恐れていた夢の怪獣対決!長生きはするもんだ『ウルトラマンアーク』 第9話 「さよなら、リン」
本稿はタイトルに記載された作品のネタバレを含む感想です。
事前情報をほとんど入れず、作品を見ただけで書いておりますので、多少の間違いは笑ってご容赦ください。
いやあ、今週も見応えのある作品でした。
今回の脚本は第5話「峠の海」に続いての登板となる根元歳三氏、監督は『THE NEXT GENERATION パトレイバー (2014)』に、辻󠄀本貴則監督、田口清隆監督とともに参加した湯浅弘章監督です。
今回は第4話「ただいま怪獣追跡チュウ」に続いてリンの主役エピソード。リンが理工系、SKIPを目指すまでの過去が深掘りされています。
そのリンの過去のキーマンとなるSKIP本部怪獣分析班怪獣細胞管理責任者(長い)・山神を演じたのが、ベテラン俳優・池田努氏。リン演じる水谷果穂氏との演技合戦は、ウルトラマンと怪獣の対決と並ぶ、いや、ある意味超えているかもしれない、今回最大の見どころです。
特に、水谷さんの演技のレベルがすごく高くて、ずっと見入ってしまいました。
・山神への接触、調査について、ヒロシ所長から「どうする?」と聞かれて受諾する時の声の震え方。
・ユウマと話す山神を見る表情の動き。
ラスト、「私は山上さんが・・・山神さんと一緒の時間が大好きでした」というセリフに、叶わなかった恋心が凝縮されています。
それに対し「忘れたよ、そんな昔の事」と嘘をついて去っていく山神。
リンの事を本心では認めていたのですね。
山神との別れの後、リンが流す涙は、彼女の少女時代との別れでもありました。
お話の構成も素晴らしかったです。リンの過去のインサートのみで、どうしてリンが機械工学を目指したか、SKIPに入ったか、ユピーを作ったのかがスッと入ってきます。ハイレベルな脚本と演出にトリハダが立ちました。
それにしても、山神が教鞭をとっている黒板の表記が
・南海トラフ→南洋トラフ
・対馬暖流→津嶋暖流
に変わっているのはなぜでしょう?
そういう作品世界だと言えばそれまでなのですが。
第5話といい今回といい、根元脚本のキャラクター掘り下げは最高にうまいです。
エピソードの発端、『怪獣細胞の流出』事件も、現代社会をうまく切り取っているなあと感心しました。
人間が怪獣を社会・経済活動に活かすという考えは古くから存在しています。
怪獣(もしくは恐竜)を興業資源とみなす考えは『The Lost World(1925)』『King Kong(1933)』と古くからあり、日本でも『獣人雪男(1955)』『モスラ(1961)』が有名です。
一方、怪獣を研究対象にするという考え方は、『ゴジラ(1954)』で既に登場しています(後述)。
『ウルトラマン80』の「悪魔博士の実験室」でも、宇宙生物ミューが、怪獣家畜化実験の被験体にされました。
これらに比べると、怪獣またはその細胞を「資源」と捉える考え方の登場はやや遅く、『ALIEN(1979)』が嚆矢かと思われます。
国内では、『ゴジラ対ビオランテ(1989)』で「G細胞」という概念が提唱され、その後の怪獣史に多大な影響を与えました。
ウルトラシリーズに目を向ければ、『ウルトラマンメビウス』のマケット怪獣、『ウルトラマンX』におけるサイバーカードの能力は、過去に出現した怪獣の分析データが元になっていました。
『ウルトラマンZ』でも、特空機2号・ウインダムを起動させる莫大な電力エネルギーを支えるバッテリーの開発に、ネロンガの電力増幅器官を解析・応用したシステムが使われました。
たまにD4とか、余計なものを作ることもあるのですが。
今回はさらに、『固有種・希少生物の違法取引』『国内育成農産物品種の海外への違法流出』を踏まえた味付けがなされ、さらに深みを増しています。
SKIPは日本政府立の法人なので、怪獣細胞の他国流出を良しとしていないのですね。
怪獣災害を悲劇に終わらせず、産業界への応用を含め、怪獣を資源として有効利用しようとする、わが国のしたたかさが垣間見えます。
そんな怪獣の研究には潤沢な資金も必要です。
