SF映画のようなメタバースの世界は原理的に実現不可能なのだろうか?
はじめまして
株式会社Meta Earthの森島健斗と申します。
私自身は普段、@Morishima_KentoというTwitterアカウントでメタバースに関する情報や考察を発信していますが、今回の考察は長文になりそうだったのではじめてnoteを使ってみることにしました。
タイトル名だけ見ると、メタバース悲観論者のように見えてしまいますが、私自身はMeta Earthというメタバースプラットフォームの開発会社の創業者でもあり、長期目線ではメタバースの市場性を楽観的に見ています。
何よりも私はマトリックスやレディプレイヤーワン、ソードアートオンラインのような近未来のメタバースを描いたSF映画、アニメが大好きで出来るだけ自社のプラットフォームでそのような世界観を実現できればと考えています。
ただ今回は僕らが子供の頃から憧れた夢溢れるメタバースの世界観は原理的に不可能な一面もあるのではないか?というお話をします。
睡眠と食事、排泄以外は何でもできるメタバース
Meta Earth社の社内バイブルでもある「レディプレイヤーワン」の冒頭ではこの映画の中のメタバース空間であるオアシスの説明があります。
その一節で「オアシスの中では睡眠と食事以外は何でもできる」という説明があります。
この映画をはじめて見たときの僕は純粋に「僕もこんなオアシスのような巨大メタバースプラットフォームを作ってみたい」と思っていて、常に頭の中での理想でもありました。
しかし、自社の開発の関係で何度も映画を見返しているうちに
「そんなVRChat原住民のようなことを人類の大半がし続けることは経済合理性の観点で原理的に不可能なのではないか?」
と考えるようになりました。
確かに既にオンラインでのリモートワークで収入を得ながら1日の大半をインターネット上で過ごして、生活をしている人はたくさんいます。
とはいえ、これが人類全体になると原理的に持続性がなくなると考えています。
理由は以下の通りです。
メタバース市場へ入金される総額>メタバース市場から出金される総額
どんな経済圏においてもその経済圏Xが持続性を保つためには「経済圏Xへ入金される総額>経済圏Xから出金される総額」の不等式が成立しない限り、徐々に経済圏Xの市場が萎んでいきいずれ経済圏Xの中では生活できない人が現れてきます。
そんな人が現れると一層、経済圏Xの流通総額は小さくなっていきます。
ここからは皆さんのご想像通りの悪循環による衰退が始まります。
現在のメタバース市場(特にゲーム市場)においては上記の不等式は原理的に成立しません。
なぜならどんなメタバースであろうとそのメタバース空間でお金を稼いだユーザーは人間として生きるために食費や家賃、光熱費を払う必要があるからです。
以下のURLは2020年の総務省の家計調査年報であり、ここから日本の総世帯の消費支出の内訳が分かります。https://www.stat.go.jp/data/kakei/2020np/gaikyo/pdf/gk02.pdf
食料:66,678円
住居:18,620円
光熱・水道:18,307円
少なくともマクロに見ると1人あたり食料+住居+光熱・水道費用だけで月に約10万円をメタバース市場から出金する必要があります。
交通・通信:32,432円
教育:6,711円
教養娯楽:21,809円
一方でメタバース市場へ入金される可能性がある支出は多く見積もっても交通・通信や教育、教養娯楽などでそれらを全て足し合わせても1人あたり月に約6万円しかありません。
つまり、現状は日本人全体でマクロに見ると「メタバース市場へ入金される総額<メタバース市場から出金される総額」といった形で不等号が逆転している状態と言えます。
それぞれの項目内訳の増減可能性について
食料
食費は消費者物価指数に代表されるように世の中の物価やインフレのバロメーターとされるぐらいにはなかなか支出割合が減少しないと思っています。
ただ今後は昆虫食や代替肉が普及することで長期的には減少する余地があるかもしれません。
住居
住居に対する支出はマイホーム持ちか賃貸によっても変わりますが、地価自体はマクロに長期的に見ると緩やかに下がる可能性があると思っています。
新型コロナウイルスの流行に伴い、リモートワークが急速に普及したことで今まで都市に住んでいた人が地方に移住し、一部の都市の家賃が減少したという話を耳にする機会も増えました。
その他にも各社がリモートワーク支援のSaaS製品を開発し、普及していく中で今まで人が居住しなかった場所に住んでも問題なくオンラインで仕事ができるようになった場合、一層この傾向は強まると考えています。
光熱・水道
水道・光熱費もかなり根源的な資源をベースとしていますが、再生可能エネルギーのような新しい発電技術などで支出割合が減少する可能性はあるかもしれません。
交通・通信
住居の項目と同様の理由になりますが、交通費は人々が直接会わずにオンラインで人と会うことが増えることで長期的に支出割合が減少する可能性があるかと思います。
一方で通信費は人がインターネット上に滞在する時間が延びたり、動画や音声などのマルチメディアコンテンツのデータ量が増大したりすることで通信量が増加し、徐々に増えていく可能性が高いと考えています。
教育・教養娯楽
第1,2次産業から第3次産業への就労人口の変化からも分かる通り、支出割合は今後も最も伸び続ける項目だと思います。
特にゲームや動画などのエンタメコンテンツを中心とした支出は毎年増え続けており、Meta Earth社も少しでも寄与できればと考えています。
不等式が逆転するかもしれない他の可能性について
まず今回、引用した文献はあくまで日本国における消費支出の割合であって、海外にまで視野を向けるとそれぞれの項目の割合は異なります。
ただ世界全体で見ると日本はエンゲル係数が低い国と言えるため、人類全体の消費支出で再計算しても上記の不等号は逆転しないかと思います。
また今回は個人のみの消費支出しか計算に入れていませんでしたが、法人まで含めると結果が変わる可能性があります。
しかしながら現状のメタバース空間はエンタメコンテンツにより、ユーザーを誘引している段階であり、企業の参入は一部あるものの支出は全体的に見るとごくわずかといった状態です。
まとめ
今回はメタバース市場の経済的観点での課題について書いてみました。
本当は僕自身もこれらのデータについてあまり考えたくない気持ちではありましたが、数字をちゃんと分析することで実体以上の過熱感がある中で改めてメタバース市場を正しく認識することができたと思っています。
何よりも間違いなく言えることはメタバース市場は僕たちのようなIT系企業だけで持続性を持たせることはかなり厳しい状態であると言え、今後は食品業界や不動産業界、物流業界などの各業界の関係者様と協力することではじめて持続性を持って実現できるものだということです。
みんなで”本物のメタバース”を実現しましょう!
もし今回の記事が好評であれば、メタバース市場に関する技術的な課題や法的な課題などにも触れていければと考えています。
最後までご覧いただき有難うございます。
(途中、間違った部分やご指摘等があれば、Twitterアカウント:@Morishima_Kentoまでご連絡ください。)
追記:9月8日
映画はエンタメコンテンツとしての面白さや見ることでの楽しさを追及しているのであって、その世界観の持続可能性まで必ずしも考慮して作っている訳ではないはずです。
それゆえに僕らに夢と希望を与えてくれています。
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