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ブックレビュー『まんが古事記』ふわこういちろう著 戸矢学監修

子供の頃、私は絵を描くのが大好きだった。裏面の白い新聞の折り込みチラシが私のお絵かき帳である。小学何年生のときだったか、スサノオノミコトがヤマタノオロチと闘う場面を描いたことがある。どんな本だったのか思い出せないのだが、古事記から抜粋された「ヤマタノオロチ退治」の物語を読み、スサノオがオロチをやっつけるシーンが気に入ったのだと思う。

古事記を初めて完読したのは、約8年前のことだった。過去、岩波文庫の書き下し文がどうしても克服できなかったため、たまたま書店で見つけた竹田恒泰さんの現代語版を購入したところ、なんとか通読できたのだ。古事記に心底感激した私は、すぐに「次の古事記」を探した。そのとき偶然タレントのつるの剛士さんがツイッターで紹介していたのを見て、『愛と涙と勇気の神様ものがたり まんが古事記』に出会ったのだ。タイトル通り「マンガ版の古事記」で、著者はイラストレーターのふわこういちろうさん、監修は数々の歴史関連書を出版されている戸矢学先生である。

読み始めると、可愛らしいタッチで描かれた神々が、誌面せましと躍動し、時折ギャグも織り交ぜながら物語が進み、ぐいぐい引き込まれていく。楽しく読み進むうちに、私はいつしか子供の頃に描いたスサノオのオロチ退治の絵を思い出していた。

ふわさんの古事記のすごいところは、簡略化するところはばっさり切り捨てながらも、古事記の重要なポイントはきちんと押さえ、非常にわかりやすく表現されていることだ。個々の神様のキャラクターもユニークで親近感が湧いてくる。また、「登場する神様が祀られている神社名」もあちこちに記され、古事記の神様が「今も」日本中の神社にいらっしゃることがわかるのである。これは大きなポイントだった。例えば、イザナギノミコトの出番がここで終わるという場面では、

「伊邪那岐大御神
 伊弉諾神宮(兵庫)
 多賀大社(滋賀)などで
 祀られています!」

と書き添えられている。この部分を読むことによって、「イザナギが祀られている神社が日本のあちこちにある」のがわかり、「伊弉諾神宮に行ってみたいな」「多賀大社にお詣りに行きたいな」という気持ちが自然に湧いてくるのである。いい方はよくないかもしれないが、これはとてもよく考えられた「仕掛け」ではないかと思う。この仕掛けによって、古事記の神様は決して遠い存在ではなく、今も私たちの身近にいらっしゃるのだという温かい気持ちが湧いてくる。伊勢の神宮に天照大御神(アマテラス)が祀られていることも、知識として知ってはいたものの、改めて強く印象づけられた。

他にもいろいろな要素があるが、私は古事記を読んだことで、私たち日本人のルーツのようなものを感じ、母国への愛情が非常に高まった。また、神話でありながら、自分たちの遠いご先祖様のお話を聞いているようにも思える。もっというと、古事記を完読する前と後では、「脳の構造が根本的に変化した」ようにすら感じられる。もちろん古事記自体にいろいろな解釈があることは承知しているが、奈良時代に編纂されて以来、1,300年以上の時を超えて現代に伝わり、今なお多くの「古事記本」がつくられ、たくさんの日本人に読まれ続けているのは「驚異的な事実」だといわざるを得ない。

私もまだまだ古事記について勉強中で、すべて理解したとは到底いえないが、「一生読み続け、考え続ける書」であることは確定している。「古事記は日本人の『OS(パソコンの基本ソフト)』だ」といった人がいる。だとするならば、日本人としてぜひインストールしておかなければならない。そのためにも、この『まんが古事記』を読まれることをお勧めしたい。読み終わったとき、多くの人が「神社に行きたい!」という衝動にかられるに違いない。

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