しかし、山神はその研究資金がもっと必要だったと言います。
2021年の第一生命経済研究所による分析では、日本の科学研究開発費は主要国(日米独仏英中韓の7か国)中、米国、中国に次ぎ第3位の位置にあります。しかし、論文数はこの20年間で世界4位から13位に転落しており、日本の科学技術立国には暗雲が立ち込めています。
私も1995年から2018年まで国立大学医学部に籍を置いていましたが、研究資金の額は年々減額、企業との共同研究にも厳しい規制がかかっていくのを目の当たりにし、将来の医学研究に激しい危機感を覚えていました。
そんなわけで、山神の「資金が必要」の訴えには「そうだよね」と思います。
しかし、「将来子供たちが安心して暮らせる未来を作るために、今の多少の犠牲は止むをえない」との謎理論、違法に怪獣細胞を横流しして得る資金集めには1ミリも同意することはできないので、アウトです。
そうそう、『ゴジラ(1954)』の山根博士と尾形の会話、今回の山神とリンの会話に共通点があって面白かったです。
リンとユピーの関係の描き方も興味深かったです。
今回のエピソードで、ユピーはリンが憧れの人に認めてもらうためというより、山神との子供のつもりで作られたのではないかと思えました。
ビルの屋上で思い悩むリンに、声をかけられないユピー。
ラスト、泣いているリンに「リンのことが大好き、だから、だからね、リンには元気でいて欲しい」と叫ぶユピー。
悲しんでいる母親を見る子供そのものです。
そんなユピーの訴えに、涙を拭いて笑いかけるリン、少女から母親にクラスチェンジする瞬間の表情の変化がこのエピソードのクライマックスです。
ユピーを作る原動力となった、憧れの人への想いは過去のものとなってしまったけど、ユピーを作ったリンの気持ちには間違いはない、という彼女の強い意志を感じました。
これからも、リンとユピーはいい関係を続けていくのでしょう。
ここまで全く怪獣の事を書いていなかったのですが、特撮の見せ場もカロリー高めです。
冒頭のユピーによるネロンガ誘導は、『ウルトラマン』第9話「電光石火作戦」で、ハヤタがガボラを誘導したシーンに似ています。
第9話繋がりですね。
電気をしこたま食わせて過充電でダウンさせる発想もユニークです。
『シン・ウルトラマン』では送電が切られたことの逆張り、面白いですね。
また、公式が「ネロンガ、ガボラ、パゴス、マグラーの先祖(バラゴンだよね)が同じ」と言い切ったのも面白かったです。
『ウルトラマンメビウス』で新種の円盤生物・ロベルガーが生まれたように、今後、バラゴンの血脈を受け継ぐ別種の新怪獣が出てくれると嬉しいですね。
そして後半、覚醒したネロンガの上空に現れる金色の虹!
ユウマの「パゴスだ!」の入り方が絶妙でここもトリハダ。
現れるパゴス、全私が待ちわびた夢のタイトルマッチ、ネロンガとの対決が始まります。
パゴスの着ぐるみがネロンガと別物だったからこそ実現したこのカード。
四足怪獣同士の戦いは、ガメラシリーズではよくあるのですが、ウルトラでは記憶がありません。
ネロンガの電撃とパゴスの分子破壊光線の激突は、周囲に飛び火し、街に甚大な被害を引き起こします。
そこに登場するアーク。
夕焼けバックの戦いが昭和でいいですね。
二大怪獣の光線で両面焼きにされたアークですが、ソリスアーマーで光線を跳ね返しで形成逆転、アークアイソードからのクソデカギロチン巨大な光刃で二大怪獣をまとめて2枚おろしにしたのでした。
戦いが終わり、夕日に照らされるアーク=ユウマの胸には何が去来しているのか。
本編と重なる、余韻のある幕引きでした。
いかがだったでしょうか。
徹頭徹尾リンの魅力に迫った、素晴らしいエピソードでした。
復活怪獣の常連となったネロンガですが、前話のカネゴン同様、使い方でまだまだ魅力が引き出せるものですね。
そして来週は、『ウルトラマン80』からあの怪獣がまたまた復活!
四国の田舎よりエールを送ります。
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