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デザイン経営の成功事例と現実のギャップ
この投稿は、デザイン経営宣言におけるデザイン経営の要件と、要件を満たす事例企業のついて論じた部分の要約になります。
デザイン経営を実践するための要件を押さえ、中小企業やBtoB企業でデザイン経営を実践しづらい理由について論じていきます。
戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー
「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑨になります。
●キーワード
デザイン経営/デザイン経営宣言/CDO/MFA/デザイン責任者/クリスチャン・ベイソン/マツダ/キヤノン/ヤマハ発動機/NEC
●デザイン経営の実践要件
デザイン経営宣言では、デザイン経営を実践するための要件を以下2つに整理しています。
経営層(意思決定機関)にデザイン責任者がいること
事業戦略の最上流からデザインが関与していること
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もうこの時点で「そんなこと簡単に言うなよなw」
て感じた方も少なくないと思いますが、いったんスルーします。
●デザイン責任者
確かにCDO(Chief Design Officer)の存在や、MFA(美術学修士)の名称を目にする機会が増えています。
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しかし、ポピュラーであるとまでは言えず、2021年現在の日本では、経営層ではなくマーケティング部門の中にデザイン責任者がいることが多く、業務的意思決定の範疇にデザイン責任者の椅子は置かれていることが多いのではないでしょうか。
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デザイン責任者が経営層にいるかマーケ部門にいるかという組織構造上の差異が競争力の差異になることを指摘しているのがデンマークデザインセンターCEOのクリスチャン・ベイソンでです。
●要件を満たしているケース
①デザイン責任者の座り位置
意思決定機関にデザイン責任者の椅子があるケースをご紹介します。
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マツダでは2016年にブランドスタイル統括部という部門を新しく設置しています。
メディアと販売店を通じて外部に出る魂動デザインの伝播を統制することを試みたわけですが、自動車業界において本体が販売店などマーケ施策に関与することは珍しく強い反発があったらしいです。
しかし、マツダの前田常務執行役員はデザインの意思決定を販売店に任せず、マツダ本体の統括部で意思決定を行うことに強く拘ったそうです。
その結果、マツダの魂動デザインは販売店を巻き込み全社的に統制され、全国どこのお店でも顧客体験を重視したプロモーションが実施されています。
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ヤマハ発動機は、“コンセプト・卓越した技術・デザイン”が経営の根幹であるとの社内の共通意識を醸成し、“デザインは企業の想いそのもの”という考えを加味したうえでデザインの機能を一部内製化(デザイン本部を設置)しています。
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キヤノンは、社内のデザインのスキルセットを集約してシナジーを生むことで産業競争力強化を図るためにデザイン室の統合を行い、名称を総合デザインセンターに変更して会長・社長直轄の組織として位置付けています。
②デザイナーの立ち位置
戦略的に最上流からデザイナーが関与しているケースをご紹介します。
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NECでは企業としてどのようなビジネスに取り組んでいくかという構想の段階からデザイナーが入ります。
デザイナーは顧客インサイトなどのより潜在的な課題の発見・掘り起こしと、それらの課題を解決するデザインを求められ、もはやプロダクトデザインの範疇ではなくなっています。
デザイナーへの要求が非常に高い印象を受けました。
この要求に応えられる高度デザイン人材を確保できていることが分かります。
●まとめ
このようにデザイン経営の要件を満たす企業の事例が多くあることが分かりました。
「う~ん、でもな・・・」と感じられた方も多いのでは?
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先にも述べた通り、デザイン経営が浸透していない現実とその理由がここにあるのではないでしょうか。
デザイン経営の実践企業として事例掲載される殆どの企業が大手企業かBtoC企業なんですね。世の中の殆どが中小企業とBtoB企業なのに、成功事例の殆どが大企業かBtoC企業である違和感たるや半端ないです。
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デザイン経営宣言の成功事例を分類した私の論文では、
中小企業やBtoB企業に浸透しづらい理由を探究し、中小企業やBtoB企業でもデザイン経営を実践できる追加要件を導き出すことが目的になります。
~続く「デザイン経営が中小企業に浸透しづらい理由」~