第5回公認心理師試験実況中継(問78)
みなさま、こんにちは。
実況中継(その9)を書いている途中で合格発表がありました。
同時に日本心理研修センターから正式回答が発表され、多くの予備校の解答速報でずっと③と言われていた問78の正解が、実は②だったというお話で。
ぼくこの問題の解答は②だと思っていたのでホッとしました。
そのため、実は(その9)はまだ3問くらいしか書いていなかったのですが急遽、問78のみ別枠でアップすることにいたします。
問78
小児科外来で、医師が2日前に階段から転落した乳幼児の診察中に、虐待が疑われる外傷を認めた。医師が更に診察を行う間、乳幼児を連れてきた親の面接を依頼された公認心理師の対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① 親の生育歴を聞く。
② 親の悩みや感情を聞く。
③ 受傷起点の詳細を聞く。
④ 受傷と受診の時間差の理由を聞く。
⑤ 他の家族が受傷に関与している可能性を聞く。
午後いちばんの問題。ここで波に乗れるかどうか。大切だしね。やっちゃうよ?おれ。もうガンガン解いちゃうから!
と思いながらページを開くと、虐待の問題です。
こういう時は脳内診察室を浮かべます。
外来をしていたら「2日前に階段から落ちた」と保護者が連れてきた乳幼児。何歳って書いてないけど、階段から落ちたっていうくらいだから、少なくとも歩けるかな。だとしたら1歳半以降。よちよち歩きの2-3歳くらいの感じをイメージする。
で。よく見ると胸には大小の火傷の跡、太ももの内側には何箇所かアザがある。あれ?耳の後ろにもあるのはアザかな?
これは・・・虐待かもしれない。
と頭に浮かべながら
でも、このアザ、実は血が止まりにくい病気なのかもしれない。
(実際、虐待を疑ったけど実は検査してみたら血友病でした。血小板減少性紫斑病でした。白血病でした。とか普通にあります。決めつけは良くない。)
と思いながら「出血とか怖いですから頭のCT撮りましょうね。あと、太ももの内側、これアザですかね?どうされたんですか?」とか聞きながら、他(耳の後ろとか脇の下とか)にもアザが無いか、あと口や鼻など粘膜にも出血が無いか等をチェックします。
その後「まず点滴して、ついでに採血しますので、保護者の方はちょっとお外のソファで待っててくださいねー」なんて言いつつ、そのアザを物差しでサイズがわかるように写真におさめながらCAPS(院内の虐待チーム)に連絡をします。
で、主治医が採血や点滴の処置をしている間に公認心理師に院内PHSで
「ちょっと保護者の面接できます?」
と頼む場面。
・・・無い。
無いよ。
だって、普段、公認心理師さん(臨床心理士さんも)って、予約がキツキツで、WISCの検査とかカウンセリングとか、新規は2-3か月待ちとか、そういう状況ですよ(それって弊社だけ?)
そういう背景がある中で、脳内診察場面に戻ってきましょう。
(小児科医)
患者さんの診察おわった。虐待怪しいな。うん。
とりあえず方針としては、検査して入院かなぁ
それと並行して緊急CAPS委員会を開いてもらい児童相談所への通告しなきゃ。
って頭に浮かべます。
実際のには
治療が必要なら一時保護委託を受けながら入院継続
治療が必要なければ一時保護所へ
って流れになると思います。たぶん。
で。連絡をうけたCAPSは、緊急招集をかけて委員会を開き、役割分担をします。
▽CAPS委員
→ 主治医へ、必要な検査と入院を依頼。並行して委員会内で「通告する」と決まったら児童相談所に通告。その後、児童相談所の担当者(だいたいもう顔見知り)と連携して、入院させたあと児相の担当者が来院するときの打ち合わせをします。
また、「保護者の説明では考えにくい傷があり、こういうときは法律で児童相談所に連絡しないといけない決まりになってるんです」ってのを保護者に伝えます(これは主治医がする場合もあります)
▽主治医
→ そのまま診療をすすめる。並行して、診察した医師が必要だと思った検査と、CAPS委員会から頼まれた検査(ボーンサーベイとか頭のCTとか眼底検査とか血液凝固能検査とか)を行い、入院の方向でベッド調整を開始。また(虐待を疑っている旨は絶対に悟られないようにしながら)時系列に沿って受傷機転の詳細を確認し、カルテに記載する。
現場ではこのように動きます。
こちとら虐待が専門ですとまでは言わないけど、過去働いたほとんどの職場でCAPS委員だったので、虐待の対応は数えきれないくらいに経験してますしBEAMSは3まで受講してます。
小児科専門医制度がはじまってから約20年、世の中一般の小児科医の何倍もの数の虐待対応を臨床現場でやってきました。この分野に関してボクは、ガチの叩き上げの人間です。
その感覚からすると公認心理師が急性期の虐待対応のメンバーとして入ってくることが想定できないんです。
虐待の対応で公認心理師に役割があるとするならば心理診断なんです(長くなるので後述します)。そして心理診断は急性期(すくなくとも外来診察室)ではありません。
そうは思いながらもいまは試験中
・偶然CAPS委員のメンバーに公認心理師が入っていて
・たまたまその時間に公認心理師が暇だった
と仮定して
公認心理師の役割は何か
って質問だろうと考えても、わからない。
ほんと、そもそもこの問題は何が聴きたいのか?
