、向いていないかもしれないな。」
とも思った。
事務仕事もエンターテイナーも、向き不向きははっきり分かれるのだろう。
その時点で、もう5年近く勤めていた。決して長い期間ではないけれど、刹那の決断というほど浅い経験でもないはずだ。
さて、じゃあ何をやってみようかというところで現れたのが「クラゲ」だ。※「元標としてのプロローグ」参照
そうか、カフェだ!
映画「Blues Brothers」で、JBの牧師がシャウトする教会で「そうだ!バンドだ!」と叫んで発光したジョン べルーシの如くである。
温泉街の広がりは外周路を含めてもおよそ2km四方。そこに、100以上の宿泊施設や同じく100以上の飲食店がひしめき合い、お客様を出迎えている。そう、仕事柄そんな数字はポンポンと頭から出てくる。誘客の施策を検討するために継続的に行なっているアンケートから、お客様の飲食店に対するニーズや消費額もある程度わかってきている。この5年で仲良くなった町の人たちとも飲みながら、熱い思いを話してもらったりもした。今はコロナ禍で大変だけど、収束すればお客さんはきっと戻ってくる。草津は一番早いはずだ。みんな、自信を持って口を揃える。
この経験とデータと、何よりも力強くこの町で生きる人たちとの交友関係をフル活用して店をやったら、大変ながらもきっと楽しいし、全く知らない土地でチャレンジするよりもリスクは少ないんじゃないだろうか。
最も身近な人である妻に相談してみたところ、大賛成だった。一緒に頑張ろう、と。
躊躇する事はもうない。2021年に入ってしばらくした頃、上司に退職の意思を伝えた。
ここからは夢や妄想ではない。
何年か先にふと、このnoteを自分で読み返した時に、あぁ、頑張っていたな、と、自分を褒めてあげられるよう、ここからは踏ん張っていきたいな。