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【1分小説】グリンピースの転がる方へ

お題:居眠り、天津飯、ピクトグラム
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
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「ん?」

 思わず箸を止めた。

「どうしたの」
「いや……」

 平日夜、町中の中華料理屋。
 天津飯の上に乗っていたグリンピースを食べようとしたら、奇妙な模様が浮かんでいたのだ。
 何かに似ているような。何だろう?

「何か入ってたんでしょ、髪の毛とか。店員さん呼ぶわ」
「いや、そういうんじゃなくて」
「駄目よそんなんじゃ。こっちは客なんだから、言うことははっきり言わないと。ちょっと!」

 気の強い母は、入ってもいない髪の毛の話をでっち上げて、若い女性店員に頭を下げさせ、出来立てだった天津飯は僕の前から消えた。

「まったく、失礼しちゃう! こんな嫌な気持ちになったんだからお金なんて払わないわよ!」
「母さん、それは……」
「なあに、私のやり方が間違ってるってわけ? あんた誰に育ててもらったと思ってるの。誰のお金でここまで大きくなれたと思ってるの! 私のやり方が間違ってるっていうなら、いいわよ、大学に行くお金なんか出してあげない」

 思い出した。

 グリンピースに浮かんでいたのは、よく見かけるピクトグラム。非常口に駆け込む人間の記号。ここから外に逃げられる、と示す記号。

 逃げられる?
 ここから?

 受験勉強中に居眠りして見た夢の中でさえ、母から逃げられなかったのに。
 天津飯が取り下げられる前にすかさずテーブルの下に隠したそのグリーンピースは、今僕の手の内にある。

 そこに希望があるなら。
 僕はそのグリーンピースを口に放り飲み込んだ。