全然わかんないんです。
午前の要配慮個人情報に続いて、午後もかよ!と思うくらいに絶望ですよ。
さて。
頭を冷静にして考える。
公認心理師に何を求めているのか。
外傷で来る子なんて普通は救急外来です。
・自分が公認心理師だったとしたら、医者が診察している間の面接って、なにを期待されてるんだ?
・じゃあ逆に、自分が小児科医だとして、この場面で公認心理師に何を期待する?
だめだ何も思いつかない。やっぱ現場が想定できないんだよ。
救急外来に専任の公認心理師がいるような病院なら違うのかもしれないけど、そんな病院が日本にどれだけある?
って書きながら
あらためて、山崎先生の言葉が浮かんできました。
あ。これ過去に何度も山崎先生に注意されたやつだ。ハマってたな、いま。
「現場の人間として考えると間違えるんですよね。試験は試験として割り切らなきゃいけない時があるんです。」
ああ。そうだった。
山崎先生ありがとうございます!
そうでした今なら素数だって割り切れます!
さて選択肢。
① 親の生育歴を聞く。
聞くよ。確かに聞く。
入院中の患者さんの保護者に、その背景を知るために3日くらいかけて公認心理師が「じっくり親の生育歴を聞く」なんてのはやる。愛着とか摂食障害の子の親とかトラウマ抱えてる子の親とかが多いかな。お母さん自身がトラウマを抱えてる、とか、心理的逆転がある、なんてケースはざらにあります。
ただ、外来で虐待を疑ってるまさにその場面ではない。バツ。
やっぱある程度の信頼関係ができてから、一時保護じゃ無くて自宅に退院するなんて場合だよね。
② 親の悩みや感情を聞く。
この項目も、小児科医の立場からしたらお願いするし聞いてもらう。ただ自分が診察してる間みたいな急性期に聞くことじゃ無い気がするんだけど「公認心理師が聞く項目」としては正しいと思う。①よりはいい。マルかな?
③ 受傷機転の詳細を聞く。
これも確かに聞くんだけど、聞くのは「外来で診察した医者が」です。
だってそうでしょ?
公認心理師、臨床心理士のの先輩方に聞きたいですが
外来の医者から
「オレちょっと診察してくるので、その間に親御さんに受傷機転の詳細を聞いといてもらえるかな?」
って頼まれたことあります?
ないですよね?
