デザイン経営とイノベーション
この投稿は、デザイン経営の重要ワードであるイノベーションの種類を整頓し、イノベーションとデザイン経営の結節点を導く内容を要約したものです。
戦略デザイナー森田昌希のビジネスレビュー
「中小企業におけるデザイン経営の戦略的重要性と新たな要件」の要約⑤になります。
イノベーションという言葉は何かと便利に解釈されがちで、色んなイノベーションが散乱しています。
デザイン経営の要素であるイノベーションが、どんな種類のイノベーションなのか独自に掘り下げ、デザイン経営に通ずる結節点はどこかを論じています。
論文色を押さえきれず、読みやすく要約しきれませんでした。
実務寄りの情報を得たい方は飛ばしてもらってもOKです。
しかし、イノベーションとデザイン経営の結節点を世界一綺麗に整頓できたと思っています。手前みそですが相当面白い投稿になったと自負しています。
よろしければ最後までお読みください。10分程度で読める内容にまとめています。
●キーワード
デザイン経営/イノベーション/デザイン思考/ジョハリの窓/アート思考/イノベーションのジレンマ/戦略デザイナー
●イノベーション
デザイン経営宣言で、イノベーションは以下のように定義されています。
簡単に言うと、
イノベーションは発明そのものじゃなくて、デザインを介してユーザーが「欲しい!」とか「ステキ!」とか「斬新!」て感じるものに昇華させることです。
さらに、発明を伴う必要はなく、在りモノ同士の組み合わせでも良いんです。また、物理的なモノじゃなくサービスやスキルでもOKなんです。
発明がイノベーションになるには、デザインというプロセスが重要!
だからデザインは現場レベルの「カタチ」だけでなく「考え」から入る(つまり経営的意思決定)ことでイノベーションを生みやすくなるよ!
てな事を言っています。
●イノベーションとデザイン思考
デザイン経営に通じるイノベーションとは、どんな種類のイノベーションなのか。イノベーションに関する先行研究を調べていると、デザイン思考との共通点が多いことが分かりました。
PFドラッカー氏の「イノベーションと企業家精神」では以下のようなことが書かれています。
この考え方自体はYou中心のマーケティングや顧客志向に引っ張られているところが強いが、デザイン思考とイノベーションが遠い存在ではないことが読み取れました。
また、有名なブルーオーシャン戦略ではこんなことが書かれています。
「買い手や自社にとっての価値を高め」はまさにYou&Iで競争を回避するという意味に解釈できます。よりデザイン思考に近いアプローチですね。
この論点では名著が山ほどあるので全てを引用できませんが、
「イノベーションはデザイン思考から生まれる」
と解釈してしまいそうな勢いです。しかし、そう単純なことでもないんです。
●デザイン思考と繋がらないイノベーション①
GE社イメルト氏の有名な事例です。
従来型のイノベーション創発に限界を感じ、研究所を本社から切り離しました。より市場に近い場所で、「観察と仮説と設計(デザイン)と検証」を繰り替えし、大企業でありながらも素早い意思決定でアウトプットが出せるプロジェクトを同時に80も走らせました。
本社主導は、マクロな目線でロジカルな技術発のイノベーションしか生まれない。
現場主導は、ミクロな目線でエモーショナルな市場発のイノベーションを生む。
「観察と仮説とデザインと検証」とはデザイン思考そのもので、
ミクロで市場発によるイノベーションのみがデザイン経営につながるイノベーションであるという結論を導けました。
●デザイン思考と繋がらないイノベーション②
厄介なことに、ユーザーイノベーションっていう種類のイノベーションまで存在していることが分かりました。
ミクロで、ユーザー起点のイノベーションという定義なので、=(イコール)デザイン思考かと思いましたが、分類してくださった先行研究を発見できたのが不幸中の幸いです。
ユーザーイノベーションは顧客志向やマーケティングに限りなく近く、顧客の顕在ニーズにアプローチした結果から生まれたイノベーションを指しています。
デザイン思考は、You&Iなので、Youの顕在ニーズを参考にしません。観察するだけです。(ちなみに後述するアート思考は観察さえしません。)
つまり、これをビジネス版ジョハリの窓で整頓すると以下のようになりました。
盲点ではなく、未知の領域にアプローチするデザイン思考から起きるイノベーションが、デザイン経営の実践に繋がっていきます。
「デザイン思考とデザイン経営は別物である」という論点も多く見かけるのですが、入口と出口が遠いだけで繋がっている事実をイノベーションの先行研究から導きました。
●まとめ
YouじゃなくYou&Iで
マクロじゃなくミクロで
技術発じゃなく市場発で
盲点じゃなく未知の領域で
上記の要件を満たしつつユーザーが認識していないニーズを掘り起こすようなプロセスをデザイン思考と呼びます。
そこにあるニーズと、何かを結合したイノベーションによる成果物(製品、サービス、組織文化)がデザイン経営へのパスであると言えます。
一方で、デザイン思考によるイノベーションは、連続的なイノベーションしか生まないという研究もあります。市場を根底から覆し、経済的な市場価値が最も高いとされる破壊的イノベーションはデザイン思考からは生まれないと言われています。
破壊的イノベーションは容易ではなりません。その理由は、破壊的イノベーションを組織的に創造する(再現性の問題)ことを誰も実践していないからです。
なぜ組織的に創造できないか、それはイノベーションのジレンマという有名な現象ですね。
しかし少し脱線しましたが、ここまでの思考プロセスを整頓すると以下のようになります。
ここまで来るとアート思考にも触れざるを得ません。
次の投稿では、アート思考についての要約します。デザイン思考との違いや、紐づくイノベーションの違いを論じています。
続く。