普通ないと思うんだ。だって頼まないもん。
医学と虐待の知識が無いと、受傷機転の詳細は聞けないんです
(なんなら研修中の小児科医だとボクからものすごいダメ出しをされるくらい)
小児科外来で心理師が聞く内容と思えない。バツ。
④ 受傷と受診の時間差の理由を聞く。
これいちばん選んじゃいけないやつです。禁忌肢です。
そんなの聞いたら「このひとは虐待を疑ってるのかな」って思われます。それが一番悪手です。また、時間差の理由を考える時間を与えます。あたまのいい保護者だと、そこで嘘が構築されてゆきます。バツ。
⑤ 他の家族が受傷に関与している可能性を聞く。
これも聞くことはあるんだけど、連れてきた保護者(たとえばお父さん)が、もしも虐待の当事者だった時に、他の家族(たとえばお母さん)が受傷に何か関与してるのか(虐待をしてるのか)って聞いたら
「この病院、虐待疑ってやがるじゃねーか。さっさと連れて帰らないとヤベェ」
ってなるのでそんなこと普通は聞きません。もしも聞くとすれば、兄弟喧嘩とかあった?とかそんな感じ。
実際には連れてきた保護者が自分から言わない限り聞いたりはしない。バツ。
解答②
って書いて、正解見たら③だったんです当初。
プロロゴスも辰巳も。
ちな受験生の選択率はこちら。
①1.1 ②30.7 ③45.7 ④17.3 ⑤5.1
そっかー③だったのかー
でもおれそれは納得いかないなー
って思って。
モヤモヤしてました。
そしたら公式発表の解答は②でした。
難易度★★★
正解② 正答率30.7%
それはそれとして。おおもとに戻るんですけど
そもそもこの問題は何を問いたかったのか。
それは
「虐待の対応の中で、公認心理師の役割は何か」
だったんだと思うんです。
設問がシンプルにそう書いてあったなら「それは心理診断だね ②」って素直に出てくると思うんです。
ですが難易度をあげるために「一般問題なのに事例問題っぽく」したせいで、問題として問いたかったはずのフォーカスがずれてボケちゃってるんです。
結果的にこの問題は受験生も予備校も、関係者を大きく迷わせたのだと感じています。
これ相当悪問ですよ。ほんと。作った人、反省して欲しい。
でも、児童青年精神医学会とか小児精神神経学会でボクと会った時「おう、もりもりくん。あの問題作ったの実はオレなんだけどさ」とか言わないでくださいね、おしっこちびっちゃいますから。
以下、補足です。
子ども虐待については厚労省から
「子ども虐待対応の手引き」(平成25年8月 改訂版)
というのが出されています。
けどこれ300ページオーバーあるので読み切れませんしたぶん日本中の小児科医でも全部ちゃんと読んでる人はそんなにいないはずです。
そのP126-128に「心理診断」というのがあります。以下抜粋。
出題者が②の選択肢に込めた思いはこの、心理診断の
オ 虐待者の病理性
のことだったのかなと考えています。
<2022年8月28日追記>
受傷機転について
「外傷がどんなふうに起きて生じたのか」という意味なのですが、この救命士のページがわかりやすいでしょうか。
シンプルに聞くだけなら誰でも聞けるかもしれませんが、虐待を疑った場合に聞く「詳細な受傷機転」って・・・たぶん多くの人が想像してる「詳細」よりも何倍も詳しいです。「その文章を読むことで、誰もが具体的にかつ誤解なく頭にその情景がリアルに浮かべられる」ようになるまでものすごく詳しく聞きます。
その後、
・聴取した受傷機転
・診察で得た身体所見
に矛盾が無いかを丁寧に検証してゆきます。
<2022年09月22日追記>
公認心理師・臨床心理士の勉強会の遊先生の解説
を読んで、改めて思ったことがあります。
それは
子ども虐待の対応をする際「保護者から話を聞く人」と「怪我等の所見を確認する人」は、できるだけ同じ人が望ましい
ってことです
これボクの中では当たり前のことすぎて意識してなかったのですが、通常の診察は「病歴を聞いてから診察」の順番なのですが、虐待を疑って受傷機転を聞く場合は「身体診察をして、虐待を疑うような気になるところを見つけたあとで、どんな理由でその傷(とかあざとかヤケドとか)が出来たのかを聴取します(これが受傷機転の聴取)」
これ何が言いたいかと言うと、気になる身体所見を見つけた時に、頭の中で「もしかしたらあんなことがあったんじゃないか?」って疑って、それを念頭におきながら受傷機転を確認する必要があるってことです。普通は、身体所見とった人じゃないとどこにどんな傷があるのか把握してませんから、別の人が受傷機転を聞いたりすると、本来聞くべきだった詳細を聞き漏らす恐れがあります。
また、どこにどんな所見があるのかを把握していたとしても「どんな受傷機転だとどんな所見が出現するのか」を知らなければ虐待を見逃す恐れにつながります。明らかに変なのはすぐわかると思うんですが、微妙な所見は沢山ありますしそれを見逃した結果、「次に小児科に来た時は心停止の救急搬送」ってことも稀ではありません。
だから、虐待の専門知識が必要なんです。
そのために、ボク自身も毎年毎年様々な講習会に出かけて、新たな知見を得ているんです。
え。受傷機転も身体所見も学びたいですって?
わーい!仲間になりましょー!
そんな人にはこの本をお勧めします。
定価2万3千円ですがその価値はあります。英語得意なら原書でもいいのかも。